さまよう綸◆◆若頭からの求愛…迷惑だわ◆◆ 【完結】

番外編：吉宗＆力哉

8

　朝、吉宗を連れて道場に行くとすでに来ていたいつもの6人の子どもがいる。もちろん大人はそれ以上いる。俺の足元の自分たちより小さい吉宗を見てなんだ？という顔をしていた子どもたちだが次の瞬間、小さい吉宗が経験者だと理解する。吉宗は俺が道場に入る時に足をとめ、その場に正座すると

「おはようございます。おねがいしますっ」

　そう言いお辞儀をした。

「吉宗、おはようございます。入ってください。皆とウォーミングアップから一緒にしますよ」

　樋川の言葉に吉宗は、あいと返事しながら子どもたちの最後尾に付くとちょこちょこ走り始めた。前の子どもの倍の歩数で走りながら、抜かさないように気遣ってるのがわかり微笑ましい。だが微笑ましいのはウォーミングアップだけだった。

　6人並んで突き、蹴りを何十回かすると明らかに吉宗の体幹がいいのがわかる。蹴りもか…不思議だな…俺はこっそり潤に電話する。

「吉宗さ、この前までオムツしてたろ？なのにどうしてあのブレない蹴りが出せる？」
　‘ああ、稽古中はずっとオムツしてなかったから。おかしなクセがつくからな。普通の子どもならそんな心配いらないが、吉宗は適当に手を振ってる訳でもないんだよ。ちゃんと相手に力を伝えられる。だからだろ。そっちの子どもがまだ手を振ってるレベルだったら負かしてしまうぞ’

　二人の組員に一人ずつ向かい合って組手をする。他の4人は見ているのだが吉宗はキョロキョロとしてる。組手が初めてでもないだろうし、様子を見るか。何発か当たったら交代するんだが、いい一発が当たると組員が倒れてくれるわかり易さだ。まだ小学生にもなっていない子もいるから楽しく強くなってくれればいい。吉宗の番がきた。吉宗は全ての拳と蹴りをクリーンヒットさせる。組員が倒れて終了…のはずが吉宗は倒れた組員に馬乗りになり頬にアッパーカット気味の一発を食らわせた。

「「吉宗っ」」「ってぇ」

　吉宗は表情を変えることなく組員の上から飛び降り

「ありがとうございました」

　と正座する。驚愕する周囲を他所に樋川が隣に座り吉宗の頭を撫でると優しく聞いた。

「吉宗、いまの一発を説明出来ますか？」
「さいごまでひとりでたおしきる。あごねらうのいたい。ほほをこぶしとひじでねらう」
「素晴らしい心がけです。まだ小さい吉宗の手の方が折れないように頬を狙う。アッパーカットの打ち方で拳のあと肘も当てている。完璧です。誰に教わりましたか？」
「あたけやま」
「ああ…畠山さんの教えそうなことです、くっくっ」

　吉宗は言葉の最初が‘は’だと言いづらいのか？それにしても本格的過ぎるだろ…高須の教え方は。他の子どもがここまでやらないからキョロキョロしてたんだな。