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王太子とディザスター

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今日も、少し早めに馬車を停めてフリアの目立つ馬車が到着するのを待つ。

学年が違うものの魔法や体術の授業や、自らが選択して受ける授業など学年ではなくレベルに応じて分けられた授業では常に一緒に居られるし、

王族やそれに準ずるディザスター公爵家は滅多に食堂を使わないので、どちらかの専用の部屋で食事を共にする事が多い。


簡単に言えば、学園内では殆どの時間をフリアと過ごす事が出来た。


学園ばかりはもう卒業してしまった彼女の兄達も付いてくることは出来ずに、毎朝どちらかまたは二人共に送られてくる彼女が馬車を見送るのをこうして待っている。


ファルズフとベリアルはイカれた奴だが話せる人間だし、決して嫌いではない。

寧ろ偽善的で空っぽな正義を掲げて擦り寄ってくる奴らより信頼できるとさえ思っている。

(そう考える俺も相当疲れていると言うことかな)



「ソル」

「フリア、おはよう!」

「また待ってた?」

「いや、来た所だよ」

「もう王太子なんだからさっさと安全な所入ってなさいよ」

「そんなにヤワじゃないよ」

「私より弱い癖に」



そう言いながらも肩が触れそうなくらい近くにいる僕に嫌な顔一つしないフリアに嬉しくなる。


何故ならば兄達の異常な教育の所為で、勝手にフリアに触れようならば彼女の強力な魔法によって弾き飛ばされるのが常だ。

それがどんな身分でも、どんな地位の者でも容赦はしない。

そう躾けられているのだから。ほぼオートモードだった。



こうしてフリアの頬にかかった横髪を避けてやったり、こんなにも近くを隣り合って歩けていると言う事は彼女からそれを意識的に許されていると言う事になる。



「ふふ」

「なに、ソル」

「嬉しくなって」

「変なの」

けれど、俺にさして興味が無いフリアは特に詮索してこない。


俺とフリアが仲良くやっているのを知ってもあのイカれた兄弟が殺しに来ていない所を考えると、許されているのかもしくは程のいい護衛のように思われているのか、


(王太子を男避けに使うなんてほんとイカれた兄妹だよ)


「あー、それでも好きだなぁ」


「ほんと変よソル、いつもだけど」

(とうとう聖女に恋したかな?)



「ちょっとは報われても良いと思わない?」

(もう幼い頃からずっと側にいるんだけど)


「そうね」

(もう早くくっついてよ、兄様達が惚れちゃう前に)


「協力してくれる?」

「いいわよ」


(あーこれは分かってないな)

「でもま、いっか」

「?」

「宜しく頼むよフリア」

「ええ!任せて頂戴」

そう言って自信満々の笑顔で頷いたフリアが可愛くてぎゅーっと胸が縮むような気分だった。



何故か近頃は更に薄くなった警戒心。


まるでフリアがやっと懐いた猫のようだと感じて愛おしくて仕方なかったが、ふとあの見目麗しいヤバい双子を思い出して身震いした。



「フリア嬢!!少し話が……」


(あ……あれは新任の教師だったか)

近頃入ったばかりの新任教師が身分と容姿でフリアを狙っているのは一目瞭然で気づいていないのは本人くらいだ。

ソルがフリアに伸ばす男の手を払おうとした所でピタリと動きを止める。


(いっその事痛い目に合ったほうがいいかもな、教師だろうと俺が揉み消せば問題ないし)



男の手がフリアに触れそうな所で、フレアを纏う雰囲気が禍々しくなって顔色を失った男を強い力で少し離れた壁まで弾き飛ばした。

表情を変えないフリアはゆっくり振り返って軽く眉を下げると、

「ごめんなさい、先生。触れられるのは嫌なの」

って言っただけで教師は顔を真っ赤にして震えていた。

見せつけるようにフリアの肩を抱いて振り返り、教師を見下ろす。


「殿下……?」

まるで貴方は触れられるのかと言いたげな表情で、愉快だった。


「ソル?あの人不味かったかな?」

「生徒とは言え許可なく女性に触れるのはタブーだよ」

「そうよね、気をつけろと兄達に言われているの」

「知ってるよ、俺はいいの?」

「ソルはいいの、嫌じゃないから」



軽く目を見開いた教師に、王太子らしく爽やかな笑顔を向けて挨拶をすると悔しそうにに俯いたのを確認してフリアの肩を大切に抱いたまま歩き出す。



何故か少しあのイカれた双子の気持ちが分かる気がした。


(あぁ俺もかなり毒されているな)



 









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