20 / 43
認められない婚約
しおりを挟むマルグリス前侯爵夫妻の馬車が到着したと言う知らせにメーデアは冷や汗が噴き出た。
心拍数が上がり、執務室で気怠そうに「出迎えてくれ」と大して忙しくもないのに自分に命じたアルベルトに少し苛立つ。
仕込んだ避妊具を何個も使って夜を過ごした。
お酒で理性を失ったアルベルトとは避妊具を無しで交わったりもしたし、たった一日半程度だったがかなりの回数を重ねた筈だ。
(まぁ、二日酔いってわけね)
気怠そうなアルベルトの要因の半分はそのせいかと仕方なく文句を飲み込んで落ち着かない自分を心の中で宥めながら二人を出迎えに向かう。
「お帰りなさいませ、大旦那さま、大奥様」
馬車から降りて来た二人の複雑な表情にどきりとする。
大奥様こと、アルベルトの母親はまるでメーデアを突き刺すような瞳で見てから「ルージュさんは?」とだけ言葉を発した後は一度も目が合わない。
何も前からこうではなかった。
二人はもっと穏やかな表情で「いつも悪いわね」と労ってくれていたのに。
「ルージュ様は近頃お越しになっておりません」
「噂は聞いているわ。勿論すべて」
「カミレア、アルベルトが先だろう」
視線こそ冷ややかなものの、穏やかな口調のアルベルトの父に安堵する。これならなんとか乗り切れそうだと考えながら応接室までの気まずい時間を耐えた。
けれど実際にはこの二人こそが直々に離縁状に承諾し、ルージュとアルベルトの婚約解消に一役買っているのだ。
そんなことを知る由もないメーデアはどう時間を稼いで、その間にどうやって印象を良くしようか。だなんて甘い考えを巡らせていた。
「父上、母上、お久しぶりです」
先ほどのだらしなさが嘘のようにキラキラしたアルベルトに半ば呆れながらも、ルージュはアルベルトのこういった外面に自分も惚れていたことを思い出した。
(いつもこうしていると素敵なのに……)
「ああ、元気そうで何よりだ」
「アル……貴方本当に大丈夫なの?」
母親の不安げな表情に首を傾げたアルベルトは父親の厳かな雰囲気に少したじろぐ。
「い、家の事なら俺とメーデアがちゃんと……」
「本当にか?」
「はい!前よりもマルグリス家を繁盛させたじゃないですか。俺達ならきっとこの苦境も乗り越えてみせます」
「俺達とはまさかそこの秘書殿のことか?」
「はい。彼女は有能な秘書ですし、ルージュだって今はへそを曲げていますがすぐに戻ってくるでしょう」
彼の両親は意味深に顔を見合わせて残念だという風に小さく頭を左右に振るとちらりとメーデアを見てまた溜め息をついた。
自分達よりも高価で華美なドレス。
マルグリス侯爵家の給料がいくら良いとはいえ、秘書の稼ぎだけではこんなに高価なドレスや宝石を身につけられる訳がない。
二人はそんなメーデアを見てルージュが離縁を申し出たことに納得をした。そしてとある決心をした。
前侯爵は、その「とある決心」の為にアルベルトとマルグリス侯爵家の様子を確認しに来たのだ。
「……少し休ませて貰うよ」
「父上……!!」
「アル、私達少し疲れたみたい。休ませて頂戴」
「はい……」
アルベルトとメーデアは知る由もないだろう。
ただ一人、この邸で知ることになるのはセントリックのみーー。
「大旦那様、大奥様、お休みの所申し訳ありません」
「いいや。要件は大体検討がついている。今までよく頑張ってくれたね」
アルベルトの父、ジーランドはセントリックからの辞表をゆっくりと裏返して「これは受理する、だが君をまた雇いたい」と申し訳なさそうに笑った。
「私の養子の教育係として領地に一緒に来て欲しい」
「よ、養子ですか!?」
「念の為だ。このままならアルベルトの廃嫡を考えている」
セントリックは慎ましやかだが誠実に昔ながらのやり方でマルグリスを守ってきた自らの主人に敬意を持って頭を下げた。
「承知しました。旦那様のお心のままに」
4,815
あなたにおすすめの小説
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
なにをおっしゃいますやら
基本二度寝
恋愛
本日、五年通った学び舎を卒業する。
エリクシア侯爵令嬢は、己をエスコートする男を見上げた。
微笑んで見せれば、男は目線を逸らす。
エブリシアは苦笑した。
今日までなのだから。
今日、エブリシアは婚約解消する事が決まっているのだから。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした
凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】
いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。
婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。
貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。
例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。
私は貴方が生きてさえいれば
それで良いと思っていたのです──。
【早速のホトラン入りありがとうございます!】
※作者の脳内異世界のお話です。
※小説家になろうにも同時掲載しています。
※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)
婚約破棄は喜んで
nanahi
恋愛
「お前はもう美しくない。婚約破棄だ」
他の女を愛するあなたは私にそう言い放った。あなたの国を守るため、聖なる力を搾り取られ、みじめに痩せ細った私に。
え!いいんですか?喜んで私は去ります。子爵令嬢さん、厄災の件、あとはよろしく。
私よりも姉を好きになった婚約者
神々廻
恋愛
「エミリー!お前とは婚約破棄し、お前の姉のティアと婚約する事にした!」
「ごめんなさい、エミリー.......私が悪いの、私は昔から家督を継ぐ様に言われて貴方が羨ましかったの。それでっ、私たら貴方の婚約者のアルに恋をしてしまったの.......」
「ティア、君は悪くないよ。今まで辛かったよな。だけど僕が居るからね。エミリーには僕の従兄弟でティアの元婚約者をあげるよ。それで、エミリーがティアの代わりに家督を継いで、僕の従兄と結婚する。なんて素敵なんだろう。ティアは僕のお嫁さんになって、2人で幸せな家庭を築くんだ!」
「まぁ、アルったら。家庭なんてまだ早いわよ!」
このバカップルは何を言っているの?
【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
わたしを捨てた騎士様の末路
夜桜
恋愛
令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。
ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。
※連載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる