氷将レオンハルトと押し付けられた王女様

栢野すばる

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1巻

1-2

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「……ん……あら?」

 いつの間に眠っていたのだろう。誰かが毛布をかけてくれたらしい。
 わたしは目を開けて上半身を起こした。そして、部屋のすみにある机に向かっている人に気づき、口元を押さえる。
 そこにいたのはレオンハルト閣下だった。閣下が戻っていらしたのに、わたしはぐうぐう眠っていたのだ。
 わたしはしばし、淡い明かりに照らされた閣下の横顔に見とれた。きらめく銀の短髪に、たくましい体つき、切れ長で水色の目、厳しくも端整な顔立ち。わたしの亡きお父様に『氷将』という二つ名を贈られた美貌びぼうは、年を重ねてもまるで衰えを見せていない。
 わたしは意識がぼんやりとしたまま、閣下に声をかけた。

「閣下!」
「ん? ああ、リーザ様、お目覚め……」

 こちらを振り向き笑みを浮かべた閣下が、そのまま凍りついてわたしを凝視する。
 なんだろうと思い、わたしは首を傾げた。そして、自分の体を見下ろして慌てた。

「きゃああああああ!」

 寝巻きが、大きくはだけてしまっている。どうやら起き上がった拍子に体からすべり落ちたらしい。
 胸を殿方にさらしてしまったことに気づき、わたしは悲鳴をあげた。
 どうしよう、体を見られるなんて嫌。わたしは自分の大きな胸がコンプレックスなのに。

「ま、待て、大丈夫だ!」

 閣下は椅子を蹴って立ち上がり、さっと横を向いた。

「リーザ様、いま私は何も見なかった! 大丈夫だ!」
「う、う、嘘」
「嘘ではない、私は何も見ていない、偶然見えなかった。ま、まあ、リーザ様はお疲れでしょうから、そのまま寝台でおやすみください。私はそのへんの長椅子で寝ますから、大丈夫」

 ……長椅子で寝る? 
 わたしは閣下の言葉に驚き、すべり落ちた毛布を引き寄せながら言った。

「お待ちください、閣下も寝台でおやすみくださいませ。ここを独り占めして申し訳ございませんでした」
「い、いや、別に、私は今夜はリーザ様に何かしようなんて、まったく……あの、もっとリーザ様が色々とお慣れになったらで」

 閣下はなぜか真っ赤になり、わたしから目をそらしておっしゃった。
 よくわからないが、避けられているようだ。
 旦那様はわたしのことをあまりお気に召していないのだろうか。
 だとしたらさびしいな、と思ったとき、わたしはお兄様と侍女に教わったことを思い出す。

「あ、あの、閣下、わたしの帯を解いてくださいませ」
「えっ」

 閣下が、低い驚きの声をあげる。
 わたしは頭と胸に毛布をかぶり、お腹のあたりだけを出そうと試みた。だが、毛布でぐるぐる巻きになり、寝台から転がり落ちてしまう。

「きゃー!」

 床に転がって足をばたつかせるわたしを、閣下が慌てて寝台の上に抱き上げてくださる。

「リ、リーザ様、何をなさっておいでなのですか!」
「……ぷはっ。あのう、帯を解いてくださいませ!」

 毛布から顔を出し、わたしは寝巻きの前をかき合わせたまま、もう一度閣下にお願いした。
 わたしの前にかがみこんだ閣下がゴクリ、とのどを鳴らした。

「よろしいのか……あの、本当に?」
「ハイ!」
「意味は……おわかりなのかな」
「ハイ! どうぞ、今夜からわたしを抱いて寝てくださいませ!」

 そう答えた瞬間、わたしは寝台に押し倒され、閣下のたくましい体の下に組み敷かれた。
 帯どころか寝巻きまで勢いよく脱がされて、わたしは慌てて胸を隠した。
 頭の中が真っ白になる。服を脱がされてしまうなんて、どうしよう……
 帯を解いてはもらえたが、殿方に肌をさらすのは耐えがたい恥ずかしさだ。どうしたらいいんだろう。
 閣下は何も言ってくださらない。そういえばお兄様も、このあとに関しては『彼に任せるんだ、いいね、リーザ』としかおっしゃってくださらなかった……
 わたしはおずおずと閣下の精悍せいかんな顔を見上げた。

「あ、あの、リーザ様がそのようなお気持ちでいてくださったのなら、私は嬉しい」
「えっ、嬉しいのですか?」
「え、ええ、それはまあ……驚いたけど、嬉しい。泣いて嫌がられるかと思っていたから」

 閣下のお顔はとても優しい。こんなに優しい顔で殿方に見つめられたのは、はじめてだ。
 そうだ。どきどきしすぎて頭から飛んでいたけれど、閣下とお話ししたいことは、もう考えてあるじゃない。わたしは胸の高鳴りを必死に抑えて、閣下の水色の目を見て問いかけた。

「あの、閣下。動物はお好きですか? た、たとえば、えっと、けものになってみたい、とか……」
「いえ、けものじみた真似まねは決してしません! 今夜は私史上、最高に紳士として……失礼」

 閣下はわたしの話をさえぎり、羽織っていた夜着を脱ぎ捨てる。無駄のない彫刻のような体があらわになった。
 なんで閣下まで脱ぐのだろうか? わたしが服を着ていないから? 
 腕で胸を隠しつつ考えこんでいると、閣下に抱きしめられた。
 大きなたくましい体のぬくもりに触れ、不思議とうっとりしてきた。閣下はわたしの頭を抱き寄せ、長い髪を優しくでてくださった。

「リーザ様、ちょっとお体を慣らしましょうか」

 心地よさにとろけていたわたしは、びっくりして目を見張る。

「えっ、ならす……?」
「ええ、はじめてでいらっしゃるでしょうから」

 そう言って、閣下はわたしの両腕を押さえつけた。
 むき出しになった胸が、ふるりと揺れる。突然の出来事に悲鳴すら出ない。

「ん……っ」

 唇を唇で塞がれ、わたしは声をらした。
 口づけをするのは、はじめてだ。しかも肌をさらしままだなんて。あまりのことに、心臓が痛いほど高鳴る。

「力を抜いてください、リーザ様」

 緊張で体を硬くしたわたしのももに、閣下の手がかかる。軽々と足を開かれ、わたしはがくぜんとして悲鳴をあげた。

「いやぁ! そんなところ、見ないでぇ……っ!」

 必死に膝を閉じようとするのだが、閣下の力が強くて逆らえない。

「大丈夫です、痛いことはしないから」
「いや、何するの、怖い、怖い……っ」

 閣下は大きな体をかがめ、もう一度、口づけをしてくださった。

「ん、ふ、っ」

 舌先でそっと唇をめられ、体の芯がゾクリと震える。
 このような場面では、妻としてどう振る舞えばいいのだろう? 
 わたしはゆっくりと口を開け、閣下の舌を受け入れようとした。そのとき――

「んう……っ!」

 唇を塞がれたまま、わたしは声をあげた。
 わたしの秘所に、閣下の指が触れたからだ。湿った足の間に太い指が沈み、ちゅくっという音を響かせる。
 今まで感じたことのない、得体のしれない何かがわたしの体を震わせた。
 閣下の手つきはとろけるように優しい。けれど、こんな恥ずかしいことをされるなんて――

「いや、っ、ダメぇ……そんなところ、触っちゃダメ……」
「大丈夫です、リーザ様」
「だって、だって、汚いから……ん、ふ……」

 再び唇を塞がれ、わたしはぎゅっと手のひらを握った。
 お兄様はわたしに説明してくれなかったが、だれもがこんなことをするのだろうか。わたしは恐る恐る閣下にうかがってみた。

