別れてくれない夫は、私を愛していない

abang

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リーテン国、クレイブン侯爵家のとある一室では治療されてベッドに横たわる女性と顔面蒼白な男性が居た。


セレンがいくら騒いでも邸内で起きた事を証言する者は、セレンとアッシュの他にはおらず。使用人含め全員が「何も見ていない」とセレンの怪我の真相を隠蔽した。


セレンの母は、娘の命まで奪う事は出来ずに座り込んでただ悔いるように矛盾する感情を吐き出すだけだったが執事と侍女たちによって部屋へと戻され、今は専属医の治療を受けている。



「セレン……また来るよ」


「……」


口の片方を裂かれて、短くバラバラの揃わない髪、いつもギラギラと輝いていた瞳は曇り返事をしないセレンにアッシュは邸を後にした。






「アッシュ、来なさい」



邸に帰るなり母に呼ばれて付いて行くと神妙な面持ちで待つ父が居た。



二人は悲しそうに「なんで黙っていたのか」と問いかけて来たが、それが一体何のことだか分からない。



「父上、母上、セレンの家にはしばらく会えないと言いに……」


「その話じゃない」

「アッシュ、貴方……あの事故の時」


「え……事故?」


「あなたをセレンが押したの?」



母の言葉に頭が真っ白になった。

確かにあの時、セレンが僕を押したがそれは


「アッシュが私を傷つけたからよ」そう言っていた。


巡り巡って結局は自分の所為なのではないか?


けれど「セレンが押した所為だ」と言えば……



(僕の所為じゃない、だって僕はただ……)




「そうです、セレンが僕を押したから馬車に轢かれそうになって、それでセレンの……その、おじさんが……」 




「もう良いアッシュ」

「あなたの所為じゃないわ」



両親の表情が久しく見ていない穏やかな表情に見えてほっとする。




「そこでだ、アッシュ」


「はい、父上……」


「セレンの事はもう忘れなさい」


「でも、セレンは怪我を……っ!」


「その事なら使いが来て聞いた、他言するな」


「忘れなさいアッシュ」



罪悪感、安堵、セレンを失う恐怖感、

(僕にはもうセレンしか居ないのに?)



「交流会がまた、開かれる」

「!」


「別のちゃんとしたパートナーを付けて、参加するなら参加を許可する」


(エレノアに、会える……!)


「分かった……、セレンの事はもう忘れます」



「良かったわぁ!!!あなた……!」

「あぁそうだな」


そう言って僕の目の前に置いた、見合いの釣書をみて驚いた。



「アイリーン公爵令嬢……?」


「あぁ、我が家の名声はお陰で地に落ちかかっている」


「だからって……!」


「エレノアのお陰でうちには事業があり、金がある」


「由緒正しい名家、スリマン公爵家の令嬢だが結婚の望みがない」




それもそうだ、アイリーン嬢と言えば容姿は並だがなんせ心が汚いと言われている。


家門の力と金の力で男遊び三昧、身も心汚れていて、子も二度堕している。


派閥の令嬢達以外からは敬遠されており、金遣いも荒く気に入らない者には容赦ないが頭が良いとは言えず子供のような手口ばかり。


我儘で、高飛車……あげるとキリがない横暴ぶりなのだ。



「む、無理だ……!」


「誰のせいで、名声が地に落ちかかっているのか」


「え……でも、」


「この婚姻に拒否権はないぞ、アッシュ」


「じゃあ、次にセレンを見ても交流会のパートナーを彼女にしたいのなら考えましょう」

「お前……」

「大丈夫よあなた」

 
母の笑みの理由は分からなかったが、「ありがとう」と部屋を出て交流会の為に仕立て屋を呼ぶことを命じた。




(エレノア、やっと会える!)


けれど後日尋ねたセレンの家で彼女を見た瞬間、驚愕した。




「アッシュ…….」


「セ、レン……?」








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