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第十八話 驚愕
しおりを挟む「こんな事を私の為にと言う訳じゃないでしょうね」
「ダリア、そんなつもりでは……!」
ことの発端はいつも通りアスターがルチルオーブ邸を訪ね、その日は初めてダリアが受け入れたことだった。
久々に手を伸ばせば触れられる位置に居るダリアに「ごめん」と謝罪し、抱きしめたかったが彼はただダリアにした事を許される訳ではなくとも償いたかったからグッと堪えた。
それでもアスターが「あの者達は不敬罪で処刑とする」と伝えたのはわずか数分前ののとで、ことの成り行きを話しお互いがすれ違い、嫉妬に苛まれた自分の愚かな行いを悔いている事、ダリアが他の男と居るのを見るとつい冷静ではいられないほど嫉妬深いことを話した。
けれどもダリアの反応は予想していたどれとも違った。
吊り上げた目の奥は悲しそうに揺れて、
グッと下唇を噛んで痛々しい。
「こんな事を私の為にと言う訳じゃないでしょうね」
そういって眉を顰めた彼女の言葉は心に痛かった。
「私は、誰が悪いかを探しているんじゃないの。貴方は皇帝だし、私も公女であるからその処罰の意味は勿論理解しているつもりよ。それでも……私達の話の解決にはならない」
「これで許されると思っている訳じゃない、当事者として先に話しておいただけだ。俺が貴女から失った信頼は一生をかけて取り戻すつもりだ」
「俺は、剣ばかりだった。俺の全ては剣と……ダリア、貴女だけなんだ。なのに、自ら失ってしまった……酷く後悔している」
「……」
「この話は公女として、皇帝と自らに無礼を働いた者、下らん計略を図った者を危惧し厳罰に処すとだけ受け入れて欲しい。」
「……わかったわ」
「本当に、悪かった。本心では無かった……ただ気に入らなかったんだ。貴女がそっけないのは俺の所為だったのに他に気が移る事ばかり気にしていた」
「私は、貴方がカルミアを愛したのだと思った。普通女性の秘書官に身の回りの世話などさせない」
「彼女を、他の者達も女性だと考えた事は無かった……初めて出会ったあの日から貴女だけが唯一、愛する女性だ。部下や使用人はそれだけだ。普段は身の回りはマルコスがするのだが……あの程度の雑務なら誰がやっても同じだとばかり気にしていなかった……」
皇宮で育ち、第二皇子といえど常に仕える者が沢山居たアスターが部下や使用人をそれ以上に考えていない事は自然だった。
唯一、乳母だけは母のように慕っていたがその人もまた殺された。
彼の父と母もまた理想の夫婦ではあったが、愛と言うよりは皇帝皇后として冷静な夫婦生活を送っていたし、政略結婚なのだから仕方ないと考えていた。
彼の欠如は幼い頃から一人、また一人と失っていったあの時から始まったのだ。
(どこまでも、無知で不器用な人。けれども……)
「私や、ルーカスはずっと貴方の傍に居た。ずっと……」
「だからこそ常に失うのが不安だった……」
「誰にも失わせないわ、私も彼も決して弱者ではないもの。失うとすれば貴方の信頼を失った時よ。でなければアスター……誰を信用するの?」
悲痛だった。寂しいなんて言葉では計れない、ダリアの悲痛な言葉だった。
「別にカルミアを心から信頼している訳ではないと言う事は分かってた。例え愛がなくなっても私達は信頼だけは失わないって思ってた!私はそれが一番悲しかった……アスター」
「愛してる!ダリア、本心では無かった。ただ他の者に奪われたらと焦ったんだ……プライドが邪魔をして怒りになった、思わぬ事を言ったんだ」
「それでも……私達は上手くやれていないわ。私達が未熟な所為で二人罰さなければならない」
「ダリア……っ!また来る!」
「人の首を手土産にするならお断りよアスター……陛下がお帰りよ」
「……っすまない」
アスターの姿は痛々しく、また知らぬ何かを手繰り寄せて知ろうと貪るようにダリアの、他の者の心を探す姿は幼い男の子のようだとダリアの年老いたメイドは思った。
ダリアもまた、ぶつけようのない悲しみや怒りと戦っているようだった。
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