婚約破棄された地味令嬢(実は美人)に恋した公爵様

abang

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42.理由なんてただ単純で

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ゴルジエの残った財産の中でロベリアに分け与えられたのはさほど多い財産では無かった。

仕事などした事は無いし、この金で一生暮らすには節制しなければならない。けれどもどうしてもあの華やかな生活を思い出してしまう。


綺麗なドレスを着て、地味な親友に優しく付き添うロベリア・マリシャス伯爵令嬢だった頃が恋しくて仕方がない。

ただの引き立て役に過ぎなかった家柄が由緒正しいだけのエリス・クロフォードは今、淑女の羨望の的となり更に王族でもあるヴィルヘルム公爵家の次期女当主となるべく女性として持て囃され、野暮ったい装いで覆い隠していた美貌を惜しみなく曝け出している。

私達がエリスがジョルジオを上手く誑かして私を嵌めた所為。


長い間親友としてやって来たので、エリスの事はよく知っている。


彼女が孤児院や病院を慰問することも、騎士の家門の出らしくクロフォード伯爵令嬢として戦争で病院生活を余儀なくされた者達を支援している事も。

だからそんな卑しい身分の者達には女神のように慕われ憧れられている事もだ。


「そうね、明日は兵士達の支援で都外の病院へ行く日ね」


定期的なスケジュールは変わっていない筈のエリスの行動を読んで、もう手は打ってある。

クロフォード家の公務なのでジョルジオとは別行動だろう。

本当は現地であの美しい顔が歪むのを見ていたいが、平民なんて卑しい者達に優しいエリスが成す術なく手中に落ちる様は諦めるべきだろう。


(私の仕業だと知ればきっと、公爵が黙っていない筈よ)


ただ少し、憧れのエリスの話を卑しい者達と話しただけ。


それだけでまさか私だとは思うまい……


朝早くから支度を済ませたエリスは、いつもは見送る側だが今日はケールに見送られていた。

すぐにケールも別件で出るもののエリスが心配で見送りに来たのだ。



「エリス、一人で大丈夫か?」

「ええ大丈夫よ」

「やっぱり俺も一つ仕事が終わったら追いかけよう」

「心配性ですね、でも……お兄様に会うと皆喜ぶと思うわ」

「尚更行こう」



慰問とはいえ近頃身辺が騒がしい。

特にエリスの容姿が明るみに出た所為で付け狙う者が増え、ジョルジオからも特に気を付けてくれと頼まれている。


(団長に言われなくても、可愛い妹は守るが)


どの道、遠慮するエリスにこっそりと隠れて公爵家からの護衛をつけているのだろうが都心を外れた小さな病院では離れた所から見守る他ないだろう。



公爵家の紋章の付けた騎士達が病院を取り囲んではかえって迷惑になってしまう。ケールはジョルジオならばそう考えるだろうと踏んで前の仕事を終わらせてすぐに向かおうと決めた。


エリスとしては特にいつもと変わった事もない上に、一部の貴族が平民や身分の低い貴族を嫌っているのを知っていたので慰問の際には一度も何か起きたことがないので、特別警戒することもない。

早朝に出て、着いたのは昼を回っていたが今日はここから王都の端に戻ってすぐにある馴染みの場所に宿を取っているので問題はないだろうと兎に角間に合ったことに胸を撫で下ろした。



「エリス様!いつも足を運んで下さってありがとうございます」

「スザンナさん、お久しぶりです!」

「手紙の通り皆良好です。これもクロフォード伯爵家様の、エリス様のお陰ですわ!」

「そんな、お父様が許して下さらないと実現しなかったわ」


戦争で夫を亡くしてからずっと、足の無い兵士や腕のない兵士、精神を病んでしまった兵士達を支えて来たスザンナに出会ったのはまだあどけない少女だった頃だったが、顔見知りの騎士の妻であった彼女の活動に心を動かされて王都を少し外れた穏やかなこの場所に専用の施設を作ったのだ。

元々は金銭の支援をしていたクロフォード伯爵だったが、エリスの話を聞いて「やってみなさい」と優しく微笑んだらしい。

「あら……」

「オーリスですね……彼はまだ少し不安定で」

エリスを遠目に見ながらぶつぶつと小さな声ですっと何か考え込んでいる青年を見て、スザンナは悲しげに「まだ若いのに」と言った。


五体満足ではあるものの、彼は一度捕虜として捕まった際に酷い扱いと仲間達の残酷な死を目にして精神を病んでしまった。


けれどもエリスが来ると淡く微笑んで、二言ほど交わせるくらいには改善されていた筈だったのにとエリスもまた戦争の過酷さに心を痛めた。


「オーリス、お久しぶりね」

「……エリス様……んだ……から、」

「ゆっくりでいいわ。話してみて?」

『なんで浮気したんだッ!!!』

「!!」

「キャア!!!」


咄嗟に避けたものの不安定だが温厚筈のオーリスが声を荒げ、尚且つ全く理解の出来ない内容に驚く。

元は腕の立つ兵士とはいえ、一発喰らわせるくらいはエリスにも出来るかも知れないと頭を過ぎるが弱車を守るという騎士道の下で教育されたエリスには身も心も戦争で傷んだ歳下の青年を打つことを躊躇した。



「オーリス、何か勘違いをしているわ」

「俺の為に通ってたんだろう?俺の恋心を弄んだのか!?」

「落ち着いて頂戴、それ貴方の勘違いよ」

じりじりと詰め寄ってくるオーリスと、エリスを庇おうと前に出たスザンナ。


「オーリス、エリス様はご婚約されたのよ。此処には慰問で……」

「す……スザンナは黙ってろ!!!」


突き飛ばされて気を失ったスザンナに駆け寄って思案する。


誰かの差し金ならば暴行だとか、間男だとかどちらにしろ覚えのない汚名が着せられるであろう。とにかく今はオーリスを宥めてスザンナを治療してやるのが先だ。



(さて、どうして切り抜けようかしら)






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