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26章
ドラゴンマスター8
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ノース大陸の竜人の国、王城の玉座の間___。
巨大な黒い柱の並ぶどこか無機質な玉座には、年若い竜人の青年が座っている。
青い髪に黄色のメッシュが入った、彼はオーロラ・フルリュート。
二十年以上前と何の変化も無い、あの当時のまま、ただ服が少し王様らしく長い袖をした着物に似た服になったぐらいだろうか?
治療中の私を雪山の山小屋から無理やり連れだし、私の腕を剣で切り裂いて【聖域】の血を抜き取った男。
前・竜王の命令だったとはいえ、彼の顔を見ると治ったはずの腕が引き連れた様な気がして、指先が冷たくなっていく。
頑張ると決めたのに、キィンと耳鳴りがして声が遠くで聞こえる。
挨拶をする為に立ち上がったオーロラさんがこちらに近付いてくる。足がすくまないように冷たくなった両手をギュッと握りしめると、目の前に居たルーファスが歩き出し、オーロラさんと対峙した瞬間、殴り飛ばした。
「へっ!?」
私が間抜けな声を出すと、ルーファスは「これで勘弁しておいてやる」と吐き捨てた。
周りの兵士がザワついたものの、オーロラさんが床に膝をついて「申し訳、ありませんでした!!」と、謝ったものだから、兵士も動けずに様子を見るという感じだった。
戻ってきたルーファスは、鼻にしわを寄せて怒りを抑えているらしく、歯をギリッといわせていた。
「ルーファス! 何をしてるの!? 国際問題になったらどうするの!?」
ヒソヒソ声でルーファスに問い詰めると、ルーファスは「本来なら首と胴体を引き裂いているところだ」と、物騒な発言をした。
私の旦那様が、怖いことを言っているのだけど!?
私の頭を少しだけ撫でて、ルーファスは私に背を向ける。
「オレはずっと忘れたことは無い。あいつが、アカリの腕を切り裂いた事を」
「もしかして……私の為に?」
「オレの番に手を出した事を、オレが許すわけが無いだろう?」
暴力はいけない……と、いつもなら言うけど、私のルーファスはこうでなくっちゃ! 私が惚れた旦那様は、温泉大陸の【刻狼亭】で、あの荒くれた従業員達をまとめ上げてきた人なんだからね。
「ルーファス」
「なんだ? 言っておくが、オレは例えアカリに怒られても、奴に謝る気は無いからな」
「ふふっ。……惚れ直しちゃいそうです」
「!!」
バッと振り返るルーファスに、笑顔で親指を立てる。
ルーファスが嬉しそうな顔になって私を抱きしめようとするのを、グリムレインが「婿は前を向け」とルーファスの前に手を出す。
チッと舌打ちをしつつ前を向いたルーファスの尻尾は、フリフリと左右に忙しなく揺れていて、感情は駄々洩れ状態である。
再びルーファスがオーロラさんと話をし出したけど、心は落ち着いていた。
我ながら単純ではあるけれど、ルーファスが守ってくれて、周りにはドラゴンが付いていてくれるのに、脅える必要なんか無かった。
私はもっと怖いものと色々対峙してきたのだから、あの頃の私は何もできない非力な子供でしかなかった。でも今は違う。魔法も使えるようになったし、怪我も病気も治るヒドラのクリスタルが体内にある。
きっと、竜人に負けはしないだろう。
魔法にしても、心の強さも。
「ふぅ……」
「大丈夫? 主様」
エデンに服の袖をクイクイと引っ張られて、私は頷く。
そして、落ち着いて竜人族の人達を見れば、どこか疲れ切ったような顔をしている気がする。
やつれているというか……元気が無さそうな感じかな?
「そういえば、瘴気は無くなっていない様だな」
ルーファスが蛍光緑に光る人々を連れて来てもらう間に、雑談のように頬を氷袋で冷やすオーロラさんに話し掛ける。実は、オーロラさんの顔がみるみるうちに腫れ上がって、ルーファスはどれだけ全力で殴ったのやらである。
「瘴気の沼を清浄しようにも、ビビアット・キルティが『聖域の雫』の値を去年の倍額で要求してきて……我々にはもう余分な予算は無く、皆出稼ぎに出ている有様です」
「成程な。【女帝】はまだ持っていたのか」
「どうも最後の一本らしく、最期の荒稼ぎという感じで……」
うわぁー……ビビアットさんえげつない!! もしかして二十年以上もここの人達は、ビビアットさんの金づるになっていたのだろうか? だとしたら、少し同情してしまうかも……ご愁傷様です。
「厚かましいお願いなのですが……またミノンの力をお借りする事は出来ないでしょうか?」
「何を言っている? ミノンは死んだ。この竜人の国の沼地に沈んだんだ」
「はい……そう、ですよね」
助けてあげたい……と、思う気持ちはある。
十八歳の頃に受けた仕打ちを、私は許せるだろうか? 死ぬ思いをさせられた。でも、生きているし、救える方法があるのに、救わないのは人としてどうだろうか?
