暴君に相応しい三番目の妃

abang

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心優しき友人と悪評の皇妃

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皇宮からの推薦を蹴り、旅に出たことで家門とは上手くいっていないというティアラにしばらく別宮の来賓室での滞在を許可した。

その際もドルチェは特に渋ったり怒ったりする素振りは見せず、さほど興味がなさそうにレントンとなにやら話していた。
幼い頃の記憶だが、ティアラ思い切った行動をするような度胸など持ち合わせていなかった筈だ。

どのみちドルチェの相手にもならないだろう。
と、昔のまま大きな成長を果たしていない友人を思い出してぼんやりと考えた。

幼い頃に同じように戦えたのは女性の成長スピードが早く、体格差があったことや、まだ子供だったからというのもあるだろう。
けれどあの程度の使い手ならば皇宮に勤めることは充分に可能だろう。

新大陸を手に入れ統治するには戦力となる者が必要になる、だからこそティアラの滞在を許可した。


けれど、数日後の報告にはレントンと一緒に顔を顰めることになった。


魔道具に映るのは別宮や本城のメイドや騎士達に囲まれて幸せそうな様子。
自然学や魔法学に涼しく、動物や万人に優しいティアラの穏やかさや物腰の柔らかさはすっかり宮中の人気を集めているらしい。

それと同時にヒンメルがティアラを側妃として娶るのではないかという噂までが大きく広まっており、けれど皇妃宮の者達は根も葉もない噂話にうんざりしているだろうに特に反応を見せてはいない。

少し気になって皇妃宮へ行くも、ドルチェの執務室の前で思わず気配を消して足を止めた。

(今日はやけに人が多いな……)


くすくすと笑うドルチェの声は言葉とは裏腹に余裕さえ感じ取れる。

「確かに少し、目に余るわね」

「ドルチェ様、どうなさいますか?」


いつもより低いリビイルの声色。

ドルチェの執務机の前に並ぶリビイル、レン、ララ、ジェシカ、その後ろに控えるメイドのライアージェ、エミ、マヤンは神妙な表情でドルチェの指示を待っている。

まさか、扉の前で皇帝が聞き耳を立てているとは誰も思わないだろう……ドルチェ以外は。


ドルチェのお陰ですっかりと元気になったエミの弟は従者見習いとして元気に皇妃宮で働いているし、マヤンは心を入れ替えて、家族と共に居住区へと移り住んで仕えている。

この場の皆が真剣にドルチェの為を想い集まっていた。

ヒンメルが直接ティアラと対面することは無いが、皇族にとって世論とは決して無視できないことなのだ。

それどころか、新しい勢力に媚をうっておこうとティアラを茶会に誘う者達まで出てきているらしく、実際にはティアラの話は特に専門的なことではなく座学で学べる程度の知識だが、さも大変な旅をして得た知識かのように話すのが上手だった。

加えて実際に足を運んで様々な国を渡ったことは素晴らしい事実で、食や文化についての知識は豊富だった事が信憑性を増したのだろう。

それでもドルチェには全てが及ばない。

ドルチェを想い、案ずる彼女の臣下達にそうこの場で言い切ってやりたいと柄にもないことさえ考えてしまう。


「ふぅん、使者の手を切り落とした、令嬢の口を魔法で開かなくした、家門を一つ吹き飛ばした……全部事実ね、悪口じゃないわ」

「ドルチェ様……!」

「リビィ、分かってるわよ」

部屋の雰囲気が変わったのが扉越しでも分かった。


私の神ヒンメルを侮辱した者、私のまだ幼い家族を暴言で傷つけた者、家族に手を出そうとした者……これからも許す気は無いわ。悪評だとも思ってない」

ドルチェの落ち着いた声がよく通る。


「だから、私の行いをティアラと比較された所で比較対象にはならないのよ。抽象的な優しさよりも私は確実にあなた達を守れる私で居たいの」


何となく、ドルチェがこちらを見ている気がした。
扉の向こうのアイオライトが真っ直ぐにこちらを射抜くのが分かる。


「けれど私、浮気者って嫌いなの」


ティアラの立ち位置を測っていてこちらにそれを問いかけているのか?

もしくはいつものようにただ揶揄っているのか?


別に浮気心など持っては居ないし、これほどに欲しいと毎日伝えているのにまさか疑っているのか?なんて考えながらも身体は勝手に素早く動いていた。



「心外だな。浮気心など無いし、妻はこの先ずっとお前以外に娶るつもりなどない」


まるで弁解するような形で不恰好な状況。

けれど、安心した表情や涙を浮かべる彼女の臣下達と満足げに脚を組み替えたドルチェの頬がほんのりと桃色だったからまぁいいか、とため息ひとつで自己完結した。
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