「ね、ねえ、こんなこと、皆さん、なさいますの?」
「ええ」

 閣下が、低い声で短く答える。落ち着いた声なのに、少し余裕がないようにも感じられた。

「しますよ、だれでも。大丈夫。だれもあなたに説明していなかったのなら、申し訳ないが」

 閣下の指が、再びぬるりとわたしの奥に沈んだ。わたしの体の震えがひどくなる。

「ひ、っ、本当に? ……んあっ、や……っ、やぁっ……!」

 視界が汗と涙でにじんだ。
 素肌が触れるだけでも緊張するのに、こんなことまでされるなんて。

「……っ、うぅ……っ」
「うーん、やはり、ちょっと狭いかな」

 閣下の指が、わたしのなかをゆっくりと行き来する。

「はぁ、は……っ」

「だれでもする」という閣下の言葉を心の中で必死に繰り返し、わたしはぎゅっと目をつぶって、閣下に身を任せる。

「失礼、リーザ様。二本入れると苦しいですか」
「にほ……ん……? あっ、あー……ッ」

 そのとき、体がかっ、と燃え上がった。
 閣下の二本の指が、わたしのなかに入ってくる。そしてわたしの小さな芽のような部分を擦り、グチュグチュと音を立ててなかをかき回した。
 わたしは少し腰を浮かせる。体が熱く、しびれて、うずきが止まらない。わたしの反応に満足したのか、閣下は指をズルリと抜いた。

「ひあ、っ」

 指が内壁を擦ると、反射的に体が跳ねあがるほど快感が走る。

「気持ちいいですか、リーザ様」
「わ、わから……な……い」

 朦朧もうろうとしたまま、わたしは閣下のはがねのような腕に手をかけた。
 すると閣下の分厚い胸に、わたしの硬くとがりはじめた乳房の尖端が触れてしまう。
 恥ずかしい。隠そうとして胸を手で覆ったが、閣下は優しくそれをどかした。口づけとともに足の間に指をわされて、もう何も考えられなくなった。

「もう少しだけ慣らしていいかな」
「な、なにを、ひ、っ」

 グチャグチャにれたわたしの足の間に、閣下が再び指を差し入れた。

「あ……ああっ……」

 秘部がひだのように閣下の指に絡みつく。わたしを見つめる閣下のひたいに、一筋の汗が伝うのが見えた。

「痛いですか、リーザ様」
「い、痛くは、ぁっ……」

 わたしは涙にれた顔を、手で隠した。体のなかをゆるゆると攻められる感覚に声をあげ、反射的に腰をくねらせて、閣下の指からのがれようとする。

「いやあ、っ、あ、っ、あっ、ダメ……」

 じわじわと絡みつくような熱さにさいなまれ、わたしは腰を浮かせて首を振った。
 足の間から溢れだしたみつのようなものが、とろりと足を流れていくのがわかる。
 何が起きているのだろう。わたしはどうしてしまったんだろう。

「ずいぶんと、感度がよろしいな」

 嬉しそうに閣下がおっしゃった。
 わたしは恐る恐る目を開け、彼の水色の瞳を見つめる。
 ――そして、本能的にさとった。わたしは今から、この人に食べられるのだ、と。

「か、閣下、あの」

 もう、これ以上のことは許してください。
 そう言おうとしたとき、閣下がわたしを抱きすくめておっしゃった。

「申し訳ない、リーザ様。もう、我慢できそうになくて」

 むき出しのわたしの乳房が、閣下の分厚い胸に押しつぶされる。
 抵抗を試みて足を閉ざそうとしたが、閣下の膝にあっさりとこじ開けられた。

「ひっ」
「今から姫様を抱きます。そのまま私に身を委ねてください」

 わたしの両足を肩の上に抱え上げ、閣下が顔をわずかにほころばせた。
 こんなに恥ずかしいことをしているのに、幸せそうな笑顔だった。
 閣下の笑みを見て、わたしのこわばった体が、わずかに緩む。

