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新ルナエリア国の両陛下方
しおりを挟む白中を飾る華やかな装飾と花、パーティーでもないのに宮廷楽師達は祝いの曲を演奏する。
いつもなら体勢を崩して、片肘をつきながらダニエルの小言を聞いている筈のアシェルも今日はやけにしゃんとしてしている。
何故か、重要な役職につく貴族やその妻、アシェルとティアラの両親までもが謁見の間には集まっておりやけに準備に気合いが入っているなと感じていたティアラも「なるほど」と内心で納得した。
アシェルがゆっくりとカーペットの上を歩いてくると、ティアラの前に膝をついて左手の薬指に指輪をするりと通した。
「ティアラ……改めて、僕と結婚してほしい」
「はい……喜んで」
するとカーペットに突然並ぶ見慣れた皇宮の侍従達は皆何か持っており、両手を広げて自慢げに説明したアシェルはとても嬉しそうに笑った。
「どれも、ティアラの美しさには敵わないけれど、美の女神が隠したとされる世界の七つの宝を全て集めたんだ。君にこそ相応しいと思って」
そして、女神ヘスティアの七つの宝を全て手に入れた者に言われる言い伝えは「永遠の愛」だった。ルナエリアの王子を想うヘスティアが造ったとされるその宝たちは耳飾りやネックレス、盃やバングルと様々な形をしているが、他にはない神秘的な美しさを放っている。
「これを全て手に入れることは不可能だと言われているのに……」
「ティアラの為に出来ない事なんてないよ、これからもずっと」
「……とても綺麗ね」
「あぁ、まるで君の為のものだ」
仲睦まじい様子に皆も嬉しそうに見守った。
二人が口付けをすると、一気にお祝いモードに切り替わった貴族達はやれ結婚式だ披露宴だと騒ぎ立てた。
豪華だが、ふたりに近い関係の者だけを集めた結婚式は静かに、二人の愛を誓う言葉が教会に響くと、ヘスティアの像からキラリと何かが光り一粒落ちた。
「まぁ!ゼファー!あれを見て!」
「セレス……騒いでは……あれは!」
「ヘスティアの涙よ、彼女は二人の愛と王子との愛を重ねたようね」
「これは……」
「なんだろう?虹色に光る宝石?」
「両陛下……これは!ヘスティアの涙と呼ばれる物でこの世に二つとありません。王子の愛の告白に落とした幸せな涙が宝石になったと言われていて、もうこの世には無いはずでした」
大神官が驚いた様子でそう言うと、ティアラとアシェルに微笑んだ。
「ヘスティア様からの祝福でしょう」
手のひらほどのその宝石は、形こそ歪だが七色に美しく輝いていた。
ふたり、は後日その石を使って指輪ん六対あつらえた。
一つは、アシェルとティアラ二人の指に。
そして、ティアラの両親であるウィンザー夫妻と、アシェルの両親であるヴォルヴォア夫妻。
ティアラの親友、プリシラとその夫もといグラウディエンス夫妻。
それぞれに二人から手渡しで贈られた。
そして、悪戯に微笑むティアラと自慢げなアシェルはダニエルとエバンズを呼び出したかと思うと二人に細かい装飾の施された美しい小さな箱をそれぞれ一つずつ手渡した。
「これは…….?」
「私にまで……」
「エバンズ、ダニー。君達にもヘスティアの涙を贈りたくてね。いつか愛する人との永遠の愛を祈って」
「永遠の愛はなにも私達だけに拘らずに、大切な人達の為に何か贈り物を作ろうと二人で相談したのよ」
「ヘスティアの涙をカットするなんて、初めは驚きましたよ……アシェル、ティアラ様、ありがとうございます」
「ダニー、当たり前だろう?」
「そうよ貴方も大切な人なんだから……」
そして、アシェルはエバンズを見つめて少しだけ眉尻を下げると柔らかい声で言った。
「他意は無いよ。油断もしない、ただ君も僕にとってはもう大切な人だから贈りたかったんだエバンズ」
「アシェル、……あぁ。ありがとう、とても美しいな」
そう言って少しだけ照れくさそうに笑ったエバンズの笑顔はどこかあどけなさの感じる純粋なもので、アシェルもほっとしまように笑った。
「私にとっても、エバ様はもう大切な人です。だからどうか受け取ってください」
「ありがたく受け取ろう、私も、ティアラ…………とアシェルが大切だ」
「ちょっと、僕はオマケなの?」
「ふふっ!ありがとうございます」
「アシェル様、きっとエバンズ様は照れ隠しですよ」
「ダニー、やめてくれ……」
「まぁ、エバ様ったは顔が真っ赤よ?」
四人の賑やかな笑い声はしばらく、扉の前の騎士や執事達を和やかにした。
「あっプリシラ夫人!」
「ご機嫌よう、陛下方は……中に居るようね?」
「ええ、とてもお幸せそうでございます」
「入っても?」
「きっとお喜びになられるでしょう……」
「皆様、ご機嫌よう」
「「プリシラ!!」」
「あら、仲がいいのね。私のティアラを泣かせないでね、アシェル」
「ああ……勿論だよ!」
「プリシラ、指輪よく似合っているわ!」
「夫ったらこれを見た時驚いてグラスを落としたのよ」
「ふふふっ、訪ねた時はお仕事だったものね」
「ええ……ティアラ、本当によかったわ。何も出来なくて御免なさい、ほんとうに、幸せそうなあなたを見て安心してるの」
「いいえ、プリシラは沢山支えてくれたじゃない……貴女のおかげでもあるのよ」
「プリシラが来たら僕より、彼女にばかりべったりなんだ」
「お二人は大親友ですからね」
「仕方なかろう」
「あら、皇帝陛下が妬けているようね?」
揶揄うようにそう言ったプリシラと、悪巧みをしているような表情のティアラ。
すると突然アシェルの両頬を両手で掴んだティアラは、アシェルの唇に口付けて、「勿論あなたも愛してるわよ、アシェル」と微笑んだ。
(きゅん)
アシェルは真っ赤になって、意識をどこかに飛ばしたのかぼーっとしている。
「え、エバンズ様……鼻血が」
「………あぁ、すまない」
「エバンズ様……何故あなたが鼻血を流しているの……」
そう言って男二人の情けない反応に呆れたように言ったプリシラの呆然とした表情にティアラは声を上げて笑ったのだった。
「うちの両陛下は仲が睦まじいようね」
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