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43.ブランクなんて言ってられない
しおりを挟む「エリスさん……が、俺を裏切るから……」
相変わらず何の話か分からないことを言うオーリスに気味悪さを感じながら彼を避けながらなんとかスザンナを抱き上げた。
恐怖と違う理由で小刻みに震える腕は、騎士の家系だというにも関わらず女だからと剣を握ることが滅法少ない所為でもある。
いくらエリスが剣を扱えると言っても華奢な身体で、細い指を最大限に使えると言うだけで兄のようにはいかないだろう。
だとしても、そんな事は言っていられない。
それでもオーリスを何とか倒すことが出来たとして、この不自然な状況では次に何が起こるか分からない。
仕組んだ者がいたならば病人を殴った令嬢や、令嬢らしからぬ行動と噂で婚約者のジョルジオの顔まで汚してしまうのが目的かもしれない。
倒れてしまったスザンナもまた、この不自然で何が起こるかわからない状況下で放っておくことはできないので守りながら行動するべきだろう。
(ここにも護衛や騎士を置いておくべきね……)
女性とはいえ自分より少し重いくらいのスザンナを抱き上げて動くのもそろそろ限界が近づいて来ている。
低いヒールが幸いしたが、それでも土踏まずがピリピリと痛む。
ズリズリと足をひきづる音や不規則な足音が聞こえ誰か他の者達が来たのだと顔を向けたものの尚更不安が募る。
いつもとは様子の違う患者達が血走った目でエリスを捉えていた。
それに加えて口々に理解し難い言葉を発していて不気味だ。
何故か皆が「裏切った」と思い込んでいるらしく、中には此処を取り壊すと言っている者まで居りとうとうコレはエリスを狙って仕組まれたものだと確信して、入り口で待機させた護衛騎士を呼ぼうと振り返ったが完璧に取り囲まれている。
「スザンナが邪魔だな……」
誰かがエリスのドレスに手をかけようとして、スザンナを引っ張る。
抵抗しているもののいつまで体力が持つか……と思っていると聞き慣れた声が二つと、指示を受けて何やら返事をするもう一つの声。
一人は自らの実の兄ケール、そして待機していた護衛騎士……
(公爵家の紋章……ジョルジオ様かしら)
「お兄様……っ」
「エリス、良くやったな」
「スザンナが、」
「ご夫人を守れて偉いぞ、さすがクロフォード家だ」
ケールが優しく微笑んだ後打って変わって冷ややかな目をする。
剣を使わずに素手で気絶させていくあたりケールもきっとこの状況が彼らによって作り出されたものでは無いと気付いている様子で、あっという間に血を流す事なく倒したものの、まず今は状況を調査すべきだと言うようにエリスに視線を寄越した。
「大丈夫か?」
「はい、お兄様のおかげで。このまま調査に移りましょう」
念の為行動を制限して各自部屋に軟禁し、スザンナの看病を他の者達に任せ護衛を付けると、公爵家の騎士の報告によってジョルジオがすっ飛んで来る明け方までは近くの宿で過ごした。
「ケール!!エリスは!?」
「殿下っ、ケール卿とはいえまだお目覚めでは……」
「団長。わざわざ足を運ばぬように伝達しましたが……」
「ケールは俺の声で目覚めるんだ、ジョセフ」
「すみませんケール卿……殿下を止められず」
「いえ、大体想定内です。団長エリスは一緒に居ます」
ほっとしたような表情のあとすぐに顔を青くして同じ部屋かと聞くジョルジオに呆れたように「安全の為です。それに兄妹ですので」と額を抑えた。
「……状況は?」
「目星は付いていません。目的も不明です。周囲に不審な動きが無かったか聞き込み中なのと患者達の精神状態を見ながら聴取するつもりです」
「そうだね、公爵家の暗部に調べさせよう。お父上の顔色が真っ白だったぞ早く処理を済ませて帰ろう」
部屋の中でまだ眠っているだろうエリスを想うように眉を寄せてジョルジオはケールに言うとすぐさま宿の周囲に警戒体制を貼ってエリスの起床を待つと別室を用意させた。
暫くして、病院に出入りする見慣れない人物の目撃がいつくか浮出て来た。
それは支度を済ませてジョルジオとケールと食事をするエリスにとってかなり見覚えのある特徴の者だった。
「まさか……」
(ロベリアが、何故今更こんな事を……)
下級貴族達の間で何故かエリスが精神を病んだ兵士に慰み者にされたと噂になっているようだと言う報告が耳に届くとますます彼女の仕業では無いかと疑念を抱いた。
「彼女は自由になって、財産も引き継いだのでは?」
「きちんと調べてみる必要があるようですね」
考え込むエリスを見てから、ジョルジオは窓の外に視線を移すと彼女には向けた事の無い凍てつくような瞳のまま笑った。
(潰しても、潰しても湧いて出る……情けなど必要なかったか)
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