海のこと

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02 ー he ー

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あれから、ただ、ずっと静かに眠った。
熱はまだほんの少し、頭の辺りに澱んでいるような感じで残っていたが、何とか出勤日までには調子を取り戻した。

夜に一度だけ、班長から、食べ物はあるか、という問い合わせがあった。

ある。

傘を返してもらってフラフラと公園を近道した時、そういえば、食事代のかわりにバナナを買って返すと言ったっけ……と、通りすがりの店で水のボトルと一緒に買って帰った。

ベッドの中で朦朧もうろうとしながら返事を送って、絵文字が一つ帰って来たのを確認した後、そのまま気を失ってしまった。
夜中に何度か目覚めて、電話を確認したが、それからは、電話も、メールも、チェックしても何も来ていなかった。

朝、水を飲もうとして冷蔵庫を開けた時バナナが目に入ったが、会社に持っていく訳にも行かず、そうか、こういうのは会う時に持ってかないと駄目だ、と気付く。
買うタイミングがおかしかったな、と思いながらそのままドアを閉じる。
またいつか、あの家に行く機会があったら買って、これは……晩飯にでもしよう。


いつもの地下鉄で顔を合わせ、互いに遠くから会釈する。
それ以上特に何もなく、そのままいつものように離れて電車に乗り込み、職場の駅からバスに乗る。

奥の席に座れて、疲れて少し目を閉じる。
あの人は前方の辺り、誰かと静かに仕事の事など話していたようだ。年配の男性だから、上長の誰かか。

そうだな。あの人は、誰にでも、誰からでも、ああやって話しかけられるんだろうな。

会話の内容は遠くて分からないが、窓にもたれ、ウトウトしながら、エンジン音やざわめきに紛れそうなその声を、なんとなくずっと聞いていた。

バスは職場に着き、目を覚まして降りる。
あの人はもうずっと先を、そのまま上長らしき人と話しながら、屋内へ入って行った。


少し目眩はあったが、無難に午前中の業務を終え、屋上へ上がる。
今日は風が少し冷たいので、外には出ず、業務用エレベーターホールの片隅に座り込む。

ココアの缶と、自販機にあった栄養クラッカーのようなものを買った。
こういうのは、そんなに食べる気はしない。
ただ、班長が食え食えとあんまりうるさいのと、こないだ倒れた時に色々して貰って、その時確実に回復を実感した事もあって、こんなのでも食べてみる気分になった。

クラッカー程度なら、眠たくも重くもならないだろうと口に入れ、なんだかボソボソとした食感を、ココアで飲み下す。

美味くないな。

手に持ったココアの缶をふと見る。
こういうのも、甘くないお茶で食べたら、美味しく感じるのだろうか。
明日はそうしてみよう、と、もう一口かじって、終わる。


静かな日。
窓から差し込む陽光が暖かい。
白い壁にもたれると、冷たさがまだ熱の残った頭に心地良い。

手を上げて額に触れる。

自分の手はいつも冷たくて、熱がある時は冷やすのにちょうどいい。
けれど、普段は熱く感じる人の手も、自分の体温が高ければ、同じように気持ちいい事を知った。


電話を取り出して、メールチェックをする。連絡は無い。
今日はどうするのかと、メールを開いて、本文スペースに何文字か打ってみる。

「 今日 どうする 」……

そしてそのまま手が止まる。
 
 
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