あなたの愛人、もう辞めます

abang

文字の大きさ
4 / 29

甘いお酒と苦い思い出

しおりを挟む

あのまま、馬車に乗って暫く夜の街を走った。


私が「夜の街を見るのは初めて」だと言うと彼は「そうだと思いました」と笑ったからだ。


結果、私は多分お酒には強かった。


くすねて来たと言うウイスキーボトルを二人で空けたけれど、私はあの令嬢のようにぐったりしなかったし、彼は狼では無かった。


いつもよりふわふわとした頭につけ込む訳でもなく、ただ上着を貸してくれて邸の裏まで送ってくれただけだったから。


「私達、良い友人になれますか?」

「貴女が望むなら、喜んで」


最後まで紳士的な人だったなと、もし次に会えたら私がご馳走する事を約束してさよならをした。


「おはようございます、お嬢様!」

「キャシー、やけに元気ね」

「お嬢様が男性の上着を持って帰ってくるなんて!」

「ただの友人よ」

「ふふ、分かってますよ。旦那様には秘密で綺麗にしておきますねぇ」

(全然、分かってないじゃない……)



それでも、私がカルヴィンの元へ会いに行く支度をしている時に鏡越しにみるいつものキャシーの表情よりは数倍、今のキャシーの表情が好きだと感じた。


「キャシー」

「はい、お嬢様」

「いつもありがとう。心配かけてごめんね」

「ーっ、そんな!勿体無いお言葉ですっ」


涙を浮かべて、とびきりの笑顔をくれたキャシーに私までつられて笑顔になった。姉のようにも思ってきた彼女の笑顔に幸せな気分になった。




身支度を終える頃、廊下の方が慌ただしくなってキャシーと顔を見合わせる。


「困ります!伯爵様!」

「お通しできかねます!」


「煩い、通せ」


不躾に扉を開いたのはカルヴィンだった。


「なんで来たの……?」

「昨日のアレはなんだ」


「お父様とお母様は知ってるの?」

「幼馴染だぞ?快く通してくれたさ」

「……帰って頂戴」



私を守るように立ちはだかったキャシーの腕を掴んで扉の向こうに投げつけると部屋の鍵を閉めたカルヴィンは私に近寄って来た。




「何故、手紙に返事をしない?」

「堂々と不貞を働くつもり?」


「なら何故、贈り物を受け取らない?」

「受け取ってるわよ」

「金に換えてるのも知ってる」


「何故昨日はあんな所に居た?」

「何故駄目なの?」



カルヴィンは苛立ったように私を抱き上げると乱暴にソファに降ろして覆い被さった。


「やめて!離してカル!!!」

「何故黒ばかり着る?あの人がそんなに良かったか?」

「意味が分からないわ、やめて頂戴!!」

「あの人は、不能な筈だぞ」


そう言って私の首元に噛みついたカルヴィンがドレスをたくし上げた所でキャシーが合鍵を取ってきたようで騎士達と扉を開けて入って来る。



「チッ」

「もう会いに来ないで」

「こんなに欲しがってるのに?」

「だとしても、相手は貴方じゃないわ」



こんなにも怒った顔を見たのは初めてだと冷静に考える。

カルヴィンは確かに妻を大切にしているし、していた筈だ。


私はいわばお気に入りの玩具程度のものだったはず。

しかも昔から持っている飽きのまわった玩具だった。



人が集まって来たおかげで、私から離れて帰って行くカルヴィンの背中を見てふと「何で好きだったんだろう」と思った。



あんなにも愛した人が、こんなにも身勝手で酷い男だったなんて、カルヴィンのおかげで伝線したストッキングを眺めながらぼんやりと考える。


「リベルテ」

「なに……」

「お前は私のモノだ、手放す気は無い」

「もう遅いわ」

「言ってろ」


絶対に思い通りになんてならない。



「じゃあ、どうしてあの子を選んだの?」と言う言葉は飲み込んだ。何故かもう今はそんな事どうだって良い気がしたから。




しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。 ※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡

処理中です...