朝起きたら、ギルドが崩壊してたんですけど?――捨てられギルドの再建物語

六倍酢

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第七章

その10

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「ほら行くにゃ」
 バスティがリリカのお尻を叩いて上層階に送り出す。

「バ、バスちーは?」
「うちはここで見守るにゃ、なんと言ってもうちは”太陽を掴む鷲”の守り猫だからな!」

 リリカには意味不明だったが、決意は伝わった。
「助けを呼んですぐに戻ってくるね!」と言って駆け出す。

 バスティには考えがある。
 ”太陽を掴む鷲”が出来た時に生誕し、ずっとこの団と一緒にいた。
 強い冒険者も弱い冒険者も、団の隆盛期も衰退も見守ってきた。

「強くなる子には共通点があるにゃ……守るべき存在があると爆発的な力を発揮するにゃ。アドラーもそう、きっとこの子もそう」

 足手まといならさっさと逃げた方が良い、だがバスティはキャルルの後方に居座った。
 もちろん最悪の場合は、キャルルを拾って逃げるつもり。

 しかし猫と冒険の女神には不思議な予感があった。
「今日が始まりになるにゃ、見届けてやらにゃいと。がんばれ若き冒険者」

 キャルルは、背中をバスティに向けていた。
「兄ちゃんは……何時もこんな感じだったのかぁ……」とだけ思う。

 強敵が現れた時、キャルルの前には何時もアドラーの背中があった。
 ここより先は絶対に進ませないと全力で主張する背中を、これまでは見つめるだけ。

 左隣に魔術師のアスラウ、その後ろからはバスティが見守る。
 小さなパーティのリーダーになったキャルルは、アスラウの「行け!」の合図で飛び出した。

 姿勢を低く、一直線にミノタウロスの懐へ。
 何処で拾ったのか、ミノタウロスは鉄製の大きな剣を持っていて、余裕を持って振り上げるがキャルルは減速しない。
 大剣が落ちてくる前にアスラウの魔法がキャルルを追い越して着弾する。

「魔法の炎に導かれてるみたいだ」とキャルルは思った。

 高い音を立てて、金属が擦れ合う。
 完璧なタイミングの援護を受けて先手をとったキャルルの剣を、ミノタウロスが受けた。

 二手三手と素早く繰り出されたエルフの宝剣が、分厚い魔物の皮膚を切り裂く。
 攻守が替わり、今度は大剣が無造作に左右に振られる。

 頭の上から襲ってくる攻撃は、人型の種族にとっては対処が難しいもの。
 両目は正面から下の作物や獲物を見つけるように出来ていて、腕を上げるという動作は前や横に突き出すよりもずっと複雑で疲れる。

 自分より大きなモノとは戦うな、逃げろと進化してきた結果である。

 だがキャルルは、今よりもずっと小さな頃から、自分より五割以上も背の高いオークと特訓してきた。
 ダルタスは誰よりも少年の相手をしてくれた。

 しかも当たれば即死する本気の斬撃を繰り出しておいて、避けきれぬと見ればぴたりと止める。
 それだけの技量があるオーク戦士と何年も訓練したキャルルにとって、ミノタウロスは戦える相手だった。

「うおおおおっ!」
 アスラウの制御された火炎魔法が牛頭魔人の背中を撃つと同時に、気合を入れたキャルルが頭上の大剣を弾き返した。

 短く息を吐き、二歩で加速して一気に脇の下を潜る。
 どれだけの衝撃を受けても決して欠けることのない長剣が、脇腹に深く食い込む。
 キャルルから半歩遅れて、長い刃がミノタウロスの体を通り過ぎた。

 初めての手応えのある一撃を入れ、キャルルは剣を握り直す。
「油断するなよ!」
「分かってる!」

 アスラウの警告に答えてから、再びミノタウロスに張り付く。
 この大物は、この程度で倒れたりはしない。

 参謀役のアスラウは、ミノタウロスだけでなく周囲も監視している。
 他の魔物の参戦を恐れていたが、強大な牛頭魔人の後を追ってくるものはいなかった。

 右手の杖を使って絶え間なく援護魔法を撃ち出しながら、アスラウは左手にも飛び切りの魔法を準備しておく。

「これは止めか、本気でやばいに使う用だがな」
 万全の準備をして、魔術師の少年はキャルルと息を合わせて敵を追い詰めていく。

 見つめるバスティのところへ、リリカが駆け下りて来た。
「なんで戻って来たにゃ!?」
 駆け出しのヒーラーは伝言が終われば、そのまま地上まで逃げるべきなのだ。

「えへっ。だってあーしも、このパーティの一員だし!」
 リリカは悪びれずに舌を出した。

「それで助けはどうしたにゃ?」
「それがねー上の層にも魔物が出てる。しかもいっぱい」

 ミノタウロスを避けた魔物が、別のルートで更に上層へと登っていた。
 これでは援軍は来ない。

「うむむ……いざとなったらうちが……」と、言ってみたもののバスティに戦闘力はない。
 その代わりに、全力で応援した。

「いけキャルル! ここが正念場だにゃ! うちがついてるにゃー!」
 女神直々の応援は、キャルルにも聞こえる。
 何故だが少し体の力が抜け、スピードが少し増した。

 必殺の一撃を繰り出すミノタウロスと、徐々にダメージを与え続ける二人の少年との戦いは続く……。


「すまん! 遅くなった……!」
 キャルル達の戦いを聞きつけたタックスが、手勢を引き連れてやって来た。
 一つ上の階層も大騒ぎだったが、タックスはこちらを優先した。

