海のこと

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02 ー he ー

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こういうのの、メールタイトルは何と書いたらいいのだろう。

……今日の予定…について……?
今日どうする……それは本文とかぶる、
……確認です……は、駄目だな。前に文面が硬いと注意されてしまった。班長というのは、いつも注意ばっかりする。前髪が長過ぎるとも言われたっけ。

考えてみたら、いつも返信するばかりで、こちらからの連絡はしたことがない。
それ以前に、こんなメールしたって仕方がないことに気付く。
来られない時は来られない。今日来ないということは、そういう事なのだろう。
そもそも、毎日来るなんて約束は最初からしていない。

ため息をついて書きかけのメールを閉じ、そのまま何となく画像フォルダを見る。

一番新しいのは、紫陽花の写真。良く撮れたのを一枚だけ残した。
その次は、送って貰った犬の写真。
かわいいな、と眺めて、そういえば、あの時何で、可愛いなんて言ったんだ……と額をこすって考える。

最近の記憶には全部こうしていちいち、あの人との事が出て来る。
 
 
あの人の言う事は分からない事だらけだ。
それでも、また、助けて貰った。
あんなに色々して貰って「友達だろ」で済むのかもよく分からない。
友達ってそういうものなのか。まして、互いに可愛いとか言い合うものなんだろうか。

犬は、かわいい。この犬はあの人に似ていると思った。
でもあの人の事は、かわいいという感じだろうか。
俺などはもっとそんなんじゃない。分からない。


分からないことが、たくさんある。
過去でも記憶でもない、たった今のこと。


例えば、好きだとか言う。

好き、だったらどうする、と問いかけられる。

それが一番、分かっていない。
好きだって、何をだろう。
どうして自分なんだろう。

どうする、と言われる。
どうしようもない。
分からないからだ。
それを知っていたか、知らなかったかも、分からない。

それを言ってどうするものだろう。
言われたら、どうするものなのだろう。

仕事帰りや休みの日、呼ばれて、会って、食わされて、帰る。
それを何度もする。
それはどういう事なんだろう。


あの人はもう、好きだとかも言って来ない。
ただ黙って見つめて来たり、何度も、大事だからと言って来たり
沢山親切にしてくれて

その度に、やっぱり、どうしていいか、わからなくなる。
いつも、怖く、苦しくなる……


好きは分からない。
好きだと言われる事も。


悩みつつ写真をスライドさせると、次は、あの空の写真。

優しくて仄暗い青空。
これは、何処の空なのか。俺はここにいたのか。いつの空なのか。

それから、知らない人達の写真。


じっと見つめる。



なあ。

あんた達は、俺の友達だったのか。

だとしたら、俺とどんな風に、話をして、遊んで、付き合ってたんだ。
俺の事を知っていたなら、俺がそういう時、どうしていたか、教えてくれないか。

俺は誰かを「好き」だったのか。
どんな風に「好き」だったのか。
それは友達と違うのか。


陽の差すエレベーターホールで、答えの出ない問いに膝を抱える。


ため息をひとつ。


分からない事ばっかりだ。

分からないから、代わりに俺が出来る事は、あの人のしたいようにさせてやるくらいだ。
手を見せろというなら見せるし、剥がさせろというなら剥がさせるし……

そっと左手の甲を押さえる。もう痛みも、傷跡もない。

……また、あのおかしな感覚が来ても、我慢は、できる。……友達だから……
急に捕まえられても、次は……
次は……

目を閉じて、指先でまた、額にそっと触れる。


きっと、大丈夫……





昼休みが終わり、席に戻って午後の準備をしていると、昼休憩からガヤガヤと戻ってくる一団。
そのグループの中から、声を聞き分ける。


知っている声。笑い声。



屋上に来るのは、たぶん、雨の日。
お店が混むから早めに済ませて、時間が出来ると言ってた。

別に、降るのを待ってる訳じゃないけど

返してもらった傘は、いつでもカバンの中に持っている。

 
 
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