悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang

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救世主?それとも新たな地獄?

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「リヒト……どうもありがとう。もう離してくれる?」



「……殿下と、弟君とはにはとても見えない程仲が良いのですね」




肩を抱いたままの腕の強さが増すのを感じ、シエラはその言葉に対して訝しげな表情だけで返答した。




「貴女は、危機感がなさすぎる」



「……はぁ、貴方には言われたくないわね」



いくら女性の扱いに慣れていないとはいえ、先程は女性同士の社交の場での戦いに唖然とした表情のまま、婚約者ではない者に腕を抱かれていた目の前のリヒトに、そのような事を咎められるとは思わずため息をついた。



胸が痛むのは、彼を好きだと言う気持ちなのか



それとも前世から持ってきた好きだというのようなものなのだろうか?




持て余すシエラの心は、冷静な傍観者の自分と彼を愛した前回の自分が複雑に渦巻いてはぶつかる。



「愛してる」どれほど彼からのその言葉を欲しただろう。



思わぬ形で伝えられたその言葉は思ったよりも、ふわふわとした何か他人事のようなものだった。



堂々とそう公言してくれたリヒトは勿論格好良かったが、だからと言って手放しで「私も愛しているわリヒト」とその胸に飛び込めるほどの安心感はない。



ましてや、嫉妬にも見える彼の態度に喜ぶどころが苛立ちすらも感じてしまうシエラはきっとリヒトと自分の恋は前回の生でもう吹っ切るべきだったのではないかとすら考えてしまうのだ。



そこまで考えると、目の前でまるで子犬のような表情でシエラを見つめるリヒトと目が合ってどきりとした。



「シエラ皇女、メリーとはただの幼馴染です。俺が貴女を愛しているのは本心です」



そう言ったリヒトの瞳は真摯な眼差しだったが、シエラの頭の中にはふと連行されるシエラをメリーの隣で冷ややかにみるリヒトの表情が蘇る。



(もし、前のように言いなりのままだったら?)



(本来の私の心がそれ程美しいものではないと知ったら?)




たまたま、前回での予習のおかげで最悪の事態を回避する為に立ち上がることも、皇女としての表面を取り繕う事もできたが、



前のようにもし、弱いままのシエラだったら?


彼は興味を持っただろうか?



彼は策を練り生き残ろうと足掻く、決して美しくないシエラの姿も愛していると言えるのだろうか?




ひとつ疑問に思うと、まるで目を逸らして居た事が溢れるように湧き出てきてリヒトと目が合わせられない。


「……今はひとりになりたいの。ごめんなさい」


「シエラ皇女っ…」


リヒトから逃れるように走って、息の上がったシエラは隠れるように庭園を抜けて門を出た。


送りの馬車をマッケンゼンから出させる訳にはいかないので、気分転換も兼ねて街に出ることにした。


(二度目の人生ではかなり市井に慣れたわね……けれどウェヌスまで遠いわ)


普段歩かない所為か、まだそれ程遠くまで歩いていないにも関わらず痛む足に視線をやってからいつもより遠く感じる街の光を見つめた。


何故だか、背後に視線を感じて身を凍らせる。

過去の事を考えた所為か、リヒトや、ジェレミアから離れたくて無我夢中で歩いて来たものの冷静になって考えれば自ら危険に身を投げたようなものだ。


(一人で市井を、しかも夜をなんて初めてね……私を尾行しているのかしら)



「誰……」


「へへっいいとこのお嬢ちゃんの割には鋭いな……」


暗くて髪や瞳の色がはっきりしないのだろう。

シエラが皇女だとは気付かずに尾行していた様子に幾分かほっとする。


(刺客ではなさそうね……けれども危険な状況にかわりはないわ)


どう立ち回ろうかと、目の前の男から目を離さずに睨みつけていると、下品な笑い方で笑いながら

「ほぉ~上玉だなァ!お前ら!皆で見ぐるみ持ってく事にするかァ」


と、隠れているのだろう誰かに声をかけた。


まずいと感じ、ハイヒールを脱いで走る体勢をとったシエラの目の前に、フードを被った誰かと、その人から香るほんのり甘く爽やかな香りがふわりと鼻を掠めた。



シエラがフードの人物の背中と、その何処か落ち着く香りに気を取られたのはほんの一瞬だった。



それにも関わらず、シエラの周りには数人の男達が転がっており口元まであるマスクとフードの間から輝く金色の瞳だけがこちらを見つめていた。





「こういう時は、大丈夫ですかお嬢さん。と言うのか?」



そう眉間に皺を寄せながら、マスクごしに口元に手を当てて首を傾げたその声は低く、甘い、けれども言葉尻がさっぱりとした快活な声で




「まぁ、とにかくもう大丈夫だ」



と、助けてくれたのだろう筈なのに面倒そうに言われるととうとうシエラはくすりと笑ってしまうのだった。



「私から言うべきだったわね、ありがとうございます」


「……たまたま街で馬を盗まれてな。仕方なく歩いていたら偶然通りすがっただけだ」


思い出しているのだろう。顔の殆どが隠れていてもわかるほど渋い顔で言うその男性にシエラ少しだけホッとした。


(リヒトもジェレミーも貴族らしく表情管理が上手だから、こんなにも感情豊かな人はほんとに珍しいわね。市井の方かしら)



「残念ながら、私はその街に行く所なの」


「なら丁度いい。送ろう」


「街から来たのよね?」


「ああ、不本意ながら」


「ならこんな場所で何をしていたの?」


「馬に荷物があってな、探していた」


「なら、貴方も宿に帰るという事?」


「……そうだ」


「……迷ったのね」


「……!!」

(どうやら、アタリのようね)



あまりにも分かりやすい彼の態度に何故か直感的に悪い人ではないだろうと思い、一緒に街まで歩くことにした。




「私はシエラよ」



「俺は……リュカでいい」
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