これは勇者の剣です!(断言)

相有 枝緖

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13 焼肉パフェ

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「あ、やっぱりトールヴァルド。さっそく来てたのね」

 背中に大剣を収納したピヒラが、音を聞きつけたらしくこちらにやってきた。

「あぁ。ここまで奥に来ると、それなりに魔物が多いな」
「そうよね。だからおいしいの。でもちょっと小物ばっかりだから、そろそろ飽きちゃったわ」
『かなり軽くいなしていたものね。確かに、ピヒラちゃんには物足りない相手かも』

 言うに事欠いてちゃんづけはどうかと思うが、トールヴァルドは聞かなかったことにした。
 ピヒラにも聞こえないのだから、気にしてはいけない。

 ピヒラは肩にかかった髪を後ろに払った。
 黒い髪は、光に透けるとうっすら紫色に見えた。

「俺も長居するつもりはない。今日でそれなりに稼げたから、明日にでも移動するつもりだ」
「え。もう行くの?次はどこ?」
「大きい町でいえばノードストが近いから、そっち方面に向かうつもりだ」
『魔の森の方ね』

「あっ、そうなんだ。あたしもそろそろ魔の森の方に移動するつもりなの。ねぇ、よかったらしばらく組んで一緒に行かない?トールヴァルドが魔法を使うなら、共闘しやすいと思うし」
 じっとこちらを見上げて言うピヒラには、どこか必死な感情が透けて見えた。

『あら、二人旅?いいじゃなぁい』

 何か事情があるのかもしれない。
 かといって、それをトールヴァルドに助けてほしいという感じでもない。

 誰かと一緒にいることが重要なのか、すぐにでも移動したいのか。
 見上げてくる深みのある黒い瞳には、嘘はないし打算もない。

 ただ緊張と、淡い熱のようなものがあった。

 その熱はトールヴァルドの知らないものだが、悪いものとは感じられない。
 だから、トールヴァルドはうなずいた。

「いいぞ。ピヒラとなら共闘しても楽しそうだし。そうだな、一緒に行くならパーティを組んだ方がいいか」
 そう言ったトールヴァルドに、ピヒラは嬉しそうに笑った。

「ありがとう!嬉しい。じゃあ、ギルドに帰ったらパーティ登録する?パーティ名どうしよう。魔法と大剣だから、魔剣とかでいい?それとも、好きなものを適当に並べる?」
『可愛い子は大歓迎よぉ!可愛いは正義よね!あ、でもパーティ名にはアタシの名前も入れてほしいわぁ。アタシだって仲間でしょ?』
 もちろん、魔法剣(待機)の言葉は放置である。

「だな。戻ったら登録しよう。パーティ名は、好きなものを適当にそれぞれ挙げて並べたらいいんじゃないか?」
 ピヒラは、その提案に嬉しそうにうなずいた。
 ツインテールがぴょこんと跳ねる。
「トールヴァルドは何にする?あたしが好きなのはぁ……ふふ。あ、美味しいのがいいかなぁ。ご飯も好きだけどやっぱり甘いのがいい。うーん、ケーキもドーナツも好きなんだけど、やっぱり一番はパフェかな!めったに食べられないし」

『アタシは綺麗な自分!美しくて役に立って世界を救う存在よ!だったら、ツァオバァね。パーティ名に入れるならツァオかしら?可愛いし』
 もちろんそんなものを入れるつもりはない。

「俺は、食べ物ならやっぱり肉が好きだな。単純に肉をたくさん食えるなら焼肉か」
「焼肉も美味しいわよね。あたしも好き。んー、じゃあ、焼肉パフェで!」
「いいな」

『え、いいの?待ってよ、なにその熱いんだか冷たいんだかしょっぱいんだか甘いんだか予想もつかないパフェ』
 魔法剣(待機)の言葉は聞かず、トールヴァルドはピヒラと並んで町に向かって歩き出した。



