私の片思い中の勇者が妹にプロポーズするみたいなので、諦めて逃亡したいと思います 【完結済み】

皇 翼

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ユリウスは丁度、装飾品を扱う店から出てきた直後のようで、心なしか機嫌が良さそうだ。こちらに丁度背を向ける様な場所にいるので、まだフェリシアには気づいていない。

「ユリウ――――」
「いやー、彼女さんの色をあしらった指輪でプロポーズだなんて、勇者様……いや殿下もロマンチストですね~」

フェリシアが心の中で”素直に”という言葉を十回ほど呟いた後、ユリウスに声を掛けようとした時、隣にいた従者と護衛を兼ねているらしい男がそう発した。

彼女?指輪、プロポーズ……?

いきなりの情報に混乱して、頭の中が単語で意味を拾おうとする。全ての言葉を繋げて理解するのには少し時間を要した。
ユリウスは彼女なんていたの?指輪を渡してプロポーズするほどの……。でも、あんな忙しい旅の中でそんな素振りなんて全くなかった。では、私が彼と出会う前からの仲とか?

数秒間は呼吸すらも止まり、結論を急いで出そうと脳が処理を進めるが、フェリシア自身の心が理解することを拒否した。ソレを認識することがただただ怖い。
そんなことをしている内にユリウスは指輪の何かを確かめるように日の光に照らし、箱に入れて手に持っていた物を見つめる。普通なら見えないであろう大きさの物なのに、普通よりも良い視力が今だけは憎らしい。その上無意識に全神経が瞳に集中する。
見えてしまう……見たくなんてないのに。花と葉が上品にあしらわれたデザインの中心で光る石の色は――――――――。

翠色…………。

フェリシアは父親似のストロベリーブロンドの髪に深海の様に深い蒼色の瞳をしている。あの指輪の色とは大違いだ。だが一つだけ思うところがあった。あの色は、あの翠は……フェリシアの妹にして同じパーティーの聖女を務めたイリスのものとそっくりだった。
ではユリウスはイリスと恋仲だったというのか……。でもよく考えると腑に落ちる答えだった。確かにあの二人はたまに二人きりで消えることはあった。それに旅の時は二人は兄妹みたいに仲が良いなと思っていたが、もしかしたらあの距離の近さも恋仲だったからなのかもしれない。自分たちに遠慮してのあの距離だったのか。そこまで考えていると、心が抉られるように痛んだ。

だってイリスになんて勝てっこない。フェリシアよりも2つ年下のイリスは昔からフェリシアとは真逆の性格で、誰にでも愛想が良いし、なによりも可愛い。周りの皆にも……両親にも優しく、愛されて育っていた。フェリシアはどれだけ頑張っても、勉強の事でも武術の事でもいつも両親に厳しく叱られて――。

両親がフェリシアの愛想のなさを心配して作ったフェリシアの元・婚約者だった者でさえ、イリスに惹かれて婚約解消をしてくれと頭を下げてきたということもあった。それ以降は婚約者という鎖に縛られることなく、自由に生きることができるようになったので、一時期は妹に感謝の念すら抱いていたのだが。

それ故両親には将来が心配だと言われる始末。
それに国にイリスが聖女に選ばれた時もそうだった。イリスはよっぽど愛されていたのか聖女に選ばれた時も心配され、両親らには”必ずイリスを守ってやってくれ”と言われた覚えがある。昔からなんでもそうだ。

皆はいつでもイリスを選んで、イリスを大切にする……フェリシアではなく。

でも魔王討伐を目指す勇者パーティーに入って、ユリウスだけが二人を平等に扱ってくれた。どちらにも同じように優しかった。そんな分け隔てなく接してくれる彼だったからこそ、段々と好きになっていったのに――――。

でも、結局ユリウスも選んだのはイリスだった。

それはそうか。誰だって愛想のないツンツンした女よりも、いつでも愛想がよくて笑顔だけで他人を癒せる女性を選ぶに決まっている。それに勇者と聖女だなんて、お似合い以外の何物でもない。

フェリシアは所詮、敗北が確定している負け試合を独りで演じる道化だったのだ。

いきなりの失恋にフェリシアは思わずその場に崩れ落ちた。ユリウスを囲む民たちは皆、勇者で自国の王子である彼のプロポーズという事態に祝福モードで彼に夢中になっているため、フェリシア一人がこんな状態にあっても気付く者などいない。
そうして放心している内に、ユリウスの背中は遠ざかって行った。

今までどうして考えなかったのだろうか。彼に大切な人がいるという可能性を。妹の事を想っているという可能性を――。

自分の今までのこの想いは報われることのない……むしろちっぽけで詰まらない無駄なものだったのだ。こんな想いを抱いていたことが恥ずかしいとすら感じてしまう。

でも、これまでの恋心が無駄なものだったのだと考えると、涙が溢れてきた。人がある程度捌けた道で思い切り泣きじゃくってしまう。フェリシア自身も情けないと思いながらも、涙は止まらなかった。それくらいにショックだったのだ。
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