別れてくれない夫は、私を愛していない

abang

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不安になる程の平和、針の筵を想像していたエレノアにとって驚くほど温かいラルジュ国は、リーテンで必死に侯爵夫人をしていた時よりも心地よい環境だった。



「お兄様、どうしたの?」

「お前に贈り物だ」


一室に山ほど積まれた贈り物、国中から招待や帰省の挨拶お祝いが届いて、その中には珍しいが、求婚なんかもある。


エタンセルは「シドが煩いぞ」と内心でやれやれと思っていたが、意外にも鈍感な筈の妹が目敏く一つの箱を手に取ったことに驚いた。



「これ、開けてもいいかしら」

「ああ、全部お前宛だよ」


(それは、シドからのものだな)



あの夜会からすっかりとさらに距離が縮まったシドとエレノアは、どう見ても上手くいっているように見えるが実際の所まだ恋人だと言うには早い段階らしい。


ここまで来ればもうさっさと掻っ攫ってくれとさえ思うが、シドには変な拘りがあるらしく、やっと落ち着いたエレノアの気持ちに波風を立てたくないのだそうで、


「エレノアを大切にしながら、ゆっくり貰うよ」

なんて笑っていた。

ふと、思うのはシドどころが皆にエレノアとアッシュが白い結婚だったと公表すればエレノアの懸念は無くなるのでは?と、



それでもまぁ、殆どもう公認されたようなものだしシドにまかせていれば大丈夫だろうとエレノアの頭を撫でながら思案した。






「わぁ!綺麗……!」


「送り主に心当たりがあるのか?」


「うん、きっとシドだと思ったの。正解だった」



エレノアは気付いていないだろうが、これ程までに幸せな表情をした事があっただろうか?


こんなにも安心しきった、幸せそうな表情をするのは昔以来でその時も傍にはシドがいた気がする。




「よく似合うな」


アクセサリーを一式、色味は二人の外見をイメージしたものだがデザインを見れば気遣いが分かる。



シドはいつもエレノアに似合うことだけを考えて作られたものを贈ってくる。それはも知り尽くしたようにぴったりとエレノアだけに似合うものだ。


時々親友に垣間見える執着にも似た愛に鳥肌が立ちそうになるが、シドは決してそれでエレノアを傷つけたりはしない。



「交流会?」


シドからの手紙を読んで呟いたエレノアは、私の顔を見て首を傾げた。


「これを着けてパートナーとして参加して欲しいと書いてあるの、私が参加するならばと書いてあるわ」


勿論交流会で伯爵家以上の家門が欠席することはあまりないので、エレノアも参加必須ではあるのだが、まるで無理しなくてもいいと言うような口ぶりで書かれている内容にほっとする。



「どうする?」

(お兄様まで、私に選択肢をくれるのね)


「大丈夫よ、もう私はヴァロアでしょ?」

「ああ、今の所はな」

「今の所は?」

「ラルジュになるかもしれないだろ」

「~~っ!お兄様ったら!」

「嫌なのか?」

「嫌じゃないわ……でも」


俯いたエレノアの頭に手を乗せて「大丈夫だ」とだけ言ってやる。


成長するにつれて強かになったシドはきっと今回も上手くエレノアを守るだろう。



「じゃあ、交流会の衣装合わせをしないとな」


顔を上げて呆けているエレノアに笑った。


「シドの都合を聞いてくれないか?」

「分かったわ……ありがとう、お兄様」

「私にとってのオーリアのように、シドにとって血縁者以外に命を捨てても守りたいものがエレノア、お前だよ」


「え……」


(いや……シドは国王を差し置いてもエレノアを取るかもな)


「昔から、ずっとそうだよシドは」



エレノアは、夜会の時のシドの告白が頭の中でぐるぐると回って振り払えない。顔が熱いのもその所為だろう。


「不憫な親友が独身で老いる前に助言だよ」


「……っお兄様の意地悪、私ね」


「ん、何だ」


「きっと、もうシドが好きーー」


「ふ、そうか」


「ずっと同じ特別だって思ってた、けど、変わっちゃった」


「遅かれ早かれそうなってたさ」


「これじゃ私、アッシュの事言えないわね……」


「一緒にするな、お前とアイツは違う」


さぁ、手紙を書いてこいと背を押してやると申し訳なさそうな表情なのにほんのりと桃色に染まった頬に困ったように手を当てて、「行ってくるわ」と返事をした。


ぽそりと「お兄様も、大好きよ」と小さな声で落として行ったのを聞き逃しやしなかったが心に留めておこう。













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