あなたの嫉妬なんて知らない

abang

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第六話 横暴

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「ダリア嬢、宜しければ今夜の晩餐にお誘いしたいのですが」


そう言ったヨハンの顔は人の良い笑みに少しの緊張が感じられて、それがより一層好感を持たせたがダリアの頭の中では、遥か前に同じように緊張の色が浮かぶ表情で下手くそにはにかんで「貴女ともっと居たい」と、

考えた末に気の利いた言い訳が見つからなくて、真っ直ぐにぶつけてきたアスターのことを思い出してしまっていた。


あのとき同様、ダリアはくすりと笑った。

けれどやっぱりまだアスター以外の男性と多くの時間を過ごすには早いのかもしれないと、アスターの事ばかり思い出す失礼な自らの脳内を恨んだ。



その矢先だった。

「今日は貸切となっておりますので……っ」


店員の焦ったような声が遠くに聞こえて、ヨハンと一瞬目を合わせた後に扉の方を何となく見た。


「何かあったのでしょうか?」

ヨハンもまた扉の方に顔を向けて首を傾げたが、静かに戻った外の様子に気のせいだったのだろうかとお茶に視線を戻した。


その時、扉が無遠慮に開いてそのような事をする無礼者の顔を見てやろうと視線を上げると見慣れた銀髪が光って、それよりももっとギラリと輝く碧眼に睨みつけられた。



「陛下……」


「こっ皇帝陛下!?」


「何だ、先客がいたのか。すまないな」



長い付き合いだ、表情で分かる彼の嘘を暴いては余計に面倒ごとになる気がして「いえ」と目を逸らしたダリアに近づいて髪を一房取り口付けたアスターは妙に色を含んだ瞳で目の合わないダリアを見つめた。


「えらく他人行儀だな」


「今日は貸切だと伺いましたが、……ウィルキルス侯爵様」


「はい、イブリア嬢。陛下、申し訳ありませんが……」


「ん?ダリア……このハーブは苦手だった筈では?」


(こんなの少し避ければいいのに、態々何だというの)


見せつけるようにダリアの髪を片方に流すと店員に「ミルクを」と伝えて持ってきたミルクを紅茶に入れた。


「ミルクティーが一番好きだった」


「今もそうとは限りませんが」


「ーっダリア」


「今日はとお茶をしてるの。帰って」


「無関係な子息を愛称で呼ぶな、誤解を招くぞ」


「構わなくってよ。なので帰って下さいそれに……陛下のお陰で私の好みはヨハン様に伝わったようですわ」


「ーっ!ダリア、どう言うつもりだ」


「どうも何も、会っただけですよね?」


ツンとしたダリアの様子にヨハンは何故か、彼女が無理をしているように見えた。

(気のせいか?二人は終わったと……)


「だが……っ!」


「ヨハン様、申し訳ありません……晩餐はまたの機会にして頂けますか?」



「あ……はい!また、会って頂けるのですね」


「そんな、それはこちらの台詞です」


そう言って穏やかに微笑んだダリアの微笑みは昔緊張してぎごちなくダリアをエスコートした幼い自分に向けたものに似ていて、カッと熱くなった。



(これも、俺のだ!……ダリア何故去ろうとするんだ)


喧嘩など何度もして来たし、それこそお互いに傷つけ合う事もあった。


けれどもそのたびに仕方なさそうに「アスター、仲直りしよう」と視線を合わせずにいうダリアに救われて来た。


執事長の言葉はいつも耳が痛かった。


執事長の言うとはダリアと国務以外のものを指している。


基本的に、常に身近に置く人材は最小限にしているのも人が多い所を好まないからと言う事もあるが、秘密事項が多い身近な執務は最小限で行うのがアスターのやり方だった。


今は出張に出ている秘書長と、秘書官がひとり、執事長と侍従、メイドは二人ほどを常に連れているがダリアがその内の秘書官とウマが合わない事は知っていた。


確かに煩わしい上に無礼な時もあるが、大抵がコネで入宮し数だけ居る他の者達に比べれば仕事に関しては彼女は有能だった。

彼女を秘書室へ戻す事は容易だが、代わりに同じだけ有能な者を一握りから見定め引き入れる時間が必要だった。


侍従がよく言う「女心」なんてものは分からない。

ずっとダリアだけが女神ミューズだったから、他の者を女性として見たことがないのだから、勿論他の恋をした事もなく例題がない。



どこの家門の何番目の子か、どの位置付けの人間か、後は仕事に必要な情報だけを切り取って覚えるから勿論名前など知らない。


自分にとって秘書官はその程度で、仕事さえこなせば特に気にはしていなかったが近ごろダリアはその所為で離れたのだと噂が出ていて少し気になった。


考え込んでいると、席を立つダリアから優しくて甘い香りがふわりとして我に返ったものの彼女はまるで愛など冷めたかのような視線で、


「では、失礼致します陛下」



と、まるで今まで過ごした時間が俺の妄想だったのではないかと思うほどあっさりと他人行儀に去って行く。



「ダリア……っ、待って……頼む」



咄嗟に掴んだ腕は細くて折れてしまってはいけないと力を入れる事が出来ない。振り払われた手は行き場がなくなって彷徨った末ぎゅっと握った。



気を遣ったのかヨハンは礼儀正しく、適当な距離をとってダリアをエスコートしていたが他の男と去っていくダリアを見るだけで心が潰れてしまいそうで苦しかった。


(どうしたら、貴女を取り戻せる?)










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