「リーザ様、痛かったら言ってください」
「あ、あ……」

 わたしは首を振って目を閉じた。
 この、体の芯に脈打つ熱はなんなのだろう。わたしはこれから、どうなってしまうのだろう。

「は、ぁ……」

 閣下の足の間で反り返っていたものが、れそぼった秘部にあてがわれたのがわかった。そのまま、すさまじい圧迫感と共にそこが押し広げられた。

「っ、あ、やあっ、痛い……!」

 ミチッ、という音を立てて、体を開かれる。
 薄目を開けたわたしの視界に、閣下の汗ばんだ胸が映った。

「んぁ、っ」

 ぐちゅぐちゅと恥ずかしい音が響く。押しこまれた大きなものが不意に抜かれ、また入った。閣下が、れたわたしのなかをゆっくりと行き来しているのだ。
 わたしは必死にもがいた。

「いや、いや、やめて……無理……体、裂けちゃう、っ」
「大丈夫、大丈夫だから」

 わたしの頭を抱き寄せ、閣下がとても優しい声でおっしゃった。

「リーザ様、力を抜いて。私につかまっていい」

 歯を食いしばっていたわたしは、ふと気づいた。
 そうだ、閣下も汗だくだ。つらいのはわたしだけではないのかもしれない。
 わたしは勇気を振り絞って、足をそうっと開いた。

「ありがとう。リーザ様もそのほうが痛くないはずだ」
「んっ」

 奥深くまで、閣下のものがねじこまれる。
 わたしはぎゅっと目をつぶり、体が裂けぬことだけをひたすら祈った。

「う、う、も、これ以上、無理……」
「大丈夫です、ほら」

 なだめるような口調で閣下がおっしゃって、わたしの硬くなった胸の尖端をキュッ、とつまんだ。


「ひぁっ」

 驚くほどの刺激が、体の芯に走り、わたしの体が跳ねた。

「こうすると、もっとれるはずだ」

 くわえこんだままだった閣下のものが、ぐいっとわたしの奥を突いた。

「あ、あ、こんな深いの、ムリ……っ」

 わたしは涙にれた顔を隠すのも忘れて、閣下の腕を必死に握りしめる。

「なんて素直な可愛らしいお体をなさっているんだろう、リーザ様は」

 閣下が、わたしを貫いたまま、わたしの体をぎゅうっと抱いた。そしてわたしの頭に優しく頬ずりし、再び動きだす。
 くちゅくちゅという音が聞こえる。わたしの秘所が閣下のものをめているみたいで、たまらなく恥ずかしい。

「閣下、これ、恥ずかしいっ……やめ、て」

 閣下が大きな手でわたしの顔を包み、口づけをしてくださった。
 どうようもなく体がほてる。くちゅり、とひときわ大きな音が、わたしの足の間から響いた。

「ん、う、うっ」

 先程よりも情熱的に舌を絡められ、わたしはただ閣下を受け入れた。体を貫く閣下のものが、大きくて熱くて、少し怖い……

「リーザ様は、私とこうするのはお嫌か」
「え、い、嫌じゃない……怖い、だけ……」

 怖いのはたしかだが、大丈夫かもしれない。
 こんなに奥まで閣下を受け入れても、怪我一つしていないではないか。
 わたしは思いきって、閣下の背中に手を回した。すると、閣下は小さく笑う。

「よかった。私もあなたをもう離したくない」
「んっ、ふ……」

 再び閣下に口づけられ、わたしは目をつぶった。口内に差し入れられた舌を、同じように絡め返す。

「ん、うっ、ふぅ……ぅ」

 淫猥いんわいな水音が激しさを増した。わたしは背を反らして、閣下の口づけを無我夢中で受け止める。閣下の指が優しくわたしのももを開き、わたしたちはより一層、深く絡み合う体勢になった。
 閣下の巧みな動きで体を上下に揺さぶられながら、内壁を幾度も擦られる。わたしはその甘い刺激に耐えた。

「あ、ああ……この音、恥ずかし……」

 くちゅくちゅという音が、静かな部屋に響き渡って、たまらなく恥ずかしい。わたしは足の間に力をこめ、なんとかその音を止めようとむなしい努力を続けた。

「ひあぁ、っ、は、っ、やだ、大き……」

 痛みよりも、体のなかで膨らむ熱を持て余すことのほうが、苦しくなってきた。
 閣下のことを、愛おしく感じる。この体を閣下の好きにしてほしい。

「ああ、あ……っ、あ、っ、閣下の、熱い、ぃ……」
「リーザ様、ああ、なんてお可愛らしい方なんだ」

 どろどろにとろけた体の芯から、みつがとめどなく溢れる。
 どれほどの時間、閣下に抱かれていたのだろう。
 朦朧もうろうとしたわたしの耳元で、不意に閣下が「すまん」とつぶやく。
 わたしのなかの閣下のものが硬くこわばり、どぷ、と熱いものが弾けた。

「んぁ、あ、あ、あぁぁっ」

 わたしは叫びながら閣下の体にすがりついた。閣下はわたしを苦しいくらいに力強く抱きしめてくださる。
 しばらくして、彼の腕の力がそっと緩んだ。

「すまんな、リーザ様、手荒にして……つい、夢中になりすぎた」
「だいじょうぶ、です」

 閣下に体を預けたまま、わたしはかすれた声で小さく答えた。
 必死で泳いでようやく陸にい上がったときのような疲労感が、わたしを包む。

「っ、ふ……」

 行為の最中に比べればずっと紳士的な口づけが、唇に降ってきた。
 夫となった彼の体の熱をうっとりと味わいながら、わたしは身を委ねた。
 すっぽりと『旦那様』の体に包まれて、生まれてはじめての不思議な安心感を味わう。

「リーザ様からは、本当にいい香りがするな……さ、こちらにおいで」

 わたしは素直にうなずき、旦那様の広い胸に頭をのせた。旦那様の腕が、わたしの背中をそっと抱き寄せる。
 ああ、たしかにわたし、旦那様に抱かれて眠るんだわ……
 そう思いながら、わたしは目を閉じた。



   第二章


 旦那様と一緒に、王都の公邸から国境の街ローゼンベルクへやってきて、三日。わたしは順調にこの街での暮らしに慣れはじめている。
 ローゼンベルクは王都からとても遠かった。砕氷さいひょう船に乗って海を渡り、一週間も旅したの。この海路が最短経路なんですって。
 ここカルター王国は、大陸から東に突き出した半島だ。大陸に接する西側に山脈が連なり、残りの三方は海に面している。『国境』と呼べる場所を有するのは、西の山脈の合間に位置する国最北の地ローゼンベルクの街だけ。
 旦那様は、西のレアルデ王国、極北地方に広がる大氷原との国境を守る将軍閣下というわけ。
 国境を長年守り続けている旦那様は、すごく頭がいいし、将軍としての能力がばつぐん。最強なのに威張らないところなんて、本当に素敵な人だなって思う。
 人に厳しいお兄様も、旦那様のことは信用なさっているみたい。
 そんな旦那様と一緒に船に乗るのは、楽しかったなぁ。
 新婚旅行みたいだってうきうきしていたら、あっという間にローゼンベルクに着いちゃった。
 旅を思い出しながら居間で機嫌よく旦那様の襟巻きをたたんでいたら、庭の門が開く音がした。

「旦那様、お帰りなさいませ!」

 わたしは玄関から、雪の積もったお庭に飛び出す。
 仕事を終えて戻ってきた旦那様が顔を上げた。無表情だった彼は、わたしを見ると優しい顔になる。

「リーザ、変わりはなかったか」
「はい!」

 リーザと呼び捨てにされて、なんだかもじもじしながら、わたしは表情を緩める。
 リーザ。そう。わたしは旦那様のリーザになったの。
 旦那様のたくましい腕を取って、暖かな居間に引っ張っていく。

「こら、リーザ。あまり急ぐな」

 わたしは旦那様を振り向いてほほえみ、背伸びをして彼の頬に口づけをした。
 ひげが少しチクチクする。わたしの心に、かすかな快楽が湧く。
 このなんとも言えない心地よさは、旦那様に触れたときにしか感じない。旦那様がわたしに教えてくださったものだ。

