黒狼の可愛いおヨメさま

ろいず

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14章

狂った果実10

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 【刻狼亭】の料亭にある『製薬部隊』の製薬室。
運び込まれる医療用の【聖女】と【聖域】の血液の入った輸血瓶。
ありすと朱里のコツコツ貯めた血液が製薬部隊の責任者マグノリアとその部下達の手によって次々と特殊ポーションを生み出してゆく。

「旦那様、今日お休みじゃなかったんですか?」

 マグノリアの言葉にルーファスは「うぐっ」と言いながら目を糸目にして眉間にしわを寄せる。
大人しくしておきたいのに、思いついてしまった以上試さずにはいられなかった自分が恨めしい。関わらないで朱里と一緒に子供達の世話でもしながら【蜜籠り】の終わりの体調不慮を紛らわしたかった・・・が、そう出来なかったのは、物事を把握して管理しようとする群れのリーダーとしての狼の本能なのだから抗えない。

「そんな事よりも、特殊ポーションと【聖域の雫】は大量に用意出来そうか?」
「かなりの血液ストックがあるので大量に出来ますが、容器の問題で劣化も早いと思いますよ?」
「グリムレイン、【魔果】の成る木の場所はどのくらいの距離になる?日数は掛かりそうか?」
「我が氷で【聖域の雫】の時を停止させるから何ら問題は無い」

 グリムレインの言葉に頷き、マグノリア達製薬部隊は劣化の心配がないなら一気に作り上げようと作業のスピードを上げていく。

 既に【聖域】で【魔果】の効果が打ち消せるかを隔離しているニートライで試し、【聖域】で打ち消せる事から大量生産に踏み切ったのである。
今現在、ニートライは隔離中ではあるが落ち着きを取り戻し、今は自分がしてしまった事に対しての罪悪感と嫌悪感で心を痛めているので、落ち着くまでは隔離をすることになっている。


 今回作られる特殊ポーションは何らかの影響が出た場合に対処に応じた人間に飲ませる物で、【聖域の雫】は回復効果のないあくまで浄化のみ物を作っている。
回復効果まで付けてしまっては、【魔果】の成る木が回復して余計な力を付けてはたまらないという事から、作っている物だ。
名前が【聖域の雫】なのは考えるのが面倒だったので、エルフのティルカ・トルティーが付けた名前をそのまま使っている。
過去に朱里を竜人の国で傷つけたエルフとして【刻狼亭】では恨まれているが、朱里がティルカに助けられていたのもあって、蜘蛛の糸1本くらいで許されている。何かあれば直ぐに切れてしまうような付き合いである。
今はティルカは【女帝】ビビアットのパーティーメンバーとして余生を送っているが、ビビアット自体がテンに【恐怖】を植え付けられた為に温泉大陸に近寄らなくなったので、付き合いは薄い。

「旦那、今回のこれ特別手当出るんですか?」

 製薬部隊の下っ端3人組のロタルス、ウエイト、ピルマーが少し期待した目でルーファスを見つめ、マグノリアとテッチが「こいつら・・・」という目で見れば、ルーファスが「ふむ」と言いながら製薬部隊を見つめる。
マグノリアはいつも通りだが、テッチは少し気まずそうに、ロタルス、ウエイト、ピルマーは期待に満ちた目。

「お前等何か欲しい物でもあるのか?」

 ロタルス達がパッと目を輝かせて、テッチが3人に「コラお前等!」と小声で突いて、マグノリアはやはりいつも通り少し笑顔で眼鏡を上げている。

「ルーファスの旦那!新しい製薬室が欲しいです!」
「あと氷室と薬草園も拡大したいです!」
「ついでに機材も新しい最新のやつが欲しいです!」 

 口々に要望を出しす3人にテッチが「旦那気にしないで下さい!」と必死に止めている。
苦労人のテッチらしいが、テッチの目にも少しの期待があるのは見て取れる。

「そういう事なら要望書を出せば用意してやれるが」

 テッチが眉間にしわを寄せて3人を見てから口を開く。

「それが・・・要望を出し過ぎてシュテンさんに怒られたばかりでして・・・」
「なるほど、しかしまぁ・・・元々製薬部隊は人数が多いからな些か手狭にはなってきていたしな」
「いえ、でも俺達2室使ってますしね・・・」
「道具も結構古くなってきていたしな」
「いえ、でも女将が新しい瓶開発とかしてくれたおかげでそれなりに新しいのもあるんです」
「薬草園もアカリが色々植えて使わせてもらってるしな」
「その分、俺達も女将のハーブ使わせてもらっていますけど」

「「「テッチ!!テッチはどっちの味方してんの?!」」」

 ルーファスが言えばテッチが「いえいえ滅相も無い」と言わんばかりに返して行く為に、3人組がテッチにズイズイッと詰め寄っていく。
テッチとしては遠慮も必要だと思っている部分もあるし、今のままでもやれない事は無いとも思っている。

「まぁ、製薬部隊はここ数年随分と忙しくさせていたからな。検討して良い様になるようにしておこう」
「流石旦那様!」
「ルーファスの旦那、一番初めに新しい製薬室下さい!手狭で作業スペースが無いです!」
「ああ。解った。良い様にしてやるから、今は【聖域の雫】を完成させてくれ」
「「「直ちに!!!」」」

 嬉しそうに製薬部隊が手を動かし始め、マグノリアがうんうんと頷いて、テッチが申し訳なさそうな顔をして作業に戻っていく。

 そんな製薬部隊の活躍により、比較的早めに【聖域の雫】が完成し、大樽に詰め込みながらグリムレインが氷で時を止めて荷車に詰めていく。
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