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歓迎される婚約者
しおりを挟むテンタシオンの両親への挨拶の為に改めて訪れた大公家の邸はもう殆ど城と言っていいのではないかと思うほど広大だ。
ルージュはテンタシオンの婚約者として大公夫妻に挨拶し来た訳だが、今更になって不安な気持ちと心の中で格闘していた。
親同士の仲が良いとはいえ、ルージュは悪い噂の渦中であるアルベルトの元婚約者だ。大公家に歓迎されるとは到底思えない。
もしかしたらテンタシオンの両親は優しいあまり本心を隠してくれているのではないだろうか?
(まずちゃんと話し合わなきゃ)
「不安なの?」
「テンタシオン……。そうね、少し不安かも」
あまりに緊張感のある表情のルージュにテンタシオンは少し笑って立ち止まるとルージュの手を優しく両手で包んだ。
見てみぬフリを心がけているもののメイド達からは「きゃっ」と短く控えめな黄色い声が漏れた。
「あの公子様が……」と従者達の驚く声まで聞こえてルージュはここが大公家の廊下だということを実感して赤面した。
テンタシオンが適齢期になっても婚約者を決めなかったことも、彼が女性に興味を持たないことも有名な話らしいが、ルージュはアルベルト以外の男性に興味を持ったことがなかった所為か、今のテンタシオンがあまりにも優しすぎる所為かにわかには信じられない。
「うちで働く者達は皆、優秀なんだ」
「ええ、とても親切で優しいわ」
「そして忠実でもある。だから……」
テンタシオンの言葉が聞こえているのか、使用人達は表情こそ穏やかなもののピシリと姿勢を整えている。
「主人の意に反して、歓迎したりしないよ」
「ーーっ!」
大公夫妻がもしルージュを歓迎していなければ、邸内がこんなにも穏やかな雰囲気だっただろうか?
いくらもてなす様にと命じられてもどこかに招かざる者への軽蔑を感じる筈だ。
けれど、それどころかウィクトル太公家の雰囲気はまるで長年通い慣れた場所のようにアットホームで、まだ正式な発表もできていないのに「おめでとうございます」だなんて嬉々とした表情で声をかけてくれる。
祖母よりも歳上の長年務めているという住み込みのメイドのステラは涙まで流してくれた。
これが大公夫妻の友人であるルージュの両親への礼節だとすればやりすぎだし、そもそもウィクトル太公家にそんな芝居を打つ理由もメリットもないだろう。
ルージュは途端にウジウジと考えていた自分が恥ずかしくなって、切り替えるように短く息を吐いた。
「少し弱気すぎたわ、もう大丈夫」
ふわり、緊張の解けた表情で微笑んだルージュにテンタシオンはすぐにでも抱きしめたい衝動に駆られながらもなんとか堪えて、彼女から視線を外せないままエスコートをし直した。
「ようこそ、ウィクトルへ」
「待ってたわ!ルージュ!」
応接室とは違い、暗めの色の調度品で揃えられた重厚感のある当主専用の執務室で待っていたウィクトル太公夫妻は、ルージュ達が婚約した為に手続きや変更が必要なものや、婚約式の資料を並べた机を前ににこやかな表情で出迎えてくれた。
「担単刀直入に言うわ」
ウィクトル夫人がルージュを真っ直ぐに見つめる。
テンタシオンの雰囲気は父似であるが、顔立ちは夫人によく似ている所為かどうも落ち着かない。
「私たちは貴女を歓迎しています。ねっあなた?」
「あぁ。よくテンタシオンを選んでくれたと感謝している」
「そんな、身に余る言葉です」
「はは、ルージュはモテる自覚が無いんだよ」
テンタシオンの言葉「そうみたいね」と夫人が笑った後、太公が咳払いをしたのを合図にルージュ達は彼の言葉を待つように視線を向けた。
「けれどきちんと全てを整理しなければならないね」
「はい。婚約式をもって公表するつもりです」
「本人と話が通じないこと以外は全て整っております」
テンタシオンとルージュの報告に満足気に頷いたウィクトル太公は「なら、今日は家族だけでお祝いしようか」と先程の威厳が嘘のように優しく微笑んだ。
ルージュは無事、ウィクトル太公家に歓迎され祝福される婚約者となれたがその同時刻、マルグリス侯爵家では二人の女性が静かに戦いを始めていた。
「メーデアさん。少しいいかしら?」
「はい大奥様……私もお話ししたいと思っておりました」
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