「リーザ。ここは王都と違って治安がよくないから、家の外に勝手に出ないように」
「はい、わかりました」

 力いっぱい抱き寄せられ、わたしは旦那様の胸に頬を押し付ける。
 肩のあたりが、ひんやりと冷たかった。

「あの……お寒かったでしょう……」
「え? ああ、雪がすごかったからな」
夕餉ゆうげは取られましたの」
「うん、兵や将官たちと食べた」

 こちらに来てから、旦那様はいつも外でご飯を召し上がって、家に戻られる。
 わかっていたけど、今日はまだだといいなと淡い期待を抱いていた。
 地元の女性たちがわたしを訪ねて、この地方のスープの作り方を教えてくれたのだ。スープは信じられないくらいおいしく作れた。
 雪の下に生える辺境の珍しいキノコをたくさん入れたスープ。
 旦那様にも食べてもらいたかったが、食事が済んでいるなら仕方がない。

「どうした」
「いいえ」

 わたしは首を横に振りつつ、居間に入った。
 そうしたら、旦那様は鼻をひくつかせて、厨房ちゅうぼうに足を踏み入れる。

「あ、おいしそうなものがあるな」

 旦那様は鍋のふたを開け、わたしを見た。

「リーザが作ったのか」
「は、はい!」
「じゃあ食べようかな」

 薄い水色の目を細め、ほほえみかけられる。わたしは天にも上る心地でスープを温めて、カップによそった。
 最近は爆弾作りを忘れるくらい幸せで、毎日が夢のよう……
 機嫌のいいわたしを、旦那様がそっと抱き寄せてくれた。彼の体の熱が、わたしに伝わる。

「あの、スープは?」

 抱擁ほうようを解いてもらえず、わたしはおずおずと旦那様を見上げた。

「旦那様、あの……」
「スープはあとでもらおう。まずは、リーザを味わってからだ」

 わたしはあまりの恥ずかしさに、うつむいた。
 でも……わたしも、そのほうが嬉しいかも……


 寝台で唇を塞がれ、服を脱がされる。気づけば、わたしは旦那様にまたがっていた。
 どうしよう。こんなふうに旦那様の上にのるのははじめてだ。
 いつもと違う体勢に戸惑い、わたしは旦那様を体のなかに受け入れつつ、目を泳がせた。

「どうした」

 旦那様のお声は優しいけれど、どこかからかっているようにも聞こえる。

「ん……っ、あ、あのっ」

 旦那様の肌に触れているだけで、体の芯がしっとりとれてきた。
 わたしのすごく深いところを、旦那様は容赦なく突きあげてくる。
 身をくねらせたくなるほどの気持ちよさだ。
 震える腕で熱い胸にすがりつき、わたしは上から旦那様の顔を覗きこんだ。

「あの、旦那様。わたし、旦那様にのるの、上手にできているでしょうか……」
「動いてくれないと、わからないな」

 旦那様は意地悪だ。
 わたしは口をへの字にし、旦那様にまたがったまま、おずおずと体を前後させた。
 体のうずきに合わせて、みだらな声がれてしまいそうになる。
 旦那様の分厚い肩をつかんで、必死に声をこらえた。
 屋敷に来てすぐに教えてもらったことを思い出し、旦那様に聞く。

「あ、あの、旦那様、……っ、んっ、このお屋敷、壁薄いんでしょう?」
「薄いよ、見るからに薄いだろう」

 旦那様がのどを鳴らした。からかわれているのはわかる、のに、体が……

「ひ……っ、あ、ああっ」

 旦那様にお尻をつっとでられ、体温が上がる。もっと旦那様が欲しくなり、わたしはひたすら不器用に腰を動かした。ふだん旦那様がしてくださるように、抜き差しをしてみようとする。
 だが途中で、乳房がみっともないくらい揺れていることに気づき、慌てて片手で隠した。
 下から胸を見られるなんて、恥ずかしすぎる。

「リーザ、なぜ隠す。最高の眺めだったのに」
「あ、の、恥ずかしい、から」
「ほら、もっとその美しい足を開いて、私を気持ちよくしてくれ」
「やあ……っ、そんなの、できませ……ん、あっ、あっ、ああ……」
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