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17(ユリウス視点4)
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剣を構え、相手と向き合う。お互いに持っているのは練習用に刃が潰されているものと言えど、間合いを取って対峙するこの瞬間はいつも緊張感が張り巡らされる。
自分の心臓の音が五月蠅いくらいに耳の奥で木霊する。それでも嫌な緊張感ではないのが不思議だ。むしろ戦いに対する高揚感の方が勝る。
一陣の強い風が吹いたのを皮切りに剣撃が混じり合った。
******
「お疲れさん、ユリウス」
「ああ。鍛練に付き合ってくれてありがとう、ダリウス」
思い切り打ち合って、疲れた俺は訓練場の地面に倒れ伏していた。それなりに高齢なのにパーティの一人だったダリア。公爵家の当主という重要な立場がありながらパーティに選ばれた実力は伊達ではない。
こうして鍛練を重ねていても、未だに彼には勝てる気がしないのだ。それは間合いの取り方、剣の捌き方と言った基本的な事からも見て取れるが、何よりも大きな差は実戦経験だ。いくら魔王討伐での旅で実戦経験を積んだからと言って一朝一夕で超えられるようなものではない圧倒的な高さの壁が俺達の間には存在するのだ。
けれど……だからこそ彼から学べることは多い。それ故に、旅が終わった今でも彼にはこうして時々鍛錬に付き合ってももらっている。
「さて……と。もう一回打ち合うか?」
「う゛う、それは流石に勘弁してくれ。お前のペースに付き合ってたらこっちの体力が持たない」
「なんだよ、根性ねえな!!フェリシアの方が根性あるんじゃねえのか?」
フェリシアは剣の道は既に捨てた筈なのに、時々ここに来ては一日中鍛練をしているという話はよく聞く。彼女はかなりの努力家なのだ。そんな風に真面目で一生懸命なところも俺が彼女を好きになったところの一つでもあるのだが。
「それはあるかもしれない、が。でもそれだけじゃなくて今日はちょっと予定があるんだ」
「予定?帰還してからプラプラしてるお前が?」
プラプラとは心外だ。これでも一応は王子兼勇者としての仕事はきちんと果たしていた……その合間にフェリシアにちょっかいを掛けていただけで。
「プラプラって……。まあ、いいさ。ちょっと街に、ね」
「そうか。気をつけろよ」
「ああ。行ってくる」
訓練場に仮設されているシャワー室で鎧を脱ぐ。鎧の中は下に着ていたシャツや下着にまでベタリと汗が染み付き、気持ちが悪い。
今の俺はきっとかなり汗臭い筈だ。
(彼女にも臭いだなんて思われたくないしな)
昔は大して気にしていなかった自分の体臭。そんなものまで気にしてしまう自分に気づいて笑う。それだけ彼女のことが大切なのだ。
それらの汗を丁寧に洗い流し、普段着に着替えた後、早速街に向かった。
******
街に降りると、すぐにたくさんの人に囲まれる。一応は王子であり、勇者でもあるという立場から衛兵3人ほどを伴ってはいるがそれでも抑えきれないくらいの人数だ。
少し前に凱旋パレードとやらをやらされてから、街に降りる度にこれは日常の光景と化していた。慕われているというのは確かに嬉しいが、これは勇者として無事に魔王を倒したからだ。
同じ様に討伐に出たのに、失敗した第一陣の勇者パーティについて考えると、あまり喜べなかった。第一陣の彼は――――そこまで考えて、ハッと我に返る。今日は暗い気分になっている場合ではないのだ。なにせ今日はずっと完成を待っていたモノを取りに行くのだ。
フェリシアに渡すための指輪。
旅から帰ってきた直後に思い立ったソレは完成までにそれなりの時間を要した。なにせ世界に二つとない特別仕様なのだ。
護り石……そう呼ばれるらしい。その指輪に使用した石には強力な守護の魔術と俺の魔力を組み込み、色も魔力で彼女の色に染め上げたのだ。元々、魔法が苦手な俺はソレを造るまでにかなりの時間と労力を要したが、フェリシアのことを思うと、それすらも楽しい時間に変わった。そうしてできた護り石……それは彼女の瞳の色を模した深い青に光り輝く。それに加えてとある仕掛けを施した俺の最高傑作だ。
護り石というのは基本的に加工が必須な装飾品には使用されない。何故なら、加工時の魔力に影響されてしまうからだ。だからイースディール国内で加工時に魔力を使わないという職人の中でも熟練の者を探し出し、やっと見つけ出した一軒。街の中でも少し奥まった場所にあるその店は、ひっそりとそこに佇んでいた。
衛兵の内二人は外に待機、一人だけを連れて店内に足を踏み入れる。扉を開けた瞬間、店独特の油と金属の匂いが鼻を突く。嗅ぎなれない臭いに少し顔をゆがめながらも眉間の皺が深い老年の店主に話しかけた。
「注文していた指輪を取りに来たのですが……」
今は普段着とは言っても俺の顔は知れ渡っている。老人は何故俺の様なものがここにと思ったのだろう。最初は訝し気にこちらを見ていたが、”指輪”と口にしたところで得心がいったようで、すぐに店の奥に消えた。
