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マッケンゼン公爵の作戦
しおりを挟む(一体何なんだ、ジェレミア殿下は恋愛感情でシエラを…?)
眉間に皺を寄せ、悶々と考え込むリヒトをマッケンゼン公爵邸の者達は少し恐れながら遠巻きに見ていた。
「シュタイン。」
「は、はい!公爵閣下。」
「シエラ皇女と合法的に会える方法は?」
「えっ?」
「なんだ?」
「い、いえ…」
(あんなに嫌っておられたのに…)
「早急に探してくれ。」
「で、でしたら図書館に行かれるのはどうでしょう?」
「ほう….」
「毎週、皇立図書館へ行かれると有名ですので…」
「…俺も丁度調べ物がある。公爵以上のみが立入れる特別棟の鍵を、たまたま同じ日に申請しておいてくれ。」
リヒトの側近であるシュタインは顔を真っ青にして、初めてみるリヒトの様子に困惑したような表情のまま返事をしたのだった。
「は、はい。ですか閣下は皇女を…」
シュタインは続きを紡ぐのをやめた。
リヒトの瞳が此方を鋭く捉えたからであった。
「女性と、」
「?」
「婚約者と仲直りする方法は…、」
シュタインはまた驚愕した。
耳まで真っ赤になって、まるで初心な少年のように言うのだから。
目の前のリヒトは果たして本当に長年仕えているリヒトなのかと目と耳を疑った。
シュタインにとっては短い、リヒトにとっては長い数日が過ぎふたりは皇立図書館までの道程を馬車に揺られていた。
「長いな。」
「そうですか?いつも通りですが…あ、着いたようですね。」
「館内を好きに過ごせ。」
「いいんですか?」
「ああ、特別棟には公爵位をもつ本人しか入れないからな。」
「分かりました。なるべく近くにおりますので。」
「ああ、ありがとう。」
特別棟というには、それほど大きくないその場所は限られた者のみが入れる場所であり、普通では読めない重要な文献までもが保管されている。
噂によるとシエラは毎週ここを訪れているようだ。
そして、彼女はすぐに見つかった。
「シエラ皇女…」
「…?」
ゆっくりと顔を上げたシエラは相変わらず美しく、リヒトにとってその瞬間はスローモーションのようにも見えた。
「マッケンゼン公爵…、ご機嫌よう。」
「……。」
「私は行きますので、ごゆっくりどうぞ。」
実際は見惚れているのだが、反応の無いリヒトにシエラは気まずいのだと思い、気を利かせて席を立った。
シエラがすれ違う際に慌てて我に帰ったリヒトはシエラの手首を思わず掴んでしまって、すぐに離した。
「…っ申し訳ない。」
「いえ、何か?」
「邪魔ではありません。…どうかここに居て下さい。」
シエラは硬直し、少し驚いたような表情をした。
リヒトの表情はまるで置いていかないでと甘える子犬のようで、シエラはまるで、目の前に黒い大型犬にでも懐かれたような錯覚を覚えた。
「…ええ。」
(なぜ、隣に座るの…?」
椅子を引いてシエラをエスコートすると自らも隣に座ったリヒトに、シエラは訝しげな表情をした。
「ご迷惑でなければ、ご一緒しても?」
「迷惑ではないけれど…他にも席は空いていますが?」
「たまたまこうして会えたのですから、これも何かの縁でしょう。」
シエラの怪しむような視線に咳払いをして、適当に取ってきた本を開いた。
(たまたま?私が来る時は必ず避ける人なのに、なにか理由があるんだわ。)
「何か、理由があるの?」
「へっ?」
「会いに来たのでしょう。」
以前のシエラなら甘くはにかんで「会えて嬉しいわ。」と言ったはずだが、何も感じ取れない表情で言うシエラは本当にリヒトへの想いを断ち切ってしまったのだろうと感じ、リヒトはギュッと自らの手を握りしめた。
「何も、理由がないと言ったら?」
「貴方に限ってはありえないでしょう。」
「…っ」
「今は二人です、ここで良ければ聞くわ。」
リヒトは本を置いてシエラに向かい合った。
本を閉じたシエラの手にそっと自らの手を添えて指先を軽く絡めた。
縋るように、眉尻を下げてシエラを見つめる。
解消したいとはいえ、シエラにとって最も愛した人。
熱を持つ瞳で見つめられ、心臓が大きく波打つ。
動きを止められたかのように動けなくなりただリヒトを見るのが精一杯だった。
(どうしたらいいの…、罵られるのは慣れていてもこういう展開は意図が分からなくて不安だわ…それに、なんだか……)
指先を絡め取ったまま、椅子から降りてシエラの足元に跪いたリヒトは愛おしげにシエラの指先に何度も触れるだけのキスをした。
くすぐったいような、甘く優しい刺激にシエラは目を泳がせながらも頑張って平静を装ったがそんな姿が愛らしく、リヒトは薬指にキスするとシエラをまるで世界で一番愛しているかのような表情で見上げた。
「ただ、貴女に会いたかっただけです。」
「…っ、」
「信じて貰えないなら、ここで証明しますが。幸い今は二人ですので。」
「…わかったわ、だから離して。」
「ご理解頂けて良かった。」
そう言って手を離したリヒトはいつもの笑顔で、何事もなかったかのように隣に座って本を読み始めるのであった。
「妙に椅子が近くないかしら?」
「そうですか?俺にはわかりませんが。」
(害意が無いなら良いわ…、もう)
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