13 / 27
第十三話 利用
しおりを挟むルチルオーブ公爵家を訪ねたのは、シオンだった。
一連の噂は、シオンの耳にも届き彼はダリアが心配になった。
使いの者を送って、訪問したいと伝えると「幼馴染だというのに、今更何を改るの」と気軽な返事が返ってきた。
確かに妹同士が頻繁に行き来している上に、ルチルオーブとコリウスは何かと同じになる事が多くシオンも後継者としてよく父に付いてルチルオーブに来ては空いた時間でダリアとよく遊んでいたものだった。
その上、今でも父のお使いでよくルチルオーブには訪問している。
口実ならば沢山あるはずなのに、何故かダリアへと筆をとっていた。
"急ですまない、明日君を訪ねてもいいかな?"
短い文章だったが、少しでもダリアの気が紛れれば、彼女は一人で泣いていないかと強い女性なので不要だと分かっていても心配が募った。
あの皇帝がこのままダリアを放っておくとは考えられないものの、彼は昔から少し子供っぽい所がある、というかどこか抜けているのだ。
人の感情に鈍く、皇帝ゆえか大抵の人には一定以上の興味を持たない。
彼の性格上、特に女性に興味が無いと大して学んで来なかったのだろう。
それがダリアを傷つける結果になるとも知らずに。
(まぁ、僕はかえって遊び過ぎだと叱られるべきかな)
けれども一線を越えた事がないのはやっぱりダリアが忘れられなかったからだろう。女性との付き合いも長くは続かず婚約者には誰もなった事がない。
そんな自分だからこそ、止り木くらいにはなってやれるだろう。
もしそれで自分を少しでも愛してくれたのなら、僕を選んで欲しい。
そう言う下心も勿論あるが一番はダリアをひとりにしたく無かった。
迎え入れてくれたダリアはいつもと全く変わらずに、凛として背筋を綺麗に伸ばして「ようこそ」と微笑んだ。
「ダリア、心配したよ」
「ふふ、大丈夫よ。忘れたの?私が誰なのかを」
「そういう勝気な所も僕は好きだ」
「また、揶揄うんだから」
眉を顰めて言う君は知らない。ずっと、ずっと君を僕が好きなことを。
皇帝の婚約者だという意味を理解した時、酷く傷つき落ち込んだのを。
でも、誰よりも君の幸せを願っているんだ。
あわよくば僕を選んで欲しいけど、そうじゃなくても僕はきっと君が幸せだと言ってくれるだけで満足する。
それでも、口をついて出た言葉は全く違うものだった。
「ダリア、僕を選んでよ」
「シオン……?」
意図を探るような瞳と、意味を尋ねるように傾げた首は僕を全く男として意識していないのだと物語っているがそれでももう後に引けなかった。
「傷付いてるダリアが心配だし、僕はずっと君が好きだ」
「そんな、全然気づかなかった……」
「気付かれないようにしてたから……せめて幼馴染として隣に居ようとしたんだ。けれど見ていられないんだ。僕なら君を傷つけない」
「シオン、私は……」
「ただ傍に居させて欲しい。僕にチャンスを頂戴、ダリア」
「駄目よ、貴方を傷つけてしまうわ」
「僕を利用すれば良い。もし僕を選ばなくても、気にしなくていい。僕は幼馴染でも知り合いでもどんな立場でも勝手に君の味方でいるから」
シオンの瞳があまりにも真っ直ぐで、ダリアはどきりとした。
それは決して恋心からくるときめきでは無いが、目の前の幼馴染が今日は初めて男性に見えた。
それでもアスターを想いながら、彼を利用するなんてやり方は絶対に嫌で、もし彼を自然に愛せるようになればもう傷つくことはなく幸せになれるのだろうかとさえ思ってしまった。けれど、
「だめ、もし叶うならちゃんと忘れたいの。何をしていても思い浮かべてしまうあの人をちゃんと塗り替えていける恋がしたいの」
「なら、僕がきっと塗り替えていくよ」
「貴方をそんな風に見たことなんて……」
「多くは望まない、傍にいることを許して……それでも僕では駄目なら大人しくするからさ」
そう言って、ダリアを気負わせないように眉尻を下げて笑ったシオンの優しさに多くの女性が凭れてしまいそうになるだろうと思った。
怖がらせないようにか、いつもより少し離れた位置に立つ彼の気遣いがくすぐったかった。
それでもやはり、ダリアの答えはノーだったがその日からは二人の姿がよく見られるようになった。
シオンは女遊びをやめて、ダリアの失恋に付き合うと彼女のそばを他の誰にも渡さぬように彼女が一人で泣いてしまわぬように守っているのだった。
そんな噂はすぐに皇宮にも届き、ひどい後悔の念に苛まれているアスターだったが、未だ嫉妬の勢いで口を衝いて出た彼女への侮辱の言葉への謝罪すらできていない自分が歯痒くて、情けなかった。
カルミアはルーカスが戻ってから暫く大人しい上に彼のさりげない牽制が効果を成しているのか、最低限の接触は無くその存在すらうっかり忘れてしまいそうになるほどだった。
ダリアに言っては呆れられるだろうが、元々は身分から友人の少ない彼女にきちんと教育された歳の近い同性の気安く話せる秘書官をつけてやりたくて女性秘書官の教育を始めた事だったが、
忙しさにかまけて、当初の目的を見失いいいようにされていた。
皇帝としてあるまじき失態を恥じ、ダリアに合わせる顔が無かった。
先日ルーカスとマルコスから聞いたとある茶会の件を調べた結果、
まずは、きちんとはっきりさせておくべき事があるのだ。
(今は嫉妬や後悔に振り回されている場合ではない)
「カルミアを呼んでくれ。ルーカス、マルコス同席してくれ」
「「はい、陛下」」
215
あなたにおすすめの小説
王子は婚約破棄を泣いて詫びる
tartan321
恋愛
最愛の妹を失った王子は婚約者のキャシーに復讐を企てた。非力な王子ではあったが、仲間の協力を取り付けて、キャシーを王宮から追い出すことに成功する。
目的を達成し安堵した王子の前に突然死んだ妹の霊が現れた。
「お兄さま。キャシー様を3日以内に連れ戻して!」
存亡をかけた戦いの前に王子はただただ無力だった。
王子は妹の言葉を信じ、遥か遠くの村にいるキャシーを訪ねることにした……。
私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
さよなら 大好きな人
小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。
政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。
彼にふさわしい女性になるために努力するほど。
しかし、アーリアのそんな気持ちは、
ある日、第2王子によって踏み躙られることになる……
※本編は悲恋です。
※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。
※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。
婚約破棄を、あなたのために
月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?
こちらは恋愛ファンタジーです。
貴族の設定など気になる方は、お避けください。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる