婚約解消された私は醜い公爵令息と婚約することになりましたが、今の方が断然幸せです。

早朝のバルコニーで ２

何度か口を開閉してから、言うことが決まったのか、ゆっくりと口を開く。


「………だとしても、俺のような見た目の男が婚約者になるんだぞ。普通なら、何とか理由をつけて断るだろうが」


今まで断られたことでもあるのでしょうか、寂しそうな表情で仰るワーズス様に胸が痛くなる。


「容姿など、関係ありませんわ」
「関係、ないだと…？」
「はい。私はルーファス様の婚約者となった時にそう思いました」
「ルーファス様は、国でも1、2を争うほどの美貌の持ち主だぞ？」
「はい。なので、美しさと性格は全く関係がないのだと確信したのです」


どれだけの美貌を持っていたとしても、他人を常に見下し、己の地位や容姿に胡座をかき努力もしようとしない人などなんの価値もありませんわ。
それに、気が多い方で美しいと噂の方は片っ端からちょっかいをかけて…本当に手に負えませんわ。


「比べるのも失礼だと承知しておりますが、ルーファス様とワーズス様では雲泥の差でございますわ。ルーファス様がワーズス様に勝てる部分など身分位だと思いますわ」
「それはありえないだろ…」
「いいえ！ルーファス様の婚約者であった私だからこそ言えるのです！ルーファス様は女ったらしで頭が空っぽの馬鹿男ですわ！」
「王子に向かってバカ男って…」


ここが王城でしたら不敬罪で捉えられていたかもしれませんが、今は王城では無いのでハッキリと言わせてもらいますわ。


「そもそも私がルーファス様と婚約したのも、向こうが申し込んで来られたことですし、私は1度もルーファス様の婚約者になりたいなど思ったことはありませんわ。それなのに、真実の愛を見つけた、等と世迷言を申し婚約解消を承諾するように手紙を送って来たのですよ！」
「手紙…。それはいくらなんでも失礼過ぎないか？」
「ワーズス様もそう思われますわよね！」


私の話にワーズス様は呆気に取られていますが、ルーファス様の無礼はこんなものではありませんわ。


「ルーファス様は少しでも否定されそうだ、拒否されそうだと思う事は全て手紙で行うのですよ！本当にありえませんわ！」
「まぁ、そうだな。次の王に選ばれるかもしれない立場でそれはないな…」
「はい。ですが、今回は手紙だったことでお父様方を通さずに簡単に婚約解消が出来たので良かったと思っていますわ」
「だとしても、俺の婚約者にされたんだぞ」
「それも含めて良かったと思っておりますわ」


もしもここで次の婚約者が決まっていなかったのなら、お父様はルーファス様の様に容姿と地位だけの人を探して来て私の意見など聞かずに婚約を結んだでしょう。
ですが、ワーズス様との婚約をさせて頂いたことでそんな心配は不要になりました。


「貴方は、もしかして俺よりも目が悪いのか？」
「特に視力に問題があると思ったことはございませんわ」
「だったら、なんで俺なんかと…」
「ワーズス様は私とあまり年齢差はありませんし、博識だとお伺いしましたので、楽しくお話できるかもしれないと思ったからですわ」
「そんな理由…？」
「そんな理由…？そこが1番大切ではありませんか！」


容姿の善し悪しなど二の次ですわ！
いくら容姿が良い方だったとしても、まともに話を理解出来ない方と居るのはとても苦痛なことなのですよ！
そんな方の伴侶になり生涯支え続けるなんて気が狂いそうですわ！


ルーファス様の婚約者になってからの日々、どれだけ私が将来を憂いていたことでしょうか。
そんな折に、博識だと噂されるワーズス様の婚約者になれるという提案をされたのなら、迷う必要などどこにありましょうか。


お父様にワーズス様との婚約の話を相談せずに独断で決めてしまったことで家を追い出されてしまいましたが、おかげでワーズス様にお会い出来、お義父様とお義母様ともお話をさせて頂けたので、結果的に良かったと思っていますわ。


「いや、ちょっと待て。今、追い出されたと言ったか…？」
「はい。そういえば、ここへ来た理由を説明していませんでしたね。ですが、追い出されたと言っても大したことはございませんのでお気になさらないでください」
「いや、するだろ！君の父親は正気なのか！」
「ええ、まだ認知面などはハッキリしているはずです」


お母様が亡くなった時は気落ちしていましたが、お母様の死因である私に厳しく当たることでなんとか元気を取り戻しておりましたもの。
今はただ、私を家の為にどう役立たせようかという事に注力されていましたし。


「そういうことを聞いているんじゃない！娘を家から追い出すなんておかしいだろ！」