 到着まで十五分ほどで、並のC級とD級なら到底持ちこたえられない時が経っていた。

「遅かったにゃー」
 バスティが血まみれのキャルルを示す。

 ミノタウロスの張り手を一発貰って、額と顔を大きく切っていた。
 キャルルは気を失ったが、即座にリリカが気付けの魔法をかけ、その隙はアスラウが温存しておいた閃光爆裂魔法が埋めた。

 立ち止まったタックスが、あんぐりと口を開いてからいう。
「おいおい、嘘だろ。二人で勝っちまったのか?」

 左手と片目を失い、角も折れ腹を切り裂かれたミノタウロスが、ゆっくりと膝を付いて倒れ込んだ瞬間だった。

 肩で息をするキャルルとアスラウは、まだ警戒を解かない。
 牛頭魔人の体を構成するマナがじわりと滲み出て、ダンジョンに吸収され始める。

 迷宮の門番の最期だった。

「……お、終わりか?」
 まだ信じられないといった顔のキャルルが、剣先をミノタウロスに向けたまま聞いた。

「ふぅ……ああ、終わりだ。こうなればもう、動かない」
 ほぼ全てのマナが抜けきったのを見て、アスラウが断言した。

 時間をかけて剣から指を離したキャルルが右手をあげ、アスラウがそこへ右手をぽんと合わせた。
 初めての勝利のハイタッチ。

「お前、ボロボロじゃないか」
「お前だって魔力がもう空だろ」

 笑いあった二人に、バスティとリリカがタックルしてくる。

「や、やめてくれーもうふらふらなんだから」
 キャルルは戦闘員以外の二人を守りきり、ミノススレイヤーの称号を手に入れた。

 傷口を舐めるバスティと急ぎ回復魔法をかけるリリカの後に、タックスもやって来る。

「よくやった、と言いたいがダンジョンは戻るまでが冒険だ。この上も結構やばいぞ、二人とも走れるか?」

 頷いた二人を囲むようにして、一団はすぐに動き出す。
 すぐ上の広い空間は、中層の一番下にあたる。
 ここでは百人ほどの冒険者がまだ残って戦っていた。

「ボクはまだ動ける!」
 キャルルもここで踏ん張ることを選ぶ。

 タックスは反対したいが、それを許す状況ではない。
「今、上へ助けを呼びにいかせている。もうしばらくの辛抱だ」とだけ告げた。

 新人達のお守りにと、ここバルツの坑道後ダンジョンには10人のB級冒険者が来ていた。
 ミノタウロスの一頭や二頭、余裕で対処出来る戦力である。

 だが半分の五人が、強欲なダンジョンオーナーのシャイロックが細工したランク判定器でA級と診断されて入場拒否された。

 その五人をここへ呼んで来て、全隊の退却を助けるのだ。

「うん、頑張る!」
 キャルルは再び剣を、アスラウは杖を構える。
 二人は冒険者の中でも一目おかれるミノススレイヤーになった、ここでお先にと言う気などまったくない。

 しかし、防御陣形の一角があっさり崩れる。
「りゅ、竜だー!」と数人のルーキーが騒ぐ。

「そんなはずないだろ……ってタートルロードか。そりゃまずいな」
 冷静に見たアスラウが、巨大な甲羅を背負い、伸びた首から火を吐く魔物を見つける。
 防御力が高く、これも初心者殺しとして有名な魔物。

「ミ、ミ、ミ、ミノタウロスだあーっ!」
 次は別の方角から、見間違えようもない魔物の発見報告が来る。

「タックスのおっさん、これやばいぞ!」
「おっさんではない、お兄さんだ! だがまずいな、お前ら先に上に行け」

 アスラウの叫びに落ち着いて言い返したタックスの表情にも焦りが見える。

「平気だ、ここで食い止める! バスティとリリカは逃げろ!」
 キャルルの頭には最初に逃げ出すという考えはない。

「残りの魔力は二割ってとこか、一戦いけるな」
 アスラウも当然ながら、残って戦うことを選ぶ。

 だがしかし、勇気ある冒険者も大勢いたが恐怖に駆られた者も多かった。
 入り口に近いところに居た一隊が真っ先に逃げ出し、その後ろを魔物の群れが追いかけ、キャルル達六十人ほどが包囲される。

「……兄ちゃんなら、こんな時どうするかな。先頭に立って片付けちゃうか」
 なんとなくだったが、キャルルは何時もの背中を探して左右に頭を回し、それから見上げた。

 そして見た――ダンジョンの天井が赤熱して穴が開く瞬間を。

 自由落下よりも速く、白銀の物体がダンジョン中層へ一気に降りてくる。
 縦穴の壁に爪をかけ減速すると、二本の足で地面に降り立った。

 見た目は小柄な少女、だが頭にはまだ短い角とお尻からは白い尻尾、背中には別の少女を背負っている。

 白銀の少女は、悠然と辺りを見回し血まみれの包帯姿のキャルルを見つけ、ほっとしてから激怒した。

「よくもあたしの弟分をいじめたなっ!」

 ライデン市の冒険者は気付いた、これで助かったと。
 それ以外の冒険者も異常に気付く、取り囲んだ魔物の方が怯えていると。

 そしてキャルルは叫んだ。
「なに言ってんだ! 妹分はお前だろ、ブランカ!」

 本物の竜がやって来た。
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