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第16話 酔っ払い
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18才男子の食べっぷりはすごかった。3人で3キロくらい食べてるんじゃないかという勢いだ。
その分のお肉が用意されている三角家もすごい。
しかも食べごたえからして高級肉。それをこの量で惜しみなく網焼き……私は途中で考えるのをやめた。
今、彼らは絵里子さんを交えて4人でリビングでテレビゲームに興じている。
私はインナーバルコニーでクラッカーをつまみにカクテルをちびちび飲んでいた。
カクテルは絵里子さんが作ってくれたマリブコーラだ。
三角家にはたくさんのお酒があるらしく、絵里子さん曰く「リクエストをくれたら何でも作れるわ!」だそうだ。
三角社長と瀬川さんは網の片付けをしていた。
私も手伝おうとしたのだが、またしても、お客さんだから! と言われてしまい、1人もそもそとクラッカーをつまんでいる。
クラッカーにはチーズやアボカド、エビにキャビア(!)が載っていてオシャレである。
記念に写真でも撮ればよかった、いや、こんなすごいもの見せる相手が居ない、そんなことを考えながら、食べ続ける。
「お疲れ様です」
そんな私のそばに、瀬川さんが歩み寄ってきた。
「瀬川さん! 瀬川さんこそ、お疲れ様です。すみません、何から何まで皆さんに全部やらせてしまって……」
「いいんですよ。お客様です。高山さんは、まだ」
まだ、瀬川さんのまだには圧があるような気がした。
「……というか入社を決めたわけでもない私を三角家に招いて良かったんでしょうか……?」
「社長は高山さんが入社するものだと思っているみたいですね……絵里子さんも」
順調に外堀を埋められている気がする。
しかしこんな就職祝いでしか食べたことがないようなお高いお肉にワインまでいただいて、やっぱり辞めますがあまりに不義理なのも間違いなかった。
「僕も一杯ご一緒して良いでしょうか」
「あ、はい、もちろん」
瀬川さんがビール缶を持ってきて私の前に座る。
「カンパイ」
「カンパイ」
ごくりと瀬川さんの喉仏が動く。
ボンヤリとそれを眺めていると、瀬川さんと目が合った。
「お肉おいしかったですか?」
「あ、はい、おいしくて食べ過ぎました」
「そうですか、よかった」
瀬川さんはふにゃりと笑った。
どうやら昨日は回っていなかった酔いが今日は回っているらしい。
「瀬川さん……酔ってます?」
「社長の家だと……安心してしまって……」
そこに追いビールしたのかこの人。
「ビールよしといたらいいんじゃないですか?」
「いやです。飲みます」
「そうですか……」
なんだか駄々っ子みたいだ。
「お風呂入るときは気を付けてくださいね」
「……一緒に入ってくれます?」
「入りません!」
思わず声が大きくなった。
ちらりと屋内を見るが、ゲームが大盛り上がりをしていて、こちらを気にかけている人はいない。三角社長もそこに合流してテレビゲームを見ていた。
「こっち見てください……」
瀬川さんがふわふわした口調でそんなことを言う。
見るとクラッカーを口にくわえたまま、ぐだっと机に体を預けていた。
メガネが定位置からずり落ちている。
「瀬川さん、見ましたよ」
「わーい」
瀬川さんは諸手を挙げる。
うん、酔っている。それもずいぶんとかわいらしい酔い方をしてらっしゃる。
「瀬川さん、やっぱり飲むのやめましょう?」
これ以上飲ませるとヤバい気がする。
「いやです……ユカさんとお酒を飲むんです……」
名前を、呼ばれた。
「な、名前……」
「あ、ほら、メッセージアプリ。交換したじゃないですか。だから僕の中ではユカさんで……でも、人前でユカさんって呼ぶのもはばかられて……リクとか絵里子さんとか由香ちゃんって呼んでるのちょっとうらやましくて……」
「そ、そうですか……それはどうも……」
「ユカさん」
ゆらりと瀬川さんが机から起き上がる。
缶ビールをぐいっと飲む。
