悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang

文字の大きさ
18 / 69

触れてはいけない優しさ

しおりを挟む

貴女は知らなすぎる、そう言って私の前に膝をついた彼は愛おしい人でも見るかのように甘く切ない表情で私の頬に触れた。


前回の人生ではありえない展開に、心臓はバクバクと音を立てて、息はうまく出来ない。


婚約を解消して欲しいと言ってはいるものの、前回の人生からあれ程に愛した人を突然嫌いになれる訳がなく、ただ、命の方が大切だと言う消去法なのだ。



「ま、マッケンゼン公爵…?」


「例えば…」



リヒトはそのままシエラの美しい手を取って指先に口付ける、



「貴女の美しい身体に口付けをできるのも、…」



そのまま唇でなぞるように腕から肩に、肩から鎖骨、首元へと口付ける。

段々と近くなる距離に抱かれた腰。


顔から火が出るのではないかと思うほどの距離。




「貴女の唇を奪うのも、」


唇に触れるか触れないかの距離でそう囁くリヒト。


ぴたりとひっついて固定された腕は流石戦では最強と言われる男、シエラでは全く動かない。


もう一生分を使い果たす程に心臓は早く鳴り、不思議と危険を感じない優しく切ない瞳に呑み込まれそうになる。

まるで、求められているかのように。



「貴女が触れるのも、ぜんぶ…貴女が愛した人にしかしてはいけない。」




「…それは、どう言う意味?」



「もう、俺を愛していませんか?」


「……。」


シエラは思わず返事が出来なかった。

前回の人生でのリヒトを恨んではいないものの、もう一度愛せる勇気など持ち合わせていない。


だが今のリヒトはまだ知らないのだ。


そして、シエラが変わったようにまたリヒトも変わっている…


シエラは混乱した。


触れそうな唇が熱くて、ドキドキとうるさい胸は苦しい。

思わず瞳が潤い、言葉にならない頼りない声だけがあがる。



「ゃ…リヒト、離れて下さい。」


「やっと、名前を呼んでくれましたね。」


「あ、ちが…っ」



「普通、弟とはこう言う事はしません。女性が身体を許すのは生涯愛する男一人のみです。」


「えっ…、」


前も今も、ジェレミア以外に触れられた事も、触れた事もなかった。

近頃のリヒトは様子がおかしく、よく構ってきたが、




「まさか、これを伝える為に…?」




「それだけではありませんが。…頬が赤く涙で目が潤んでいる。こういう事はの愛情表現としてしません。」


「あ、リヒ…んっ!」


深くシエラに口付けたリヒト、必死で酸素を求めるシエラはリヒトにしがみついていた。



「…っじゃあ!貴方もだめよ!!!」


「殿下はだが、俺は貴女の婚約者です。」

「そんなっ…解消すると…」


「黙って。…ここも、…ここもジェレミア殿下に?」




「…っ、」


「図星のようだな。…今後はだめだ。貴女はもっと大切にされるべき人なんだから。」



シエラの身体をなぞるリヒトの指の感触は優しくて、恐怖心などは感じないが何故か植え付けられた意識がジェレミアに申し訳なくさせる。



「だめ…ジェレミーに叱られるわ。」


「!?…相当根深いようだな。」



リヒトはシエラを救うには愛が必要なのだと悟った。


常識を知り、愛を知ればシエラはジェレミアから解放されるだろうと。




「シエラ皇女…、やはり俺とちゃんと、」



息があがり、抜け落ちた力で必死にリヒトにしがみつくシエラに甘く、懇願するような声でリヒトが何かを伝えようとすると、


バタバタと慌てて走る足音と同時に扉が開け放たれ、悲鳴が響いた。




「何やってるの、リヒト!!!!!!」




そこに立っていたのは、前回の人生の最後に見たリヒトの隣に居た、黒髪に緑の瞳の可愛らしい令嬢が怒りの表情でこちらを見つめていた。



「…!…メリー、取り込み中だ。出てってくれ。」



「なっ!なんてふしだらな!に手を出すなんて!!!!!」




その言葉はシエラの心を抉りとるようだった。


ソファに押し倒され、リヒトの下で乱れたドレスから白い脚を覗かせる姿はまるで絵画のような美しさで、


熱っぽくも、切なく愛おしげな瞳でシエラを見つめるリヒトの乱れたシャツから覗く鍛え抜かれた身体もまた絵画のようであった。



メリーと呼ばれた女性は思わず見惚れてしまうものの、すぐに怒りを取り戻してリヒトのシャツの背中を思い切り引っ張って引き剥がそうとする。





先程までシエラの大切な所に甘い快感を与えていた指先がテラテラと光り、まるで浮気現場に乗り込まれたかのような背徳心に駆られた。


「あっ…、」


「メリー、いい加減にしろ。」



「リヒトの馬鹿!皇女様を愛して居ないと言っていたじゃない!」


「何を…っ!」



「マッケンゼン公爵…、退いてください。」



「シエラ…、」


