あなたの嫉妬なんて知らない

abang

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第七話 魅惑

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近頃、どの社交会の華よりも美しいと噂になっているのは、皇帝の元婚約者であるダリア・ルチルオーブ公爵令嬢だ。

名実共に公爵家の長子として有能でありながら、類い稀な美貌を持つダリア嬢は嫌味がなく気さく、けれども高貴な方だ。


今日の夜会でも勿論、あわよくば彼女とお近づきになりたいと思っている子息や令嬢は多いはずだ。


皇帝陛下もまた婚約者との破局の噂のせいで多くの令嬢達が次の皇后候補になる為に目を光らせて彼を囲んでいる。



彼女の名が呼ばれ、入場の合図と共に目を引くシャンパンゴールドのドレスは今までのダリア・ルチルオーブのイメージを更に変える豪華で華やかな装いに会場が湧いた。


けれども、それは何もドレスや彼女の美貌だけの問題ではなく彼女のパートナーが皇帝陛下ではなく、シオン・コリウス小公爵だったからだ。


彼女達の家門……所謂ルチルオーブ公爵夫妻もコリウス公爵夫妻も特に驚いた様子も気にした様子も無く今日の事はのだとそれが皆の余計に興味を駆り立てた。


「おい……やっぱり陛下とダリア様は……」

「シオン卿だって?なんでだ?」

「お二人は元々幼馴染で親友だと聞いたわっ」


何故だ?あーではないか?こうではないか?と会場は声を顰めながらも三人の話題だけが飛び交う。

仲睦まじく笑い合う二人は特にそれを気にする様子も無く、恐る恐る覗き見た皇帝陛下の表情は読み取れ無かったがどことなく悲しそうにも見えた。

夜会は何事も無かったように時間を刻んでいるが、遅れて入場したカルミア・ルーフェス伯爵令嬢によってその辛うじて平穏を装っている空気がぶち壊される。



「皇帝陛下にご挨拶申し上げます」そう言って挨拶を始めたカルミアに特に変わった様子は無かったが何処か皇帝の装いに似たような、似ていないような黒のドレスはどこにでもあるドレスだと言われればそうだし、皇帝と合わせたのだと言われればそうも思える絶妙なデザインだった。



ヒソヒソと皇帝とカルミアの噂を疑う声が飛び交い皆の視線が四人に注がれる。




「あれ?ダリア様はどうやら別の方と来られたようですね」

「お前が気にする事ではない」

「酷いです陛下、私は仕事ばかりで踊って下さるパートナーも居ませんのに」

「勝手に踊れ」

「私と踊って下さい陛下。陛下の所為でもあるのですから」

「断る」


そう言ってカルミアと興味なさそうに目も合わせないアスターに苛立ってカルミアが強引に手を取った時、ザワリと皆が反応を示す。



「何て無礼な、何の話をしているんだ?」


「大丈夫ですか、ダリア嬢?」



「ええ……私にはもう関係ありませんので」

「ダリア……外に出よう」


ジクリと胸がいたむ。人差しと親指で挟んでひとつまみずつ千切り取られていくような感覚だった。


(胸というよりは心ね……アスターの隣にも私の隣にもお互い以外の者が居ることなんて考えた事が無かった)


思わず見ないように瞳を伏せた時、手首を掴む熱い手の感触がした。


アスターではないのだとすぐに分かった。


彼はどんな時も感情を抑えるように、まるで硝子でも触るようにダリアに触れるからだ。ぎゅっと熱を持った感情的なけれども決して痛くない握り方はシオンによるものだとすぐに理解できた。


「うん」

「行こう」

シオンがあまりに深刻な表情で見つめるのでなんだか可笑しくてダリアは少し笑った。



「シオンがこんなにも優しいと知ったら、令嬢達はますます貴方に夢中にらなるわね」


(ダリアにだけだよ)


「無理ばっかすんなよ」


人気のない所まで来たはずなのに、皇宮のどの場所にもアスターとの思い出があってダリアは落ち着かなかった。


視界が滲んで、それが溢れないように堪える。


シオンのに腕を引かれて彼に近づくと、彼の手が後頭部に添えられてシオンの胸にぶつかった。


「シオン」


「いいよ、泣き疲れたら帰ろう」


「ダリア……っ!」


足音の静かな、けれどもその声は焦燥感を感じる。

聞き慣れた低い声にぴくりとダリアの肩は揺れた。


シオンはダリアを胸に閉じ込めるように、彼女のプライドを守る為に涙を隠した。



「何をしているんだ…………?」

二人の格好を見て、軽く目を見開くアスターの傷ついた表情にシオンは一瞬何とも言えない気分になる。


(それでも、ダリアは傷ついているんだ)


渡すもんかとぎゅっとダリアを抱きしめたシオンは隙間から見えたダリアの表情に思わず力を緩めた。


けれど、ダリアは振り向くこと無く震える声でアスターに言い放った。



「見ての通りよ、だから行ってアスター」

(あなたの本当に好きな人の所へ……)



アスターも、シオンも……彼女の強がりにはすぐに気づいた。


思わず目が合ったアスターとシオンだったが反らせずに居た。



あまりにも切なくて、悲しみを帯びたダリアの声を聞くだけで胸が苦しくなって、どうしたら穏やかな優しい声に戻せるのかこの瞬間だけは思いつかなかったから。



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