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誤解と誓い

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メリーは生前のマッケンゼン夫妻の話や、メリーが二人と交わした約束、両親の想いについてメリーが話せる全てを彼に話し、リヒトは深酒の所為でまだすぐれない顔色のまま耳を傾けた。


入浴した際にしっかりと乾かさなかった髪はまだ湿っており、気怠げな雰囲気が妙に色っぽくてメリーは息を呑む。


(リヒトの全てが今すぐに私のものになればいいのに)


彼女はその為に、自分を気に入ってくれていたマッケンゼン夫妻の軽口をわざと大袈裟にとして話し、真面目なリヒトに責任感を負わせようとしているのだ。



「リヒト、勿論ただご両親に誓ったからだけじゃないわ……」


「……」


「私はずっと、あなたを愛しているから受け入れたの」



「その想いには答えられない」


「解ってるわ……けれども本当にシエラ皇女はあなたが思っているような人なの?皇太子殿下ともかなり怪しい仲のようだし……」



(あれは態と俺に殿下が


まさか口に出す事が出来ないリヒトは口を閉ざし言い淀んだが、

メリーにとってはそれは肯定とも取れて満足気に笑った。



「マッケンゼン公爵家は由緒正しい家門よ。一途な妻がいいわ……私のように」



そう言って、リヒトの膝に甘えるように乗りかかるメリーを怪訝な表情で避けるリヒト。


そんな二人の攻防を気まずそうな使用人の声が遮る。


「ご、ご主人様っ……皇女殿下がお越しになられました」



「……っ!!!!すぐ行く!」


「ちょっと!リヒト、話はまだ……」



「いえ、あの……!!まずはお着替えを!!!」

使用人の言葉も聞かずに飛び出したリヒトは、応接室で待つシエラの姿が見えると思い切り抱きしめた。



「シエラ皇女……どちらに行かれていたのですか!俺が貴女を見失ったばかりに……申し訳ありません」



「……っ離れて、今日はその日の謝罪に来ただけよ」

(陛下がマッケンゼン欲しさにうるさいから来ただけなのに……)


ふわりと香る彼の石鹸の香り、引き離した彼は湯上がりなのか髪が濡れている上に楽な服装で、その色香に一瞬たじろぐシエラ。



そんな二人を追ってきたメリーは、ハッと思いついたように髪を少し乱れさせて楽なドレスを態と着崩してシエラとリヒトの目の前に出た。



「り、リヒト!ひどいわ!」


「メリー!誤解を招く言い回しは……」


ぼろぼろと大粒の涙を流してリヒトにそう言うメリーに思わず驚くリヒト。


二人の楽な服装と、まだ朝だと言うのにも関わらずもう長く一緒にいたかのような雰囲気、そして


(リヒトはどこか気怠げね……そういう事?)



「ごめんなさい、邪魔したようね。あの日突然帰ってしまった謝罪と例の件について時期を早めたいという話をしに来ただけだったの」




「安心してメリー嬢、何も奪いやしないわ」と付け加えて冷ややかにそう言ったシエラにいくら鈍いリヒトでも「まずい事になった」と感じているようで視線を彷徨わせた。



「わ、私とリヒトはマッケンゼン公爵夫妻の生前に誓いを立てた許婚なんです!だから……リヒトを奪わないでっ」



(嗚呼、そうだったのね……だから前世での貴女達は私が邪魔だったのね)



やはり、リヒトとの恋は過去に置いてくるべきなのだと再確認したシエラは少しだけチクリとした胸にそっと手を添えた。

そんなシエラの気持ちなど知る由もないメリーはまるで小動物が威嚇するように大粒の涙を拭う事なく、リヒトと手が添えられたシエラの腰元を睨みつけていた。

「シエラ皇女、俺はそのような約束は…….」


「リヒト!嘘言わないで!知らないとは言わせないわ!」




目の前でため息をつくシエラが憎らしく、メリーは思わずリヒトに声を張り上げた。


真面目なリヒトなら、先程この話を聞いた手前「知らない」とは言い切れずに、ましてや両親を思うとメリーを無下にもしない筈だと考えたメリーはかなり強引にシエラとリヒトを引き裂こうとした。


ところが、まるでどうでも良さそうな声色でシエラが「落ち着いて」と言うと「ブノエルン伯爵の件です」と続けた。


「……!メリー席を外してくれ」

「いやよ!!私が先約だったでしょう!」

「メリー!!」


「マッケンゼン公爵、いいわ。突然訪ねたのは私です、手紙を送りますのでその件の詳細はまた後日に。先日は本当にごめんなさい。では失礼するわ」



そういって綺麗に微笑んだシエラと追えないようにリヒトにしがみつくメリーにもうどうしたらいいのか分からずに片手で顔を覆ったリヒトは弱々しく


「俺が愛しているのは貴女だけです、シエラ」


と、伝えるのが精一杯だった。




「……手紙を送ります。内容はさっき伝えた件のみです」


「シエラ皇女、どうか少し待っていてはくれないか?」



「私が暇に見えますか?リヒト」


「……せめて、送ります」


「その格好のお二人が邸とはいえウロウロするのは良くないわ、私なら大丈夫だから



にこりと笑ったシエラに、リヒトはもう青ざめたままピタリと動きをとめてしまう。



「では、さようなら」



シエラの美しい笑顔に嫉妬しながらも、強い意志のこもった彼女の「さようなら」と言う言葉にニヤリと口元を歪めたメリーの表情を見たものは誰も居なかった。

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