「好きです」
「ちょっと、聞こえます、誰かに聞こえますって」
「めっちゃ好きです」
「瀬川さん!」
「深海です……」
「ふ、深海さん……」
「わあい」
にへら、と笑って、瀬川さんは椅子にガクンと沈み込んだ。
「瀬川さーん!」
私は思わず叫ぶ。
「つぶれた? つぶれたね!」
楽しそうな声が屋内からした。
三角社長がそこにいた。
「あ、はい、つぶれました……」
瀬川さんはスヤスヤとかわいらしく寝息を立てていた。
社長はいつからいたのだろう。どこから聞かれていただろう。
「瀬川くんねー、いつもこんなんなんだよね、うちで飲むときは。外で飲むときはさ、キリってしてるのに。昨夜とかそうだったでしょ?」
「そうでしたね……」
「というわけで客室に運びます。おーい、エイジ、頼む」
「あ、はーい!」
慣れた様子でエイジくんが駆けてくる。
「せーの」
社長とエイジくんが瀬川さんを持ち上げる。
瀬川さんはぴくりともしない。
そのまま二人は瀬川さんを引きずり家の奥に消えた。
エイジくんが抜けたことでゲームはお開きになったようで、絵里子さんがこちらに来てくれた。
「由香ちゃん、ついでだからお風呂と寝室案内するわ」
「あ、すいません。お願いします」
「洗濯したいでしょ、お洋服。私の分と夜の内にしちゃうわ。乾燥ついてるから明日には着れるようになるわよ」
「あ、じゃあお願いしちゃいます……」
「そういえば寝間着もないわね。私のまだ使ってないのあげるわ」
「何から何まですみません……」
「いいのいいの。どうせうちの人たち強引に誘ったんでしょ。」
分かってるのよ、そういう顔を絵里子さんはした。
「強引でしょ、うちの旦那も。瀬川くんもああ見えてけっこう」
「……ですね」
「だからいいの。フォローは私の役目」
「じゃあ、甘えちゃいます……けど、このカクテルのコップとおつまみの片付けくらいはさせてください!」
「ふふふ、分かったわ、キッチンはこっち……由香ちゃんが三角アイドル事務所に就職してくれるなら、うちの間取りも覚えてもらわないとね」
私はコップとおつまみの皿を持ち上げ、立ち上がった。
意外としっかり立てた。
瀬川さんとは違って。
その分のお肉が用意されている三角家もすごい。
しかも食べごたえからして高級肉。それをこの量で惜しみなく網焼き……私は途中で考えるのをやめた。
今、彼らは絵里子さんを交えて4人でリビングでテレビゲームに興じている。
私はインナーバルコニーでクラッカーをつまみにカクテルをちびちび飲んでいた。
カクテルは絵里子さんが作ってくれたマリブコーラだ。
三角家にはたくさんのお酒があるらしく、絵里子さん曰く「リクエストをくれたら何でも作れるわ!」だそうだ。
三角社長と瀬川さんは網の片付けをしていた。
私も手伝おうとしたのだが、またしても、お客さんだから! と言われてしまい、1人もそもそとクラッカーをつまんでいる。
クラッカーにはチーズやアボカド、エビにキャビア(!)が載っていてオシャレである。
記念に写真でも撮ればよかった、いや、こんなすごいもの見せる相手が居ない、そんなことを考えながら、食べ続ける。
「お疲れ様です」
そんな私のそばに、瀬川さんが歩み寄ってきた。
「瀬川さん! 瀬川さんこそ、お疲れ様です。すみません、何から何まで皆さんに全部やらせてしまって……」
「いいんですよ。お客様です。高山さんは、まだ」
まだ、瀬川さんのまだには圧があるような気がした。
「……というか入社を決めたわけでもない私を三角家に招いて良かったんでしょうか……?」
「社長は高山さんが入社するものだと思っているみたいですね……絵里子さんも」
順調に外堀を埋められている気がする。
しかしこんな就職祝いでしか食べたことがないようなお高いお肉にワインまでいただいて、やっぱり辞めますがあまりに不義理なのも間違いなかった。
「僕も一杯ご一緒して良いでしょうか」
「あ、はい、もちろん」
瀬川さんがビール缶を持ってきて私の前に座る。
「カンパイ」
「カンパイ」
ごくりと瀬川さんの喉仏が動く。
ボンヤリとそれを眺めていると、瀬川さんと目が合った。
