私の愛しい婚約者はハーレム体質

abang

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英雄と魔王。相反するものの対面

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ゼファーとアシェルが対峙した瞬間の記憶だろうそれは、ただの記憶だと言うにも関わらず肌に感じるジクジクと刺さる二つの魔力があまりに強くて実際にその身に傷がつかないにも関わらず、思わず身を抱いた。




「……君の名は何と」



「アシェル・ヴォルヴォア……なんかあんた嫌いじゃないね」



「ヴォルヴォア……母の名は?」



「知らない。それよりこれは意図したんじゃなくて、暴走だね?」



「もう、私にはどうにも出来ない……私の子は息子だったのだと知った時にはもう皇帝の手中だったと知り怒りが抑えられなかったのだ」




「息子?……まさか僕の父を名乗るつもり?あれが母だとか?」


魔法に覆われて眠る、若い女性を指差してアシェルが訝しげに言うと、ゼファーは頼りなく眉尻を下げて微笑んで頷いた。



「彼女はセレスティーヌ・ヴォルヴォア。ああ……お前は母似だな」



「え……」



「セレス、やっと見つけたぞ。私がエレオドーラに騙されたばかりに危険を察知して一人で子を産み隠したのだ」



「父さんと母さん……?僕は捨てられた孤児の筈じゃ」



「その瞳は旧国ルナエリアの宝石眼だ間違いない。私より先にエレオドーラが見つけたようだな……辛い目に合わせてすまないアシェル」




「ーっ」



「ああ、これが最期だなんて……ここに居れば確実に命を落とすだろう。どうにかアシェルだけでも」
 


「だめだよ。此処には僕の愛する人が居るんだ」


アシェルが暴発するゼファーの魔力に対抗するように自らの魔力を膨らませては魔法を組み立てていく。



うまくいけば、ここヒスタリシスだけの消滅で済むだろう見事な手腕と力量にゼファーは「流石セレスと私の子だ……」と呟いた。



それでも、そんな事をすればアシェルは共に死んでしまう。

せっかく見つけた我が子を、こんな形で失いたくは無かった。



「アシェル、やめなさい」



「うるさい……っ、僕に親は居ない」



「すまなかった、ずっと探していたんだ!」



「ティアラまで消えちゃうなんて僕がさせないだから一緒に消えてよ




微笑んだ表情はゼファーの頼りなく優しげなものにそっくりだったが、


その容姿は疑うことも出来ぬ程にセレスティーヌによく似ていた。



「アシェル…….っ!!!」



ゼファーの叫び声と、セレスティーヌの瞳が開くのを確認したところでティアラとエバンズの視界が暗転し聞き覚えのある声だけが響いた。





『もう二度と、失う訳にはいかないの』





「「アシェル!!!」」




「セレス……?」

「だ、れ?母さん……?」



真っ暗な闇の中の三人、咄嗟に衰弱したゼファーを庇うように抱きしめたアシェルは自分のその行動に戸惑った表情を浮かべたが、そんな二人に「大丈夫」だと優しげな声で包み込むように言ったセレスティーヌ、



三人の身体がふわりと柔らかい光に包まれて、はぐれないように二人の手を取ったアシェルに軽く目を見開いてから「大きくなったのね」と涙ぐみながらいったセレスティーヌにまたアシェルは戸惑った表情を返しただけだった。



「暗いね」

「ええ、アシェルきっと目覚めるわ信じて」


彼らは深い深い暗闇でただお互いの沢山の記憶を見た。



アシェルはどこからかティアラの声が聞こえたような気がしてハッとすると、突然何処かに引き戻されるような感覚がして目の前が鮮明な色を得た。


(湖……?)


なんだか懐かしいような温かい気持ちだった。



「ああ、やっと闇が晴れたよ。父さん、母さん……」




ーー



そこまで記憶がたどり着くと、ティアラとエバンズの意識は引き戻され目の前で不安げにオロオロとするアシェルと未だ目を覚まさぬゼファー、


そして、涙を流しながら微笑むセレスティーヌが居た。



「私達を暗い闇から救ってくれたのは貴女です、ティアラ嬢」


「そして……エバンズ殿下。あなたは皇帝とは違います」





「いえ……、私はティアラを……」


「僕がそう言ったからだろう。そもそも君は曲がったことが嫌いだろう」


そう言ったアシェルの表情は不貞腐れたようなものだったが、小さく言った次の言葉は確かにエバンズに届いた。


「ティアラを、皆を守ってくれてありがとう」



「……!!」



(ただ、背に隠していただけの事。何もしていないのに)



「そう、そうだったのね……っごめんなさいアシェル、エバ様。私何も知らないまま、また守られていたのね」


ティアラは一筋の涙を流して、悔いるように言った。


エバンズは抱きしめようと伸ばした手をぐっと握って下ろした。


(もう、私の役目は無いな)


アシェルはそっと手を伸ばしてティアラを抱きしめたが泣き止まないティアラにどうしていいのかわからずにオロオロと視線を彷徨わせて、ついにはエバンズともセレスティーヌとも視線が合う。



「……私にはわからん」

「ふふ、そう言う時は優しく口付けてあげるものよ」




そう言ったセレスティーヌにアシェルは複雑な表情を返しただけだった。


(さっきかなり勇気を出して、口付けようとしたら拒否されたのに)


再会の昂りと、感動。どうしても伝えきれない気持ちを勇気をだして行動にしたつもりだったが見事に一刀されてしまったアシェルは二度も拒絶されては立ち直れないとそっとティアラの額に触れるか触れないかのキスをした。






「今まで、振り回してごめん。裏切って、こめん」



「大抵の事はわ。けれど簡単には許さないんだから」



「やるべき事を終えたら、ティアラにだけこの生を捧げると誓うよ」



「また、一人で何かするつもり?」



「いや……、今度は君やと一緒のつもりなんだけど……」


まるで、伺うようにティアラとエバンズの表情を見たアシェルにエバンズは少しだけ笑ってからため息をついた。


「ふ……、はぁ、私は友人と言って貰えて光栄だが?」


「僕は……その、まだ」


「元々ここはルナエリアでその王族の血を引く者が、オロオロするな」


「……」


「こんな血と裏切りに塗れた国の皇族など返って不名誉だ私は。……私達は似た者同士だと思わないか?アシェル」




「……帰ったら、ダニーを紹介するよ」


「あぁ」



何だか分からぬがとても、仲睦まじげに見えるアシェルとエバンズに少しだけ驚きながらも嬉しそうかセレスティーヌと、ティアラ。



そして、セレスティーヌは遥か向こうにある帝都を睨みつけて言う。






「ヘスティアの加護と、鍵となるルナエリアの血が戻ったわ。裏切りと血の歴史を正す時よ」



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