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第7話 終焉の足音

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 隣室ではキャンジェル伯爵が胸を抑えて苦しんでいた。
「医者を呼んできてくれ」
「体の向きを変えましょう」
「水は飲めますか、旦那様」
 使用人たちが集まっていた。
 アランが淡々と指示を出しながら、介抱している。
「奥様」
 侍女がミリアに駆け寄ってきた。
「そのような薄着で……」
「慌ててしまって……」
「お部屋に戻りましょう。旦那様のことは私達に任せてください。久しぶりですが前にもあった発作ですから……」
 侍女がそう言ってミリアを部屋に戻そうとしたとき、伯爵がひときわ激しく咳き込んだ。
「旦那様!」
 アランが大きな声を出して伯爵を支える。
 その目には複雑な感情が灯っていた。
「クッションをはさみましょう。少しは楽になるはずです」
 侍従のひとりがアランに声をかける。アランはうなずく。
「ああ」
 自分にできることはなさそうだ、とミリアにもようやくわかりつつあった。
 侍女に伴われて、部屋を後にする。
「……かわいそうな、アラン様」
 ミリアの部屋にともに戻った年かさの侍女は小さくそう言った。
「え?」
「……屋敷のものならみんな知っていることですから。アラン様の出自も……おふたりの、その、関係も……」
「そう、だったの……」
 侍女はどこか肩の荷が下りたかのような顔をしていた。
「なかなか奥様には知っていると言い出せず、気を遣わせて申し訳ありません。普段は旦那様かアラン様に聞かれそうだったから……」
「……いえ、教えてくれてありがとう」
 ミリアは複雑な気持ちでそう言った。
 自分たちの関係は公然の秘密だった。
 しかしふたりが子をなさないようにしていることまではバレてはいまい。
 ミリアの心は羞恥と安堵と恐怖でごちゃまぜになった。
 その間にも隣の部屋からは伯爵の咳き込みが聞こえてくる。
 これほど音が聞こえるものだったのか。ならば自分とアランの声も……。
 ミリアはため息をついて、ベッドに戻った。

 翌朝、朝食を食べて部屋に戻ると、アランが来ていた。
「……旦那様は?」
「小康状態です。今は医者がついています……覚悟を、しておけと伝言を預かっています」
「…………」
 ミリアに何の覚悟が要るだろうか?
 いずれ死ぬのだろうと思って嫁いだ老齢の夫。心を通わせることすらなかった。
 ミリアにとってあの人は今となってはアランの父親でしかなかった。
 ほのかに心惹かれ始めたアランの……。
「お見舞いにお伺いしなくてはね」
 ミリアはようやくそう言った。
「……はい」
 アランは何かに迷いながら、うなずいた。

 その夜、アランはミリアの寝室を訪ねてこなかった。
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