「お肉おいしかったですか?」
「あ、はい、おいしくて食べ過ぎました」
「そうですか、よかった」
瀬川さんはふにゃりと笑った。
どうやら昨日は回っていなかった酔いが今日は回っているらしい。
「瀬川さん……酔ってます?」
「社長の家だと……安心してしまって……」
そこに追いビールしたのかこの人。
「ビールよしといたらいいんじゃないですか?」
「いやです。飲みます」
「そうですか……」
なんだか駄々っ子みたいだ。
「お風呂入るときは気を付けてくださいね」
「……一緒に入ってくれます?」
「入りません!」
思わず声が大きくなった。
ちらりと屋内を見るが、ゲームが大盛り上がりをしていて、こちらを気にかけている人はいない。三角社長もそこに合流してテレビゲームを見ていた。
「こっち見てください……」
瀬川さんがふわふわした口調でそんなことを言う。
見るとクラッカーを口にくわえたまま、ぐだっと机に体を預けていた。
メガネが定位置からずり落ちている。
「瀬川さん、見ましたよ」
「わーい」
瀬川さんは諸手を挙げる。
うん、酔っている。それもずいぶんとかわいらしい酔い方をしてらっしゃる。
「瀬川さん、やっぱり飲むのやめましょう?」
これ以上飲ませるとヤバい気がする。
「いやです……ユカさんとお酒を飲むんです……」
名前を、呼ばれた。
「な、名前……」
「あ、ほら、メッセージアプリ。交換したじゃないですか。だから僕の中ではユカさんで……でも、人前でユカさんって呼ぶのもはばかられて……リクとか絵里子さんとか由香ちゃんって呼んでるのちょっとうらやましくて……」
「そ、そうですか……それはどうも……」
「ユカさん」
ゆらりと瀬川さんが机から起き上がる。
缶ビールをぐいっと飲む。
「好きです」
「ちょっと、聞こえます、誰かに聞こえますって」
「めっちゃ好きです」
「瀬川さん!」
「深海です……」
「ふ、深海さん……」
「わあい」
にへら、と笑って、瀬川さんは椅子にガクンと沈み込んだ。
「瀬川さーん!」
私は思わず叫ぶ。
「つぶれた? つぶれたね!」
楽しそうな声が屋内からした。
三角社長がそこにいた。
「あ、はい、つぶれました……」
瀬川さんはスヤスヤとかわいらしく寝息を立てていた。
社長はいつからいたのだろう。どこから聞かれていただろう。
「瀬川くんねー、いつもこんなんなんだよね、うちで飲むときは。外で飲むときはさ、キリってしてるのに。昨夜とかそうだったでしょ?」
「そうでしたね……」
「というわけで客室に運びます。おーい、エイジ、頼む」
「あ、はーい!」
慣れた様子でエイジくんが駆けてくる。
「せーの」
社長とエイジくんが瀬川さんを持ち上げる。
瀬川さんはぴくりともしない。
そのまま二人は瀬川さんを引きずり家の奥に消えた。
エイジくんが抜けたことでゲームはお開きになったようで、絵里子さんがこちらに来てくれた。
「由香ちゃん、ついでだからお風呂と寝室案内するわ」
「あ、すいません。お願いします」
「洗濯したいでしょ、お洋服。私の分と夜の内にしちゃうわ。乾燥ついてるから明日には着れるようになるわよ」
「あ、じゃあお願いしちゃいます……」
「そういえば寝間着もないわね。私のまだ使ってないのあげるわ」
「何から何まですみません……」
「いいのいいの。どうせうちの人たち強引に誘ったんでしょ。」
分かってるのよ、そういう顔を絵里子さんはした。
「強引でしょ、うちの旦那も。瀬川くんもああ見えてけっこう」
「……ですね」
「だからいいの。フォローは私の役目」
「じゃあ、甘えちゃいます……けど、このカクテルのコップとおつまみの片付けくらいはさせてください!」
「ふふふ、分かったわ、キッチンはこっち……由香ちゃんが三角アイドル事務所に就職してくれるなら、うちの間取りも覚えてもらわないとね」
私はコップとおつまみの皿を持ち上げ、立ち上がった。
意外としっかり立てた。
瀬川さんとは違って。
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