暴君に相応しい三番目の妃

abang

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挑戦と本気

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相も変わらず飽きずにドルチェとティアラの噂話で盛り上がる貴族達は目の前の状況に困惑していた。

先に入場していたティアラを囲んでいた貴族達は皇帝の幼い頃の話や、他国でのティアラの冒険話を聞いて盛り上がり、間違いなくティアラこそが皇后に近い女性かもしれないとどうにか好かれる為に必死に彼女に取り入ろうとしている所だった。


けれど皇帝と皇妃、二人がいつも通り揃って入場するとそれを伝える声に皆が注目しあまりの仲睦まじさに目を見開いた。


揃えた装いのドルチェとヒンメルの距離感はいつも通りおかしいほどに近く、ヒンメルの手はしっかりとドルチェの腰に回っている。

それどころか、ちらほらと見知った顔と挨拶を交わすドルチェをまるで独占し相手を威圧するかのようなヒンメルの振る舞い。

性悪のドルチェに愛想を尽かし、純朴なティアラを側妃にしてゆくゆくは皇后に相応しい心優しいティアラを選ぶのではないかという噂を信じていた者達はヒンメルの姿を見て自分たちの大きな間違いに気付いた。

そもそも、皇帝ヒンメルは暴君。

品行方正など妻に求めていない。

言葉では言い表せないが、求めているものとはきっとこれがドルチェ正解なのだ。

それに、確かに派手なやり口ではあるがドルチェの行動は悪行とは程遠く恐れられてもいるものの民や一部の貴族達からの人気も高い。


「そ、そういえば……皇帝陛下は対等な相手にしか皇后の座を与えないらしいぞ」

「でも、ティアラ様も昔はーー」

「けどあの皇妃殿下を上回るかしら?」


ティアラを見向きもせず、他の貴族達と変わらない態度のヒンメルによってさらに反論せずとも否定される噂。


別にティアラ自身はそう勘違いさせる言動をしただけで噂を懸命に広めたわけじゃないが、立ち振る舞いにはボロが出ないように気を付けていた。

幼い頃から、力を求めるヒンメルの隣にはどんな肩書きであれ自分が立っていると思っていた。

当然に選ばれるのだと信じていたのだ。

煩わしい王宮勤めや、花嫁修行なんて自分には必要ない。
だからこそ逃れる為に放浪の旅に出たのだ。

好きな場所に行き、魔法を学び、自然に触れ皆に愛されて楽しい旅を数年間も過ごしてやっと戻って来た。


この魔力に恵まれたからこそ愛らしい容姿と魔法があればきっとヒンメルに選ばれる。
だから彼はちゃんとした妻を娶らない。


ティアラを待っているのだと、彼女は思い込んでいる。


けれどティアラはドルチェと初めて会った時も、ヒンメルと久々に対面したときも身体の奥からぞわりとした感覚に襲われた。

それもその筈だ。

ティアラが王宮勤めから逃れて遊び歩いている間にヒンメルもドルチェもそれぞれが様々な壁を乗り越え戦ってきたのだ。

逃げることも許されぬ環境で努力を惜しまなかった。


圧倒的な力の差は恵まれた環境で自分を枯らせてしまったティアラと、二人の間に生まれていて当たり前だった。


けれどティアラはそれに気付かないフリをした。

信じたくなかったのだ。幼い頃の栄光にまだ縋っていた。

誰が見ても一目瞭然な状況でも。



ドルチェは沈黙を貫いていたのではない、ティアラを相手になどしていないのだーー

そう貴族達は気付かざるを得なかった。


「ーっ、ヒンメル!」

ティアラは思わずに声を上げる。

けれど興味の持たぬ金色の瞳がチラリとそちらを見ただけで、レントンすらその場から動かず皇宮の侍従が要件を聞きに来た。

(そんな訳ない……、私はヒンメルに選ばれたのよ)

同世代では確かに自分だけが彼と渡り合えた、お気に入りだった筈。

ティアラを見ることもないドルチェに震えと悔しさをぐっと飲み込んで努めて穏やかな声で、はっきりと申し込んだ。


(あんな愚かな家門の娘などきっと私が本気なら勝てるわ!)



「証明します、私と一戦交えてくれませんか?」



ティアラの声にヒンメルはやっと彼女を見た。

そしてドルチェもまた気怠げに顔を向けて微笑んだ。



「いいわよ」


ドルチェの返事に会場が湧き、ヒンメルがドルチェを呼ぶ声に会場がまた静まる。


「ドルチェ」


「ふふ、幼馴染が心配なら手加減するわよ?」

「いや、あっちの心配はしてない」

「そう。じゃあ異論ないわね」


あっさりと勝負を受けるドルチェに少し心配そうなヒンメル。

レントンが何を危惧しているのかと聞くと「ドルチェに擦り傷ひとつ残させることは許さない」と耳打ちした。

「そんな、無茶ですよ」とレントンが呆れているところ、ヒンメルの足元にへばりつくレイとフィアが自慢げに笑い、遠慮がちにフェイトが顔を出す。


「蘇生以外は簡単だよ~」

「私たちいっぱい勉強したもんね」

「ご飯なら作れるよ……!」


ふと小さく微笑んで三人の頭を撫でたヒンメルにレイとフィアはぽうっと見つめて少し照れたように嬉しそうに笑って、フェイトは頭を手で押さえて嬉しそうにはにかんだ。

「僕たち、お二人の子ならたくさんお世話するよ」

「早く赤ちゃん見せてね!」

「ミルクも作れるし、おしめもかえますよ!」


今度はヒンメルが少し照れ臭そうに「やはり餓鬼は全員帰せ」とレントンに言いドルチェが楽しそうに笑うのを見てティアラはやっぱり、必ずドルチェに勝ち妃の座に相応しいと証明するのだと意気込んだ。
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