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貴方は誰?
しおりを挟むリュカと過ごす時間は意外にも本当に楽しかった。
立場を伏せているからなのかもしれないが、自然体で居られる上に落ち着いた雰囲気と勝気だが穏やかな印象のリュカとはすぐに打ち解け街までの道のりが短く感じる程で、思わずお互いに引き止め合った。
「「あの、」」
「……そちらからどうぞ」
「ああ……、よかったら少し歩かないか?」
「もう十分歩いたのでは?」
「なら、座って話をしよう。シエラを知りたい」
それからシエラは皇宮からの捜索の視線をそれとなく抜けながら、普段行けない裏路地や、夜の市井の賑やかな街並、小洒落た軽食店でのお茶をリュカと楽しんだ。
リュカが話してくれる国の外の世界中の話、そこで体験した様々な出来事はシエラにとってとても珍しく、楽しい話だった。
彼はきっと旅人なのだろう、もしシエラが全てから解放されたならば彼のような人が側にいると幸せだろうと考えてしまい思わず顔を赤くした。
(何を言っているのよ、ほんの数時間で)
彼の身分など関係ない、きっと全てから解放されればまた会いたいと思う初めての男性だったが思わぬ事で彼の高貴な身分を知る事となる。
市井の狭い店内、背後を通る他の客がよろけてリュカのフードが一瞬捲れ落ちた際に見えたのは赤い髪に金色の瞳、整った容姿によく考えるとスラリと伸びた背はフード越しにも美しいスタイルが伺える。
彼は、そう遠くない冷酷で閉ざされた国の皇帝……
リュカエル・カシージャスを思わせる容姿だった。
「……覚えがあるようだな」
どこか気まずそうにフードを被り直したリュカが寂しそうに視線を落としたのはシエラの気のせいだろうか。
けれども彼がカシージャス陛下だとすればシエラの行動はとんだ無礼にあたる。急いで組んだ脚をほどいて座り直すとリュカの目を見て確認する。
「ええ。まさか貴方は、今更ですが…….」
「そうだお前の知るあのカシージャスで間違いないだろう」
「……そうとは知らず、とんだ御無礼を、」
「よせ、シエラは良い。そのままでいて欲しい」
「ですがお立場が……」
実際は小国ゆえに大国からの侵略や略奪への防衛の為あまり国を開かないだけで閉ざされた訳ではないのだが、この国ではカシージャスは冷酷で国を閉ざした皇帝として知られていた。
彼は国の為ならば女子供でも容赦しない血の王座に座る王だと噂の狂気の男、それでもシエラにとって目の前で眉間に皺をよせて懇願するように言うまだ若いリュカエルを冷酷だとは思わなかった。
「変に畏まらないでくれ。俺にとって初めてありのまま気を許せる人に出会えたんだ。どうかそのままのシエラでいてくれないか?」
噂とは違う姿だった。まるで強請るように首を傾げた彼が愛らしくて思わず笑って頷くと、彼はせっかく侍女達が整えてくれた髪をくしゃくしゃにしてから椅子を寄せると肩に手を回して快活に笑った。
「ははは!それで、そっちは皇女なんだろ?」
「もう……やはり気付いていたのね?」
「ああ、噂どおりだからな」
「……良い噂なんて聞いた事がないけれど?」
「この世のものとは思えぬほどに美しく、聡明だと聞いたが?」
「ふふふ、上手ね!よほど私の事を知らないようだわ」
「知らん訳じゃないが……俺が見たシエラが全てだ。これから知っていく」
「ーっ、そう」
心にじんわりと温かさが滲んだ。
血の王座に座る狂気の王だなんで信じられない程に、彼は温かかった。
「私も…‥.私が見た貴方だけを信じるわ」
「そうか」
口元を緩めたリュカエルのその横顔はどこか嬉しそうだと思った。
そして自分もまた緩んだ表情をしているのだろうとも。
「皇宮の……弟が必死に探し回っている頃ね……」
外はもう夜が深くなり、明るいままの街もすっかりと人気が少ない。
「送ろう、あいにく馬車はないが」
「ふふ、駄目よお忍びなんでしょ?ちゃんと帰れるわ」
「また盗賊に遭ってはいけないからな。近くまで……」
「ありがとう、リュカ」
「まあ、そうだな……逃げ込むならウチにしろよシエラ」
そう言った彼は笑顔だったが、その瞳は真剣だった。
「……!なぜ、そう思うの?」
「帰りたくないと顔に書いてある、気の所為ならいいが」
「……ありがとう」
(リュカ、貴方のおかげでまた戦える気がするわ)
「よせよ、此処の奴らは知らんが俺はシエラが気に入っただけた」
「私もリュカが好きになったわ」
「なんだ、ならお前の席は空けておくよ」
そう言ってふざけ合って笑い合ったのも束の間。
皇宮の近く、人通りの少ない場所まで来るとリュカはシエラの頭をふわりと撫でてすぐに姿を消した。
皇女宮に着くなりジェレミアが物凄い剣幕で、早足で向かってきて怒ったような、泣きそうな表情でシエラを強く抱きしめた。
「姉様、何処に行っていたの?」
「ごめんなさい、ジェレミー。少し疲れてしまって、休みたかったの」
「姉様は僕のでしょう?何処にもいかないで」
ジェレミアの切ない声が何故か妙に窮屈に感じて、罪悪感に駆られた。
「ごめんなさい、ジェレミー」
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