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(今日こそは……絶対に素直になって見せるわ)
国に魔王討伐という多大なる貢献を果たした勇者パーティの弓使いにしてアーゼンベルグ伯爵家の長女であるフェリシア=アーゼンベルグは決意の中にあった。
共に旅してきた仲間であり、祖国・イースディール王国の第二王子。そしてずっと頼れる勇者であったユリウスに自分の想いを告げるという決意の中に……。
きっと自分の事は妹分のようにしか思っていないであろうことも知っている。フェリシア自身、旅の中でもその扱いが嫌でわざわざユリウスに突っかかっていた節があったのも自覚している。
でも、やっと魔王を討伐して平和になったのだ……。平和になった世界では自分自身も少しは穏やかに――素直になってみよう。彼に好きと伝えて、自分の気持ちに向き合ってみようと……そう思っていたのだ。
だがしかし、ここ数日間の結果は惨敗。ユリウスが話しかけてくるたびにツンとした態度で余計な厭味を言ってしまう始末だった。このままでは、好きだと伝える以前に嫌われてしまうかもしれない……そう焦っていた。
だから今度こそ――。
そう決意して、王宮の中の自身に宛がわれた客室を出た。
「あの……ユリウスは――――」
「ユリウスう?アイツならなんか買い物があるっつって、朝の鍛錬後はすぐに城下町の市場に向かったぞ」
「そう。ありがとう、ダリア」
当然ながら約束などはしていないので、フェリシアはユリウスの居場所など知らない。だから一番可能性がありそうな王宮の騎士向けに建てられた鍛練場に真っ先に向かった……が、結果は会話通り。出鼻をくじかれた。でもそんな彼とはまだ顔を合わせないという事態に少し安心してしまう自分自身がいることにフェリシアは心の中で嘲笑した。
ダリアと呼ばれた壮年の髭面の男性は同じく勇者パーティに所属していた格闘士の男である。粗雑そうに見えて、案外面倒見が良い事もあって、フェリシアはよく彼に相談していた……主にユリウスのことを。
だから彼はフェリシアが誰にも悟られないようにひた隠しにしていたフェリシアのユリウスに対する気持ち唯一知っている人間なのだ。
「ふ……まあ、頑張れよ。フェリシア」
「うん。頑張ってくる」
不器用ながらも応援してくれるダリアに笑顔を向ける。彼の応援で再び決意を固めながら、城下町に向かった。
***
城下町は先日行われた魔王討伐を祝したパレードの余韻も冷め切らずに浮足立っていた。
ところどころでパレードの話や魔王が討伐されて平和になったこと、勇者の話などで未だに盛り上がっていた。そんな雰囲気に少し鼻が高くなる。パレードは勇者と聖女以外は強制参加ではなかった。
なのでフェリシア自身が目立つのが苦手なのもあり、参加していなく、その他の勇者パーティのメンバーも参加したがらなかったために、主に勇者であるユリウスとフェリシアの妹である聖女が全面に出てパレードは盛大に行われた。
実際に当日は国内外から勇者と聖女の姿を一目見ようと、沢山の人々が訪れた。皆、人種・性別関係なく喜び合い、パレードは大いに盛り上がった記憶は新しい。
とにかく、フェリシアはそれに参加はしなかった。それ故にフェリシア自身の知名度は殆どない。だからフェリシアが普通に外出していても、特に何かを言われることもないが、それでよかった。
街が賑わっているのを尻目にユリウスの姿を探す。こんなに賑わっている中でもフェリシアには簡単にユリウスを見つけ出せる自信があった。弓を使っていただけあって、元々目はかなり良いのだ。それに、ユリウスの容姿はかなり目立つ。この国の天姿国色と言われていた王妃の息子というだけあって、かなり見目麗しく、金糸を紡いだかのような金の髪の毛は遠くからでもよく見える。
それに加えて先日のパレードでの知名度もある。きっと彼の周囲は人で賑わっていることだろう。人当たりの良さもあって彼は国民からもかなり人気があり、王宮にいようが街にいようが基本的に人に囲まれていた。
きっと今日もそうなのだろう……。そんな光景が簡単に思い浮かんで思わず笑みが浮かぶ。
そうしてまた暫く歩くと、予想通り街の人たちに囲まれていたユリウスは簡単に見つかった。
