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20話:劣等感

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 アランの発情は十日ほど続きようやく終わりを迎えた。
 毎日のように互いの体に触れ合っていたせいか、それからも僕たちの距離は近い。
 家に帰れば一緒に過ごすのは以前と変わらないけれど、まさか一緒に寝るようになるなんて……
 
 一緒に寝るようになったきっかけは、アランが時間差のホームシックにかかったのが一番の理由。
 発情期が終わったアランが真夜中に僕のベッドに寝ぼけて入ってきたのが始まりだった。
 朝起きて、僕のベッドで目を覚ましたアランは寂しかったのかなと申し訳なさそうに笑ったので、いつでも一緒に寝るよというとそれから毎晩僕の部屋にやってくる。

 シングルベッドに男二人で寝るは、狭いけれどアランが寂しくないのならそれが一番だ。
 それに……僕も一緒に眠れて嬉しかった。
 僕もホームシックになっちゃったのかなって、アランに話すと彼は優しく微笑んでくれる。

 優しさに甘えながら過ごしていくと、だんだんとアランのことが気になってくる。
 一緒にいれない時間は寂しいなって感じるし、笑顔を見せてくれるとすごく嬉しい。
 気がつけば、アランのことばかり考えていて……もしかして僕はアランのことが好き、なのかなって思った。
 
 だけど、その気持ちはダメなことも分かってる。
 アルファで優秀なアランと、チビで鈍臭いベータの僕。
 誰がどうみても釣り合わない。
 もしも……僕がベータじゃなければ少しは希望があったのかもしれない。
 アルファだったらアランの隣にいれたかもしれないし、オメガだったら……

 そう思い、発情した時に噛まれたうなじに触れると、胸がぎゅっとする。
 僕はその時初めて、『アルファ』と『オメガ』の特殊な関係性を羨ましく思った。



 いつもの日常に戻ったある日。
 買い物を終えて、寮に戻ろうとしていた帰り道に肩を掴まれ声をかけられる。
 
久貫くぬぎくん、ちょっといい?」

 聞き覚えのある特徴的なハスキーな声。
 後ろを振り返り、声をかけてきた人物を見て僕は思わず後ずさる。
 綺麗な黒髪をなびかせながら微笑みかけてくるのは、あのオメガの人だった。
 
「な、なんでしょうか……」

 持っていた買い物袋をぎゅっと握りしめて、オメガさんに問いかける。

「実は、アランくんのことで君に相談があるんだけど少し話せるかな?」
「アラン、のこと……。この前みたいに、物を渡すのはもう……」
「もうそれはいいよ。実は、その……アランくんは私の『運命の番』なんだけど、どうやら彼がその事実を受け入れるのを恐れているみたいなの」

ーーアランの運命の……番……?
 
 オメガの人は困ったように微笑みながら、話を続ける。

「この前、アランくんが私のヒートに当てられちゃって発情したのは……同室の君も知ってるよね? 本当は私がアランくんのことを受け止めてあげなきゃいけなかったんだけど、彼ったら初めて私の発情した姿を見て混乱しちゃって……。私を傷つけないように無理して離れてくれたみたいなの。ほら、アルファはオメガのフェロモンには抗えないでしょ? 意識を無くした状態でつがうのが嫌だったみたいで。それからも、私に近づくと本能が抑えきれなくなるのが怖いのか距離を置かれてて……。運命の番の特別なフェロモンに当てられちゃったせいで、アランくんの発情した期間も凄く長かったから、心配するのはよく分かるんだけど、いつかは事実に目を向けないといけないでしょ? だから、君が私たちの間を取り持ってくれると嬉しいなって」

 頬を赤く染め、照れた様子でアランとのことを話す姿に胸が締め付けられて痛くなる。
 僕はたまらず俯き視線を逸らす。

「ごめんね、久貫くん。ベータの君には分からないかもしれないけど、私たちアルファとオメガにとって『運命』には逆らえないんだ。運命に逆らうのって本当に辛いことなんだ……。だから、君が協力してくれれば、私たちは幸せになれるの。ねぇ、お願い……できるよね?」

 肩に手を置かれ、オメガさんの方に視線を向けると優しく微笑む。
 細身の体でスラリと伸びた手足。
 大きく澄んだ黒色の瞳。
 風にゆれる艶やかな黒髪を耳にかける仕草が儚げで、誰がみても『綺麗な人だ』と思うだろう。
 そして、アランの隣に並んだ姿を想像して……とてもお似合いな二人だと思った。
 また、俯いて僕はボソリと返事をする。

「……僕に……できることがあるなら」
「ほんと! ありがとう久貫くん。これで、アランくんもきっと幸せになれるから」

 笑顔で喜ぶ声に、僕の胸はズキズキと痛む。
 ぎゅっと唇を噛み締めて、アランが幸せになれるのならと胸の痛みに耐えた。
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