急いでシエラに上着を被せたリヒトがシエラから退くと、シエラは身なりを適当に整えて俯いたまま上着を返す。


(そうよね、あまりに無知だから同情されただけ。選択を間違える所だった…優先事項は国を出る事、彼の愛を求めてはいけないわ。)



「お返しします。…どうかしていたわ、けれどご忠告は身に染みました。」


「…シエラ皇女、!」


「協力関係は続けましょう。今日は帰ります、リンゼイを…」





「皇女殿下、リヒトは少し魔がさしたようですが普段はとても良い人なんです!だから…気分を害さないであげて下さい…」





「えっと、メリーさん?…安心して下さい。私も、マッケンゼン公爵を愛していませんから。」



「シエラ皇女…っ!」



そう言って恐ろしい程美しか微笑んだシエラはリヒトの引き止める声を無視してロビーへと足を進めた。




(邸どころか、部屋に自由に出入りする仲…もうこの時点からそのような仲だったのなら過去の私は元々ただの邪魔者だったはずね。)



(今回は失敗しないわ。きっと逃げて生き残ってみせる。)



しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。

長岡更紗
恋愛
侯爵令嬢だったユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。 仲睦まじく過ごしていたある日、父親の死をきっかけにどん底まで落ちたユリアーナは婚約破棄されてしまう。 愛し合う二人は、離れ離れとなってしまったのだった。 ディートフリートを待ち続けるユリアーナ。 ユリアーナを迎えに行こうと奮闘するディートフリート。 二人に巻き込まれてしまった、男装の王弟。 時に笑い、時に泣き、諦めそうになり、奮闘し…… 全ては、愛する人と幸せになるために。 他サイトと重複投稿しています。 全面改稿して投稿中です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【本編完結】王子の寝た子を起こしたら、夢見る少女では居られなくなりました!

こさか りね
恋愛
私、フェアリエル・クリーヴランドは、ひょんな事から前世を思い出した。 そして、気付いたのだ。婚約者が私の事を良く思っていないという事に・・・。 婚約者の態度は前世を思い出した私には、とても耐え難いものだった。 ・・・だったら、婚約解消すれば良くない? それに、前世の私の夢は『のんびりと田舎暮らしがしたい!』と常々思っていたのだ。 結婚しないで済むのなら、それに越したことはない。 「ウィルフォード様、覚悟する事ね!婚約やめます。って言わせてみせるわ!!」 これは、婚約解消をする為に奮闘する少女と、本当は好きなのに、好きと気付いていない王子との攻防戦だ。 そして、覚醒した王子によって、嫌でも成長しなくてはいけなくなるヒロインのコメディ要素強めな恋愛サクセスストーリーが始まる。 ※序盤は恋愛要素が少なめです。王子が覚醒してからになりますので、気長にお読みいただければ嬉しいです。 ※本編完結しました。 ※後日談を更新中です。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【完】婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました

さこの
恋愛
 婚約者の侯爵令嬢セリーナが好きすぎて話しかけることができなくさらに近くに寄れないジェフェリー。  そんなジェフェリーに嫌われていると思って婚約をなかった事にして、自由にしてあげたいセリーナ。  それをまた勘違いして何故か自分が選ばれると思っている平民ジュリアナ。  あくまで架空のゆる設定です。 ホットランキング入りしました。ありがとうございます!! 2021/08/29 *全三十話です。執筆済みです

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら
恋愛
 婚約相手のいない婚約式。  通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。  ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。  さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。  けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。 (まさかのやり直し……?)  先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。  ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。 小説家になろう様にも投稿しています。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

処理中です...