色々な事が起きても、私は十分幸せに暮らしている。
ほんの少し、竜人の国の人達にも私の幸せを分けてあげるべき……かな?
巨大な黒い柱の並ぶどこか無機質な玉座には、年若い竜人の青年が座っている。
青い髪に黄色のメッシュが入った、彼はオーロラ・フルリュート。
二十年以上前と何の変化も無い、あの当時のまま、ただ服が少し王様らしく長い袖をした着物に似た服になったぐらいだろうか?
治療中の私を雪山の山小屋から無理やり連れだし、私の腕を剣で切り裂いて【聖域】の血を抜き取った男。
前・竜王の命令だったとはいえ、彼の顔を見ると治ったはずの腕が引き連れた様な気がして、指先が冷たくなっていく。
頑張ると決めたのに、キィンと耳鳴りがして声が遠くで聞こえる。
挨拶をする為に立ち上がったオーロラさんがこちらに近付いてくる。足がすくまないように冷たくなった両手をギュッと握りしめると、目の前に居たルーファスが歩き出し、オーロラさんと対峙した瞬間、殴り飛ばした。
「へっ!?」
私が間抜けな声を出すと、ルーファスは「これで勘弁しておいてやる」と吐き捨てた。
周りの兵士がザワついたものの、オーロラさんが床に膝をついて「申し訳、ありませんでした!!」と、謝ったものだから、兵士も動けずに様子を見るという感じだった。
戻ってきたルーファスは、鼻にしわを寄せて怒りを抑えているらしく、歯をギリッといわせていた。
「ルーファス! 何をしてるの!? 国際問題になったらどうするの!?」
ヒソヒソ声でルーファスに問い詰めると、ルーファスは「本来なら首と胴体を引き裂いているところだ」と、物騒な発言をした。
私の旦那様が、怖いことを言っているのだけど!?
私の頭を少しだけ撫でて、ルーファスは私に背を向ける。
「オレはずっと忘れたことは無い。あいつが、アカリの腕を切り裂いた事を」
「もしかして……私の為に?」
「オレの番に手を出した事を、オレが許すわけが無いだろう?」
暴力はいけない……と、いつもなら言うけど、私のルーファスはこうでなくっちゃ! 私が惚れた旦那様は、温泉大陸の【刻狼亭】で、あの荒くれた従業員達をまとめ上げてきた人なんだからね。
「ルーファス」
「なんだ? 言っておくが、オレは例えアカリに怒られても、奴に謝る気は無いからな」
「ふふっ。……惚れ直しちゃいそうです」
「!!」
バッと振り返るルーファスに、笑顔で親指を立てる。
ルーファスが嬉しそうな顔になって私を抱きしめようとするのを、グリムレインが「婿は前を向け」とルーファスの前に手を出す。
チッと舌打ちをしつつ前を向いたルーファスの尻尾は、フリフリと左右に忙しなく揺れていて、感情は駄々洩れ状態である。
再びルーファスがオーロラさんと話をし出したけど、心は落ち着いていた。
我ながら単純ではあるけれど、ルーファスが守ってくれて、周りにはドラゴンが付いていてくれるのに、脅える必要なんか無かった。
私はもっと怖いものと色々対峙してきたのだから、あの頃の私は何もできない非力な子供でしかなかった。でも今は違う。魔法も使えるようになったし、怪我も病気も治るヒドラのクリスタルが体内にある。
きっと、竜人に負けはしないだろう。
魔法にしても、心の強さも。
「ふぅ……」
「大丈夫? 主様」
エデンに服の袖をクイクイと引っ張られて、私は頷く。
そして、落ち着いて竜人族の人達を見れば、どこか疲れ切ったような顔をしている気がする。
やつれているというか……元気が無さそうな感じかな?
「そういえば、瘴気は無くなっていない様だな」
ルーファスが蛍光緑に光る人々を連れて来てもらう間に、雑談のように頬を氷袋で冷やすオーロラさんに話し掛ける。実は、オーロラさんの顔がみるみるうちに腫れ上がって、ルーファスはどれだけ全力で殴ったのやらである。
「瘴気の沼を清浄しようにも、ビビアット・キルティが『聖域の雫』の値を去年の倍額で要求してきて……我々にはもう余分な予算は無く、皆出稼ぎに出ている有様です」
「成程な。【女帝】はまだ持っていたのか」
「どうも最後の一本らしく、最期の荒稼ぎという感じで……」
うわぁー……ビビアットさんえげつない!! もしかして二十年以上もここの人達は、ビビアットさんの金づるになっていたのだろうか? だとしたら、少し同情してしまうかも……ご愁傷様です。
「厚かましいお願いなのですが……またミノンの力をお借りする事は出来ないでしょうか?」
「何を言っている? ミノンは死んだ。この竜人の国の沼地に沈んだんだ」
「はい……そう、ですよね」
助けてあげたい……と、思う気持ちはある。
十八歳の頃に受けた仕打ちを、私は許せるだろうか? 死ぬ思いをさせられた。でも、生きているし、救える方法があるのに、救わないのは人としてどうだろうか?
色々な事が起きても、私は十分幸せに暮らしている。
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