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視察三日目
しおりを挟む今朝はヒンメルの機嫌が良く、一人で街を歩く事をすんなり許可されたのでやれ幸いと彼と居ては周り辛い服飾店などを見て回ろう。そう思っていた。
(あの人って所有欲が強いのかしら)
平和な視察という名の観光をする予定だった……
「で、これは何かしら?」
「悪いですが、ある高貴なお方からの依頼なのでご勘弁を」
ヒンメルの付けた護衛を捕らえているのだ、それなりの魔法の使い手だという事も、周囲は隠れた敵に包囲されているという事もすぐに分かる。
けれどあえて路地裏に誘導したのはこちらなのだ。
まるで打ち落とされた鳥のようにパタパタと落ちてくる仲間を見て驚いた様子だったが、すぐに此方を警戒した男に拍手を贈った。
「ふざけているのか?」
「いいえ?」
私の様子を窺う男は何故仲間達が降って来たのかも気になるようで他に伏兵が居ないかを探っているようだった。
「ただ、アエリ妃にしてはいい人材を送って来たと思って」
「ーっ、何の話だ」
「いいわ。遊んで欲しいのね」
酸素を奪っていくとだんだんと苦しそうにするその男はもがきながらフードを落とした。
(見た事ある顔ね……)
「あら、貴方ってアエリ妃の義弟君じゃない?」
「ーっ!」
「刺客のふりをして、命令でもされたのかしら」
どうやら図星だったようで、彼は此方を睨みつけると辛うじて動く指先から魔法を撃ったが勿論無駄に終わった。
後継を皇帝に差し出した公爵家が遠い親戚から引き取った養子の彼はどうやらアエリには逆らえない、または逆らわないようで態々自ら刺客としてドルチェを攫いに来た様子だった。
「姉上こそが当主だ、私はただの傀儡に過ぎない」
「魔法の才能は姉君よりあるようだけど?」
だから選ばれたんだと言うような恨めしげな目に悟った。
「貴方、公爵家に居たくて居るんじゃないのね」
「っるさい……」
ゆっくりと近寄って彼の手首に付いた焼印を捲って見つめる。
「やめろ!見るな!!」
「これは、アエリ妃が?」
「家族の為だ!公爵家に従うしかない、だから貴女を姉上の元へ連れて行く!!」
「ほんとうに、家族は生きてる?」
「は……そんな訳、生きてる、だろ」
「公爵家が、そんなに慈悲深いと思う?」
一気に絶望感に染まる表情、けれど何処か正気になったようにも感じる瞳。
彼はきっと心のどこかで分かっていたのだろう。
公爵家が不要なものを見逃す訳が無いと。
その上で信じたく無かったのだろう、家族などもう居ないと。
「ま、調べてあげるわ」
「私は、あねうえに……貴女を……っ」
薄くしていた酸素を元に戻して彼の頬を思い切り打つ。
その衝撃で護衛騎士の拘束の魔法が解けたが、騎士を制止して刺客の彼に向き直った。
「しっかりなさい」
「っうわぁあ、嘘だ、なんで」
「公爵家が憎い?」
「ーっ、憎い?」
「そうよ、きっと親戚でアエリ程度の魔力と才能を持つ者が貴方しか居なかったのね。貴方の家族が死んだのはたったそれだけの理由なのよオーレン」
「憎い……っ、公爵家が憎い!!!もう姉上の、アエリの奴隷はウンザリなんだ!!」
「御免なさいね、治癒は使えないの」
「ゔっ!!」
手首の焼印の形を変えるように、焼いていく。
そしてすぐに氷の魔法で冷やすとオーレンの頭を撫でるついでに彼の髪色を魔法で染めた。
「貴方はこれからレンよ」
「ー何するうもりだ」
「私と来ない?どうせ地獄ならマシな方を選ぶのはどう?」
「マシな地獄……」
「オーレンはここで死んだ。貴方本当は剣が好きでしょ」
何故助けようと思ったのかは分からない。
ただ、家族への愛を利用されるオーレンが昔の自分と重なっただけかもしれない。
「魔剣士、良いじゃない」
「私を……殺さなくていいんですか」
「いつでも出来るわ」
顔を青くしたオーレンに似た背格好の敵の死体を選んで誰か分からないように酷く燃やした。
「さあ、レン。付いてくる?」
きっとこの者はアエリを越えるだろう。
ヒンメルも才能は好きだ、反対をする事はない筈。
「貴女にメリットがない、何故?」
「そうねぇ、嫌がらせかしら」
「はぁ?」
「それと、愛を担保にする悪党って大嫌いなの」
後にドルチェの予想に反してヒンメルは不機嫌になるが、レンがアエリが刺客に送ってきた彼女の弟だと知ると面白そうに声をあげて笑った。
「公爵家を敵に回すつもりか?」
「そうして良いなら」
「困るな、これでも皇帝なんだが」
「じゃあ別人として生きてもらうだけよ」
せっかく金をかけて育てた義弟を刺客にして、命を捨てさせたと実家から怒りを買い、アエリは公爵家との関係がギクシャクとするだろう。
「暫く大人しくしててくれると良いんだけど……」
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