「はい、ではパーティ登録は以上で完了です。討伐記録はタグのところに『焼肉パフェ』とありますね?その下に表示されるようになります。ばらばらに討伐に参加された場合も、すべてパーティの実績となります。個人の実績にしたい場合は、都度ギルドに来てください。また、万が一パーティメンバーが亡くなった場合も、ギルドに報告を。メンバーの生死はタグでわかりますので。あとはこちらを一応読んでおいてください」

 サクサクと登録を終わらせてくれた受付の男性は、トールヴァルドとピヒラに一枚ずつ紙を渡した。
 それはパーティでよくあるもめごとやその解決方法で、ギルドはその仲裁に入ることはないので自分たちで何とかするようにと書いてあった。

 かなりいろんなパターンが書かれていたので、きっといざこざも少なくないのだろう。

「じゃ、これで完了ってことね。どうする?明日準備して、明後日出発する?それとも、準備ができてるならもう明日出発しちゃう?」
『えぇ?もう移動しちゃうの?パーティ結成の飲み会とかしないの?』

「俺の準備はいつでもできてる。ピヒラの方はどうだ?」
 ピヒラはひょいと肩をすくめた。

「あたしも荷物は少なくて身軽だから、いつでも大丈夫。なら、明日もう行く?」
「そうしよう。消耗品の買い出しなんかは大丈夫なのか?」
「うん!大丈夫。あたし、大剣が得意だからずっとこれを使ってるけど、魔法もかなりしっかり修行したのよ。だから、実はアイテムボックスを使えるの。荷物はほとんどそこよ」
『えぇっ?すごいじゃない!ピヒラちゃんってばそんなに魔力容量が大きいわけでもないのにあんな高度な魔法を使えるのね』

「アイテムボックス?異空間収納だったな。あれはほとんど誰も習得していないと聞いたことがあるぞ。すごいな」
 思わずトールヴァルドが感心すると、ピヒラは照れたように口角を上げた。

「うふふ。頑張ったもの!」
『頑張ったなんてものじゃないはずよぉ。十五年粘ったトールヴァルド並みに食らいついてたはずだわ。ピヒラちゃん、もしかして本当にアンタと相性ぴったりかもね。根性も実力も』
 ある意味真逆なので、確かにバランスは良いかもしれない。


 次の日、シュネルを伴って町の外へ出た。

 ピヒラは徒歩だったので、シュネルに二人乗りだ。
 まずはただの移動なので、ピヒラの大剣はアイテムボックスにしまってもらい、トールヴァルドの前に乗せた。

 二人で乗っても、シュネルはびくともせずに悠々と歩いてくれる。
 両手で手綱を持つ中にピヒラを囲い込むと、馬に慣れていないという彼女も落ちる不安がなくなるらしく余計な力が抜けていた。

 馬上からの景色が面白いのか、ピヒラは黙って遠くを見ていた。
『この馬、シュネルちゃんだっけ。いい子ねぇ。力もあるし、賢いわ』

 ふと見下ろすと、ピヒラの耳が少し赤い。
 まだ緊張しているのかもしれない。

「そういえば、俺はずっと剣を修行していて、最近魔法の適性が高いとわかったんだ。ピヒラは初めから大剣と魔法の両方を修行してきたのか?」
 こういうときは、違う話をして気分を変えた方がいい。

「え、あの感じなのに魔法の方が後なの?あたしは、ずぅっと魔法を頑張ってきたわ。周りも魔法をバンバン使うところだったから。でも、少し前に試してみたら実は大剣をすごく軽く扱えることに気づいたの。せっかくならちゃんと剣を鍛えようと思って修行してるところ」
 まさかの、状況も似ていたらしい。

『周りは使えるのに自分ができないのが悔しかったのかしら?それでできるようになったんだからすごいことよね。でも少し前っていつごろかしら』

「俺とは逆だが、似ているんだな」
「本当にそうね!似たところがあるから、一緒にいて楽なのかしら?不思議ね」
「確かに楽だな」
『やっぱり、相性ばっちりってことね!』

 次の町には、野宿をしながら三日後くらいに到着する予定であった。
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