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これも騒ぎの元にならなければ良いのだが……
しおりを挟む二次転職の方向性も決まり、ここからは個人的にクエストを進めていかなければならない。
大半が会話クエストなので、手を貸すことは出来ないから仕方が無いだろう。
それぞれの職業に転職担当者がいるので、その人と話してから順を追って行けば、問題無く転職はできるはずだ。
しかし、問題なのはビショップへの転職を予定しているルナである。
彼女の転職担当は、初期村であるアイリオ村にいる。
そのため、現在ラビアンローズが張り込みをしている初心者エリアへ、頻繁に行かなければならないのだ。
こればかりは、どうしようもないので、全員でクエストを受注する初期村へ行くかどうか相談していたところ、またしてもヴォルフが意外な提案をしてくれたのである。
転職の担当官は月の女神を祀る神殿にいる神官であり、他の神官でも同じようなことが出来るはずだと言うのだ。
転職に関わることに、此方の世界の神々がオーディナルから頼まれて力を貸しているという設定だから、おかしな話では無い。
普段は入ることが出来ない神殿関係に入る事が出来るのなら、それも可能なのだろうか。
「その月の女神を祀る神殿へ、俺たちでも入ることが出来るのか?」
一応進入禁止エリアというか、門扉にたどり着いても何のアクションもない場所なのだが……
「ああ。幼なじみがそこにいるので、話はすぐに通せる。問題は無いだろう」
そう言って、ヴォルフは誰かに通話をしはじめ、すぐさま片耳を手で押さえる仕草をするが、慣れている様子からいつもの対応なのだろうと苦笑を禁じ得ない。
相手は相当元気が良い人物なのか、声が所々漏れ聞こえてくる。
まあ、これだけ元気よく大きな声を発する相手であったら、耳も塞ぎたくなるだろう。
俺も、綾音との通話はそんな感じだしな……
ヴォルフと通話をしている可愛らしい声の主は、俺たちが来るのを楽しみにしているということで、此方としても有り難い。
「聞こえていた通り、OKだそうだ。元気が良すぎる相手ではあるが、腕は確かだから問題はないだろう」
うんざりした様子でそう言ったヴォルフは、深く溜め息をついた後に、月の女神を祀る神殿へ案内してくれるようだった。
とりあえず、それぞれの転職クエストを進めるという話だったのだが、月の女神を祀る神殿に興味を覚えたことから、全員でお邪魔することにしたのである。
テオドールたちに挨拶をしたあと、白の騎士団の訓練場から外へ出て北東に向かう間、他の者たちとの接触も無く、とても綺麗に整えられた石畳を踏みしめて雑談をしながら歩いていたのだが、神殿が近づくにつれ、神聖な銀色の輝きを宿すオブジェが目立つようになってきたことに気がついた。
清らかな水が流れる小川を、白い大理石のような石とガラスのような透明度を誇る水晶で出来た橋を渡り、正面にそびえ立つ青銀色をした大きな門へ辿り着く。
見る者を圧倒するほどの美しさを持った月の女神を祀る神殿は、白と銀を基調とした美しくも荘厳な作りで、何度見ても凄いな……と、息をのんでしまうほどだ。
「これはヴォルフ様。お話はお伺いしておりますので、中へどうぞ」
門番の男は、ヴォルフを見て会釈をしたあと、俺たちにも柔らかい笑みを浮かべて中へ招き入れてくれた。
うわ……月の女神を祀る神殿にプレイヤーが入るのって、初めてだったりするのか?
これも騒ぎの元にならなければ良いのだが……
そんなことを考えながらも、導かれるままに歩を進める。
外観とあまり変わらない造りの内装を眺め、誰もが圧倒されて言葉少なくヴォルフの後ろについて歩いていたのだが、随分と奥まで行くようだ。
神殿に勤める者たちから会釈をされながら長い廊下を渡りきり、大きな扉がある部屋に辿り着くと、ヴォルフが声をかける。
それと同時に、音も無く扉が消失した。
え……?
いや、扉が消えたんだけど……?
みんな想定外だったのだろう。
ヴォルフ以外が唖然としていると、とても可愛らしくも元気な声が響いたのである。
「まあ、ヴォルフお兄様。そちらの方々が、巷で有名な冒険者様たちなのですね! はじめまして、私はマリアベルと申します。【聖女】の称号を持つカーラー家の次女です」
長くふんわりとした青銀の髪、大きなピンク色の瞳、まるで綿菓子で出来たかのような可愛らしい少女がそこにいた。
うわ……これは、人気が出そうなキャラクターだな。
絶対に親衛隊が出来るレベルだぞ。
どこぞのギルマスとは違い、まごうこと無き美少女だ。
「ビショップへの転職を希望されている方がいると、ヴォルフ兄様から聞きましたが……」
「あ、はいっ! すみません。私はルナティエラと申します。私がビショップへの転職を希望しております。この度は、無理を言って申し訳ございません」
「いえいえ、お気になさらず! こうして会えて、とてもうれしいです。うわぁ……凄く魂が綺麗な方ですね。ヴォルフ兄様が気に入るわけです」
「何も言っていないが?」
「それくらいわかります。ヴォルフ兄様が、とても気にかけているのですもの」
「そうか?」
「視線が口ほどにものを言う方ですから、言葉にしなくてもバレバレです」
うふふっと笑いヴォルフを見上げる彼女は、ルナを見た後に此方を見て微笑んだ。
「とても良い輝きを持つ方々ばかりで、お友達になりたいくらい!」
「え? じゃあ、お友達になりましょー! 性格が良い美少女なら大歓迎!」
「本当ですかっ!? じゃあ、連絡先は……」
うちの妹が遠慮なさ過ぎて怖い。
いや、コミュ力があるというのだろうか。
呆れてしまうが、こういう面が凄いと正直に思う。
ヴォルフはアーヤに呆れ顔だが、こうなると思っていたのか口を挟むつもりは無いようだ。
「リュート様、無事に転職が出来そうです」
「良かったな。初心者エリアへ行かせるのは正直言って、マズイって思っていたから安心した」
「これもヴォルフ様のおかげです、ありがとうございます」
「いいや。気にしなくて良い」
アーヤやチルルたちと連絡先を交換していたマリアベルは、いつの間にか此方をジーッと見つめていたかと思うと、一言───
「三角関係?」
何故、そういう考えに至ったのかわからないが、俺やルナが言葉の意味を理解出来ずにぽかんとしていたら、ヴォルフが心底呆れた声で「違う」と言ったのが、とても印象的であった。
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