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伯爵と確固たる皇帝の地位
しおりを挟む「ジェレミア殿下、シエラ殿下にご挨拶を申し上げます」
「ああ、よく来てくれた」
「お時間を下さってありがとう、伯爵」
「マッケンゼン公爵閣下にもご挨拶を申し上げます」
「伯爵、俺にはいつも通りに崩してくれ」
「はい、では……」
ブノエルン伯爵は侯爵以下の貴族達をまとめる有力な貴族であり、その真っ当な手法と誠実な人柄は平民達からも多くの指示を得ている。
彼はセリアド公爵に、面倒を見ていた子供達を幾人か拐われてからは皇帝の慰みものにされぬように無事に返す交渉を何度も試みるも、お金や代償だけを奪われて被害に遭う子供達は街で増える一方だった所を、リヒトが知り相談に乗っていた所だったのだ。
そんな情報を仕入れたのは、ブノエルン伯爵とあったパーティのすぐ後だったがシエラは上手く子供達を保護しジェレミアの力によってセリアドと皇帝を排除する事が出来た。
そして、皇帝が遺した莫大な私財を豊かにしたのもシエラの策であった。
(リュカの協力無しでは、成し得なかった。これで退路は約束された)
勿論、その富を引き継ぐのはジェレミアである。
否、ジェレミアが受け取る事に意味があるとでも言うべきだろう。
(あと問題なのはどうしてその分のお金を使わせるか……と、リヒトね)
何やら話し込む三人の和気あいあいとした様子をまるで他人事のように眺めながら考えるシエラ。
「はははっ、いえ、ですが……子供達には少し心のケアが必要でしょう。環境も良いとは言えませんし私一人でできる事は限られていますので中々手が回っていないのです」
「なら……マッケンゼンから定期的に寄付を……」
(これだわ!)
シエラは小さな声でジェレミアに耳打ちした。
「陛下の私財を子供達の為に使うのはどう?貴方は元々資金繰りには困っていないのだし……」
「……なるほど、だけど」
「貴族達に恩を売っておくのと、民へのアピールにも良いわ」
「姉様がそう言うなら、きっとそれがいいだろう」
ジェレミアはシエラの提案どおり、皇帝が溜め込んでいた私財を子供達の為の施設設立と運用資金に充てる事を約束した。
(資金を使い切る頃には、もう……いいえ気を抜いてはいけないわね)
「今日は有意義な話ができたよ」
「いえ、殿下方にはなんとお礼を言えばいいのか……私には返せるものがありませんのに」
「いいえ、伯爵はとても素敵な方です。ジェレミーの傍で助言し、私の大切な弟の味方になってくれれば幸いです」
「シエラ皇女……!そんな事は勿論です!国を想う心も慈悲深さにも感銘を受けました。私でよければ是非お力になります」
「ふふっ、ありがとう伯爵様」
「心強いね、頼りにしているよ伯爵」
「では、殿下方……そろそろお時間が」
「ああ、そうだねリヒト行こう」
「ええ」
三人はその場を後にし、ジェレミアの執務室にてほっとしたように息をついた。
「……お二人共、お見事でした。それにこんなにも慈悲深くお優しいとはおどろきました」
「ああ。あれは姉様の考えだ。勿論……賛成できるから採用したけど」
「シエラ皇女が……そうですか」
「ふふっ、ジェレミーならどうするかなぁってずっと考えてただけよ」
「姉様……やっぱり僕には姉様が必要だな」
「そう……ありがとう」
シエラは少し心が痛んだ。
シエラとリュカが出会う前に知った皇后が作った莫大な借金、そして二人が出会ったその後にその債権はカシージャスによって買い取られていた。
そしてその存在を皇帝にチラつかせてから、返済どころかそれ以上の莫大なお釣りお釣りがくるとある提案を皇帝に呑ませた。
そして、皇帝は自分のお金惜しさにそれを独断で受け入れ契約した。
それによって得た莫大な利益は自らの私財として密かに溜め込み、皇帝の地位を剥奪された後没収されたのだ。
カシージャスにとって、なんの利益もないただの人助けなのだがそれでもリュカは「俺にも利益はある」と綴られた手紙にはシエラへの協力を惜しまない意志が綴られていた。
彼への感謝と、なぜか彼に会いたいと思う気持ちは日に日に膨らんだ。
(また次に会ったら、必ずお礼をしよう)
そして何処か遠くを見ているようなシエラの笑顔に胸が騒ついたリヒトは、思わずシエラの手を握って言う。
「あの……今晩はうちで夕食をとりませんか?」
(リヒトの事もちゃんと考えないといけないし……そうね何か手がかりになるかもしれない)
「そうね、じゃあお邪魔するわ」
「え!姉様!じゃあ僕も……」
「ジェレミー、今日はまだ公務が沢山あるでしょう?ちゃんと戻って手伝うから少しだけ待っててくれる?」
「でも……」
「私達も前に進む為に、時間が必要だわ」
「……分かった。けれど迎えの馬車には必ず乗るんだ」
「わかったわ」
(前に進む。とはどっちだ?姉様……)
(言葉の意味を深読みするのはやめよう、きっとシエラ皇女の心を取り戻すんだ)
二人の内心など知らぬシエラは、ぎゅっとシエラの腰を抱いて固定すらジェレミアの美しい手をただ眺めて過去を思い出していた。
(もう、かなり過去とは変わっている。けれど一生結末に怯えて暮らすのは嫌なの。ごめんねジェレミー……)
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