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傷つかないで、笑って
しおりを挟む「そうですか…。」
メルリアの自供によって彼女自身とボーデン家、セント伯爵家、ミハイル、それにこの事件に加担した者達は少なからず処罰が下されるだろうと、シヴァから報告を受けたグレーシスの美しい青紫色の瞳には長いまつ毛が影を落とした。
バーナードはそんなグレーシスを見て胸が締め付けられていた。
何故、彼女があんなにも悲しそうな表情をするのだろうと。
バーナードはグレーシスに笑っていて欲しかった。
(あんな奴らの為に傷つくなよ、グレーシス)
「グレーシス、」
言葉が見つからず、ただ彼女の側に居る。
そんな自分に気付き、かえってグレーシスは「大丈夫よ」とバーナードに微笑みかけると少し悲しそうに笑ったあとに「ありがとう」と言った。
「あの、」
「グレー…っ」
「グレーシス。」
そんな落ち込んでいるグレーシスの様子を見て、バーナードとアイズは彼女を慰めようと声を上げたものの、言葉が見つからずに逡巡していると、真っ先に声をかけたのはシヴァであった。
「シヴァ…」
「グレーシスの所為じゃない。だからそんな顔をするな。」
「なんで…分かったの?」
「考えている事など分かる。」
「それでも他人事ではないわ」
「それも人々の支持を得る者の通る道だ。グレーシスはテヌの主君であり、フォンテーヌ令嬢だ。背負う覚悟をしたなら俯くな。」
「…っ!」
シヴァの言葉はとても厳しくも、優しかった。
だが、心を痛めるグレーシスにはあまりに過酷ではないかとバーナードが心配のあまり声を上げようとすると、その声はアイズによって制止された。
「殿下…、」
「バーナード、やめよう。」
「でも、」
「大丈夫だよ。」
アイズは何かに気付いたのか、そう言いながらも少し心配そうにグレーシスを見守る姿勢を見せる。
すると、グレーシスは俯いたまま大粒の涙を流して途切れ途切れに、けれども力強い声色で言った。
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それは、今にすぐに駆け寄って抱きしめてやりたいのを堪えているのだと理解した。何故ならバーナードも、同じ気持ちだったからだった。
そして、シヴァもまた同じ様子なのだとグレーシスの大粒の涙に、珍しく狼狽えるその表情から読み取れた。
それでもこれから、今まで以上に幾度となく降り掛かるであろう困難に彼女が押し潰されてしまわぬように心を鬼にして立ち向かう覚悟を問うシヴァもまた彼なりの優しさなのだと理解できた。
そのような心配をよそに、彼女は顔を上げた。
グレーシスは涙を堪えるように表情を引き締めて、
バーナードや、アイズ、シヴァの方を真っ直ぐに見つめて言った。
「もう、俯かないわ。私を信じてくれる人達が、味方になってくれる貴方達が居てくれるもの。」
その表情は決意したような、どこかすっきりとした表情で、彼女の中で何かがきちんと消化され自らの立場で立ち向かう覚悟ができたのだと感じた。
(グレーシスにそんな表情をさせられるのはきっと…)
「シヴァだから…、かな。」
アイズがぽつりと言った。
その表情はどこかほっとしたような苦しそうな表情で、やっぱりバーナードはアイズの感情が解るような気がした。
「けど、俺はずっと好きでいるよ。」
「!」
「敵わなくったって、簡単には諦めてやらない。」
内心はもう気付いている。
自分ではダメなのだと。
きっとグレーシスにとっての自分は、バーナード自身が願う立ち位置ではないとわかっている。
それでも彼女が今、一番気を許しているのは自分だということも自負しているのだ。
なんとなく、いつも自分ではなくシヴァや、アイズと並ぶグレーシスの騎士である自分が浮かぶ。
けれどどんな形になろうと、きっと彼女を愛してしまうのだという事も分かるのだ。
「俺は、伝えるつもりはもう無いよ。」
「バーナード…」
「けど、愛してるから。誰よりも側に居るつもりなんだ。」
バーナードはグレーシスを混乱させない為に彼女に伝えずに心の中で愛し続けるのだと、彼女の側にいるのだと決心した。
そんなバーナードの思わぬ、大人びた姿にアイズは軽く目を見開いてから深く息を吸って、天井を仰いだ。
彼は、親友として、そして騎士として彼女の側に居る事を選んだのだ。
(僕は、どうしたいの?)
バーナードの決心は切なくも、綺麗だとアイズは思った。
バーナードは切なげに、けれども愛おしげな瞳で微笑んだ。
「俺じゃ、ないから。」
(だからせめて、いちばん近くに居させてよ。)
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