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第十七話 覚悟
しおりを挟む皇宮では、とある貴族の処分についての会議が行われている。
「ですが!伯爵家は力をつけており、生粋の皇帝派です!令嬢だけを処罰しては……」
「それで、伯爵が納得すると思うか?それに伯爵本人の愚かな発言は見逃せと?」
「そ、それは……っ」
皇帝とルチルオーブの令嬢に無礼を働いたとなれば、直様に処刑だと憤る貴族達が多い中、皇帝派という派閥の力を考えるがこそ、伯爵家側に立つ人間も少なからず居た。
けれども多くの意見がアスターに賛同していたし、今まで口を閉ざしていたルチルオーブ公爵もといダリアの父の重く、鋭い一言によって論議は終わった。
「では、このルチルオーブの力は信頼に値しないと?伯爵家如きの穴埋めができぬ弱き家門に見えていると仰るのでしょうか」
皆に問いかけたルチルオーブ公爵の表情はダリア同様美しく優雅ながら、穏やかであったが、その金色の瞳の輝きが鋭く光りルチルオーブとしての威厳ある雰囲気が皆を飲み込んだ。
(流石の威圧感だな、公爵)
元より処罰は押し通すつもりであったので、手続き上形だけの会議のつもりであったがルチルオーブ公爵のお陰でこの場ではもう異を唱える者は無かった。
「これは、私情でもありますが……」
「良い、話せ」
「ありがとうございます。では」
態々皇帝の許可を得てまでルチルオーブ公爵が何を話すのか、貴族達は気になったのか静まり返った。
おおよそ、長い付き合いである彼に今から突きつけられるであろう言葉をいくつか予想しているアスターだったがその言葉は少しだけ想像とは違った。
彼の娘を持つ父としての様々な葛藤を感じた。
幼い頃からあまり手をかけられなかったが、それでも愛していた家族をふと思い出した。
家族からの愛を実感することなど、この皇宮では数えられるほどしか無かった上に覚えていないほどずっと前でアスターにとって公爵の表す感情は馴染みのないものだったが、何となく分かるのだ彼の心の痛みが、怒りが。
(ダリアのおかげか……)
「愚弄されたまま引き下がるルチルオーブではありません。陛下が躊躇われるのならばウチが引き受けますが?」
「心配せずとも良い、躊躇など一ミリもない。元より形式的な会議だ」
「へ、陛下!そんなに正直に申されては反感を……」
アスターを案じる声が上がる中、アスターは珍しく表情を崩して話を続けた。
「なに、お前達を軽視している訳ではない。ただ自分自身に、あの者達に怒りが治らぬのだ。更々無かった事にはできん。お前達の言う理想の皇帝にはなれなかったかもしれんが、それで暴君となるならそれでもいい」
「陛下……」
かつての父のように、そうなるべきであった聡い兄のように、微かな記憶からアスターが皆の理想の皇帝で在ろうとしている事はルチルオーブも、皆も知っていた。
彼が、皆が持つ皇帝像を追っている事も。
「元より全て奪われたモノを、力で奪い返しただけの事だ。それに、そんな事に囚われて大切な人すら守れていない時点で、国を治める者として未熟だ。俺は、父のようにはなれないがせめてもう……失わない人でありたい」
ルチルオーブ公爵がふっと雰囲気を緩める。
貴族達もまた不思議と今までのアスターよりも等身大の彼が頼もしく見えた。
「正直に言おう。俺には剣と、ダリアしか無い。何も持たぬ皇帝だ。けれど約束しよう、国も私の大切なものだ。そして着いて来てくれるお前達もだ、そうやって増えていく大切な人達を取りこぼさぬよう尽力する!」
それは、まるでダリアに向けた言葉にも聞こえた。
まるで人形のようだったその碧い瞳は光を宿していた。
ルチルオーブ公爵が「父として言うなれば、覚悟なさいませ陛下。ダリアは弱き王にやれる子猫ではありませんぞ」と少し笑うと、コリウス公爵もまた、「あれは虎だな」と笑うので貴族達はすっかり気が抜けた様子だった。
アスターはその場で堂々と言い渡した。
「伯爵家は取り潰しだ。伯爵と娘は不敬で処刑とす。その他罪状は調査の後公表する、以上」
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