あなたの嫉妬なんて知らない

abang

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第十三話 利用

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ルチルオーブ公爵家を訪ねたのは、シオンだった。


一連の噂は、シオンの耳にも届き彼はダリアが心配になった。


使いの者を送って、訪問したいと伝えると「幼馴染だというのに、今更何を改るの」と気軽な返事が返ってきた。


確かに妹同士が頻繁に行き来している上に、ルチルオーブとコリウスは何かと同じになる事が多くシオンも後継者としてよく父に付いてルチルオーブに来ては空いた時間でダリアとよく遊んでいたものだった。


その上、今でも父のお使いでよくルチルオーブには訪問している。
口実ならば沢山あるはずなのに、何故かダリアへと筆をとっていた。

"急ですまない、明日君を訪ねてもいいかな?"


短い文章だったが、少しでもダリアの気が紛れれば、彼女は一人で泣いていないかと強い女性なので不要だと分かっていても心配が募った。


あの皇帝がこのままダリアを放っておくとは考えられないものの、彼は昔から少し子供っぽい所がある、というかどこか抜けているのだ。


人の感情に鈍く、皇帝ゆえか大抵の人には一定以上の興味を持たない。

彼の性格上、特に女性に興味が無いと大して学んで来なかったのだろう。

それがダリアを傷つける結果になるとも知らずに。




(まぁ、僕はかえって遊び過ぎだと叱られるべきかな)




けれども一線を越えた事がないのはやっぱりダリアが忘れられなかったからだろう。女性との付き合いも長くは続かず婚約者には誰もなった事がない。



そんな自分だからこそ、止り木くらいにはなってやれるだろう。

もしそれで自分を少しでも愛してくれたのなら、僕を選んで欲しい。

そう言う下心も勿論あるが一番はダリアをひとりにしたく無かった。




迎え入れてくれたダリアはいつもと全く変わらずに、凛として背筋を綺麗に伸ばして「ようこそ」と微笑んだ。


「ダリア、心配したよ」

「ふふ、大丈夫よ。忘れたの?私が誰なのかを」

「そういう勝気な所も僕は好きだ」

「また、揶揄うんだから」



眉を顰めて言う君は知らない。ずっと、ずっと君を僕が好きなことを。


皇帝の婚約者だという意味を理解した時、酷く傷つき落ち込んだのを。



でも、誰よりも君の幸せを願っているんだ。


あわよくば僕を選んで欲しいけど、そうじゃなくても僕はきっと君が幸せだと言ってくれるだけで満足する。




それでも、口をついて出た言葉は全く違うものだった。


「ダリア、僕を選んでよ」


「シオン……?」



意図を探るような瞳と、意味を尋ねるように傾げた首は僕を全く男として意識していないのだと物語っているがそれでももう後に引けなかった。




「傷付いてるダリアが心配だし、僕はずっと君が好きだ」


「そんな、全然気づかなかった……」


「気付かれないようにしてたから……せめて幼馴染として隣に居ようとしたんだ。けれど見ていられないんだ。僕なら君を傷つけない」



「シオン、私は……」


「ただ傍に居させて欲しい。僕にチャンスを頂戴、ダリア」



「駄目よ、貴方を傷つけてしまうわ」


「僕を利用すれば良い。もし僕を選ばなくても、気にしなくていい。僕は幼馴染でも知り合いでもどんな立場でも勝手に君の味方でいるから」




シオンの瞳があまりにも真っ直ぐで、ダリアはどきりとした。


それは決して恋心からくるときめきでは無いが、目の前の幼馴染が今日は初めて男性に見えた。



それでもアスターを想いながら、彼を利用するなんてやり方は絶対に嫌で、もし彼を自然に愛せるようになればもう傷つくことはなく幸せになれるのだろうかとさえ思ってしまった。けれど、


「だめ、もし叶うならちゃんと忘れたいの。何をしていても思い浮かべてしまうあの人をちゃんと塗り替えていける恋がしたいの」



「なら、僕がきっと塗り替えていくよ」


「貴方をそんな風に見たことなんて……」


「多くは望まない、傍にいることを許して……それでも僕では駄目なら大人しくするからさ」


そう言って、ダリアを気負わせないように眉尻を下げて笑ったシオンの優しさに多くの女性が凭れてしまいそうになるだろうと思った。

怖がらせないようにか、いつもより少し離れた位置に立つ彼の気遣いがくすぐったかった。


それでもやはり、ダリアの答えはノーだったがその日からは二人の姿がよく見られるようになった。


シオンは女遊びをやめて、ダリアの失恋に付き合うと彼女のそばを他の誰にも渡さぬように彼女が一人で泣いてしまわぬように守っているのだった。




そんな噂はすぐに皇宮にも届き、ひどい後悔の念に苛まれているアスターだったが、未だ嫉妬の勢いで口を衝いて出た彼女への侮辱の言葉への謝罪すらできていない自分が歯痒くて、情けなかった。


カルミアはルーカスが戻ってから暫く大人しい上に彼のさりげない牽制が効果を成しているのか、最低限の接触は無くその存在すらうっかり忘れてしまいそうになるほどだった。


ダリアに言っては呆れられるだろうが、元々は身分から友人の少ない彼女にきちんと教育された歳の近い同性の気安く話せる秘書官をつけてやりたくて女性秘書官の教育を始めた事だったが、


忙しさにかまけて、当初の目的を見失いいいようにされていた。

皇帝としてあるまじき失態を恥じ、ダリアに合わせる顔が無かった。




先日ルーカスとマルコスから聞いたとある茶会の件を調べた結果、

まずは、きちんとはっきりさせておくべき事があるのだ。


(今は嫉妬や後悔に振り回されている場合ではない)



「カルミアを呼んでくれ。ルーカス、マルコス同席してくれ」


「「はい、陛下」」








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