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意地っ張りな訳じゃない
しおりを挟むとある夜会で唐突にルージュを引き止めたのはアルベルトだった。
テンタシオンが席を外しているほんの少しのタイミングで、相変わらずメーデアを侍らせた彼はルージュを引き止めると鼻で笑って見下すように「いつまで意地を張るつもりだ?」と彼女の髪に触れた。
同じように見下した表情でルージュに表面上だけの挨拶をするメーデアはアルベルトの腕にそっと自分の腕を通したままだ。
その瞬間、風が横切ったのかと思うほどの速さで割り込んだ何者かによってアルベルトは強制的にルージュから距離を取らされた。
「何するんだ!?」
「レディに不躾に触れるのはいただけませんね」
「なっ、ウィクトル公子……!」
アルベルトが驚いた隙にルージュを自分の背に隠したテンタシオンは冷ややかな目で彼らを見下ろす。
ルージュがテンタシオンの後ろから彼を呆然と見上げていると、
少しだけ彼女に目線だけをやって「何もされてませんか?」と何故か彼が申し訳なさそうにした。
まるで大切な人に接するかのようなテンタシオンの視線に湧いてくる焦り、アルベルトは慌てて「彼女は俺の婚約者なんです」と説明しようとしたが「いつまでそう思っているんです?」と首を傾げられてつい顔が熱くなった。
(どういう意味だ?ルージュは本当に心変わりしたのか?)
周囲の人達からも感じる「そうであって欲しい」といわんばかりの期待と、本当にもう他人になったかのように訝しげにこちらを見るルージュの両方が気色悪くてアルベルトの胃はムカムカした。
「テンタシオン、私は大丈夫」
「飲み物を取りに行ったつもりが、置いてきてしまったね」
強張った表情のルージュを和ませるように笑うテンタシオンに周囲の令嬢は黄色い歓声をあげた。
それが気に入らないアルベルトは見せつけるようにメーデアを引き寄せて「ルージュ」と低い声で呼び付けたが、今までアルベルトに無条件に向けられていたルージュの暖かい眼差しはもう向けられていなかった。
冷め切ったルージュの瞳がアルベルトを写して、まるで何も期待していない声が「何ですか?」と形の良い唇から発せられる。
テンタシオンの小さな冗談にはあんなにも柔らかく笑うくせに、アルベルトには温度のない瞳でただ眺めるようなルージュがアルベルトは気に入らなかった。
けれど深海のような深い蒼色の瞳が許してくれない。
ルージュへと一歩も近づけないのだ。
一見、紳士的に距離を保っているようなテンタシオンだが明らかに他の者、特にアルベルトを寄せ付けないように牽制している。
昔から鈍感な所があるルージュはやはり何も気付いていないようだが、アルベルトにしてみれば明らかにルージュに気があるテンタシオンを放っておく訳にはいかない。
確かにメーデアは魅力的な女性だが、だからと言って彼女と結婚するのかと言われればそれは違うのだ。
ルージュを失いたい訳ではないし、結婚するならルージュが良い。どちらを愛しているのかと言えばルージュを愛しているのだ。
新鮮味こそ無いし、鈍感で面白味もないがそういうルージュをちゃんと好きだと思っている。
だからこそテンタシオンのように割り入ってくる者がいると落ち着かないし、気に入らない。
どうしたってルージュはもう自分の婚約者なのに。
そうアルベルトは考えていた。
けれど本来はとっくに二人の婚約は解消されているし、彼にとって息抜きのメーデアによってルージュが彼の元を去ったことすら隠されている。
勿論、メーデアとてまさか婚約解消の手紙が届いているとは知らないが、彼女の策略によってアルベルトへと届く情報が限られているのでどちらにせよメーデアにとっては都合がいい状況だろう。
テンタシオンはアルベルトの腕に絡まりながら自分に色目を使うメーデアを他の誰にも気付かれないように鼻で笑った。
「なっ……!!」
「どうしたんだ?メーデア」
「アルベルト様……いいえ、何も」
まさか他の男性に色目を使っていたとは言えずに、メーデアは悔しそうに俯いた。
アルベルトを愛しているが、侯爵邸でいつも嘲笑っているルージュが自分より身分のいい者とうまく行くのが気に入らないからだ。
そんなことさえもお見通しだと言わんばかりにテンタシオンはあくまで紳士的に、けれど大切そうにルージュをエスコートした。
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