国に魔王討伐という多大なる貢献を果たした勇者パーティの弓使いにしてアーゼンベルグ伯爵家の長女であるフェリシア=アーゼンベルグは決意の中にあった。
共に旅してきた仲間であり、祖国・イースディール王国の第二王子。そしてずっと頼れる勇者であったユリウスに自分の想いを告げるという決意の中に……。
きっと自分の事は妹分のようにしか思っていないであろうことも知っている。フェリシア自身、旅の中でもその扱いが嫌でわざわざユリウスに突っかかっていた節があったのも自覚している。
でも、やっと魔王を討伐して平和になったのだ……。平和になった世界では自分自身も少しは穏やかに――素直になってみよう。彼に好きと伝えて、自分の気持ちに向き合ってみようと……そう思っていたのだ。
だがしかし、ここ数日間の結果は惨敗。ユリウスが話しかけてくるたびにツンとした態度で余計な厭味を言ってしまう始末だった。このままでは、好きだと伝える以前に嫌われてしまうかもしれない……そう焦っていた。
だから今度こそ――。
そう決意して、王宮の中の自身に宛がわれた客室を出た。
「あの……ユリウスは――――」
「ユリウスう?アイツならなんか買い物があるっつって、朝の鍛錬後はすぐに城下町の市場に向かったぞ」
「そう。ありがとう、ダリア」
当然ながら約束などはしていないので、フェリシアはユリウスの居場所など知らない。だから一番可能性がありそうな王宮の騎士向けに建てられた鍛練場に真っ先に向かった……が、結果は会話通り。出鼻をくじかれた。でもそんな彼とはまだ顔を合わせないという事態に少し安心してしまう自分自身がいることにフェリシアは心の中で嘲笑した。
ダリアと呼ばれた壮年の髭面の男性は同じく勇者パーティに所属していた格闘士の男である。粗雑そうに見えて、案外面倒見が良い事もあって、フェリシアはよく彼に相談していた……主にユリウスのことを。
だから彼はフェリシアが誰にも悟られないようにひた隠しにしていたフェリシアのユリウスに対する気持ち唯一知っている人間なのだ。
「ふ……まあ、頑張れよ。フェリシア」
「うん。頑張ってくる」
不器用ながらも応援してくれるダリアに笑顔を向ける。彼の応援で再び決意を固めながら、城下町に向かった。
***
城下町は先日行われた魔王討伐を祝したパレードの余韻も冷め切らずに浮足立っていた。
ところどころでパレードの話や魔王が討伐されて平和になったこと、勇者の話などで未だに盛り上がっていた。そんな雰囲気に少し鼻が高くなる。パレードは勇者と聖女以外は強制参加ではなかった。
なのでフェリシア自身が目立つのが苦手なのもあり、参加していなく、その他の勇者パーティのメンバーも参加したがらなかったために、主に勇者であるユリウスとフェリシアの妹である聖女が全面に出てパレードは盛大に行われた。
実際に当日は国内外から勇者と聖女の姿を一目見ようと、沢山の人々が訪れた。皆、人種・性別関係なく喜び合い、パレードは大いに盛り上がった記憶は新しい。
とにかく、フェリシアはそれに参加はしなかった。それ故にフェリシア自身の知名度は殆どない。だからフェリシアが普通に外出していても、特に何かを言われることもないが、それでよかった。
街が賑わっているのを尻目にユリウスの姿を探す。こんなに賑わっている中でもフェリシアには簡単にユリウスを見つけ出せる自信があった。弓を使っていただけあって、元々目はかなり良いのだ。それに、ユリウスの容姿はかなり目立つ。この国の天姿国色と言われていた王妃の息子というだけあって、かなり見目麗しく、金糸を紡いだかのような金の髪の毛は遠くからでもよく見える。
それに加えて先日のパレードでの知名度もある。きっと彼の周囲は人で賑わっていることだろう。人当たりの良さもあって彼は国民からもかなり人気があり、王宮にいようが街にいようが基本的に人に囲まれていた。
きっと今日もそうなのだろう……。そんな光景が簡単に思い浮かんで思わず笑みが浮かぶ。
そうしてまた暫く歩くと、予想通り街の人たちに囲まれていたユリウスは簡単に見つかった。
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