さまよう綸◆◆若頭からの求愛…迷惑だわ◆◆ 【完結】

第十三話 9

潤の電話が鳴り、すぐ行くと答えた彼は

「若」

　と正宗に声を掛けた。そして、片桐さんたちに礼を言い改めて来ると挨拶し揃って店の外に出ると

「綸ちゃんは先に駿と車で待ってて、10分」

　潤が言うので頷き駿と並ぶ。すると、前後に尾木さんたち見知った人が付いた。

「今日本家に来てたって？声掛けてくれよな」

　尾木さんは、騒動と関係のないことを話しながらすぐ車についた。そして蒸した後部座席に乗ると、駿が運転席ですぐエアコンを付け、話してくれる。

「正宗、すぐ戻るよ。知り合いの刑事を呼んでいたのが来たんだ」
「刑事？」
「うん、騒ぎがあると近くの交番から人が来るだろ？ヤクザと話の通じる人間ではないから騒ぎが大きくなる。そうならないためによく知る刑事を呼んでその人に身内のトラブルです、すみませんと言って収める。現に今回は全くの外部の人間が起こしたことではないからな」

　多少わからない事はあるが彼らのやり方があるのだろう。車内から外を見ると、車の隣に立つ尾木さんたちが一斉に頭を下げたのが見えた。

　正宗と潤が乗り込むと前後の車と共に駿の運転で静かに車が走り出す。

「綸、今日はマンションに帰れない。本家に泊まりになる」
「わかった。皆、気をつけてね」
「お前も一緒に泊まる」
「…そう…もう荷物が役立つのか」

　今朝本家に行く時、暑い時期だし念のため私の2、3回分の着替えを本家の正宗の部屋に置いたところだ。

「綸ちゃん、駿に話聞いた？さっきの男の」
「ううん、男の人の事は聞いてないかな…あの人…ヨウを返せって言ってた」
「あれ、高須の姐さんと一緒にいるヨウの弟だよ。ヨウからの金が入らなくなって高須に逆恨み。女なら傷つけられると思ったんじゃないかな」

　潤の話を聞きながら、姐さんと一緒にいた美男子を思い出す。

「人と人っていろんな形で繋がっているんだね…そしてその形の上にいろんな感情が乗っかっていくんだね…複雑でややこしい…けど」

　隣の正宗の方へ向き手を繋ぐと小さく続けた。

「けど…面倒だ、どうでもいいとは思わないよ。今は……」

　彼は何も言わず真っ直ぐ前に向き直り、ただ私の手を強く握った。

　本家に着く直前に伊東さんから連絡が入り、小笹さんは10針縫うケガだが元気なので本家への報告に一緒に向かうとのことだった。10針ってよくわからないがたくさん血は流れていた。顔を見られるなら安心かなと思い、少し汚れた小さな紙袋を握りしめた。