指輪の注文をした時に受けてくれたのは若い青年だったので、きっとあの青年は店番で、先程までここにいた老人が加工職人なのだろう。
ガラスケースを眺めらがら老人の帰りを待っていると、一緒に入ってきた衛兵がソワソワしていることに気づく。
「どうした?体調でも悪いのか?」
「い、いえ……そうではなく。その一つ伺ってもいいですか?」
「構わないが」
「その……指輪ってまさか女性への贈り物だったり――」
そこまで聞いて、彼がソワソワしていた理由を察する。勇者である俺の恋愛系の話題を期待しているのだろう。それは期待ではなく、事実だから否定する理由もない。
「そうだよ。俺の大切な女性に贈る指輪だ」
あくまで贈る予定だが。
「彼女の色に染め上げた特別な石を使っているんだ」
ここまで言ってしまうと、ついでのように自慢してしまう。本当は彼女がどれだけ素晴らしい女性なのかについても語りたかったが、そこまで惚気る前に老人が帰ってきた。
「受け取れ」
不愛想にそう言われ、箱を手渡される。中を見てみると俺が創った護り石に注文通りの装飾が施された指輪が入っていた。
百合の花とその葉をモチーフに、フェリシアに似合いそうな上品な仕上がりになっていた。
「良い品だ……感謝する」
予想以上の仕上がりに職人に軽く感謝の気持ちを伝えながらも、心の中は既にフェリシアがこの指輪をつけた時の姿の妄想が頭を占めていた。そのまま衛兵を連れて店から出る。
「いやー、彼女んさんの色をあしらった指輪でプロポーズだなんて、勇者様……いや殿下もロマンチストですね~」
店から出た瞬間、一緒に中に入っていた衛兵が話しかけてきた。店から出て緊張の糸が切れたからなのか、妙に声が大きく、”プロポーズ”という言葉につられてかまた人が集まってきたが、今回は特には気にならなかった。
そんなことよりも、早くフェリシアに会いたい。その気持ちだけで城への帰路を急いだ。
******
補足説明と設定:
・ユリウスはフェリシアの事が好きすぎて、まだ恋人でもないのに惚気る感じのやつです。基本的に暇があれば惚気ます。その主な被害者はイリス……。
・この後出てくると思いますが、フェリシアが翠色に見間違えた原因はユリウスが施したとある仕掛けが原因ではありますね。(ギリギリネタバレではない)
・指輪のモチーフ(装飾)の百合は『永遠の愛』、『誠実な愛』だそうです。
・ついでに装飾加工を頼んだ店の料金は前払いです。←どーでもいい!
自分の心臓の音が五月蠅いくらいに耳の奥で木霊する。それでも嫌な緊張感ではないのが不思議だ。むしろ戦いに対する高揚感の方が勝る。
一陣の強い風が吹いたのを皮切りに剣撃が混じり合った。
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「お疲れさん、ユリウス」
「ああ。鍛練に付き合ってくれてありがとう、ダリウス」
思い切り打ち合って、疲れた俺は訓練場の地面に倒れ伏していた。それなりに高齢なのにパーティの一人だったダリア。公爵家の当主という重要な立場がありながらパーティに選ばれた実力は伊達ではない。
こうして鍛練を重ねていても、未だに彼には勝てる気がしないのだ。それは間合いの取り方、剣の捌き方と言った基本的な事からも見て取れるが、何よりも大きな差は実戦経験だ。いくら魔王討伐での旅で実戦経験を積んだからと言って一朝一夕で超えられるようなものではない圧倒的な高さの壁が俺達の間には存在するのだ。
けれど……だからこそ彼から学べることは多い。それ故に、旅が終わった今でも彼にはこうして時々鍛錬に付き合ってももらっている。
「さて……と。もう一回打ち合うか?」
「う゛う、それは流石に勘弁してくれ。お前のペースに付き合ってたらこっちの体力が持たない」
「なんだよ、根性ねえな!!フェリシアの方が根性あるんじゃねえのか?」
フェリシアは剣の道は既に捨てた筈なのに、時々ここに来ては一日中鍛練をしているという話はよく聞く。彼女はかなりの努力家なのだ。そんな風に真面目で一生懸命なところも俺が彼女を好きになったところの一つでもあるのだが。
「それはあるかもしれない、が。でもそれだけじゃなくて今日はちょっと予定があるんだ」
「予定?帰還してからプラプラしてるお前が?」
プラプラとは心外だ。これでも一応は王子兼勇者としての仕事はきちんと果たしていた……その合間にフェリシアにちょっかいを掛けていただけで。
「プラプラって……。まあ、いいさ。ちょっと街に、ね」
「そうか。気をつけろよ」
「ああ。行ってくる」
訓練場に仮設されているシャワー室で鎧を脱ぐ。鎧の中は下に着ていたシャツや下着にまでベタリと汗が染み付き、気持ちが悪い。
今の俺はきっとかなり汗臭い筈だ。
(彼女にも臭いだなんて思われたくないしな)
昔は大して気にしていなかった自分の体臭。そんなものまで気にしてしまう自分に気づいて笑う。それだけ彼女のことが大切なのだ。
それらの汗を丁寧に洗い流し、普段着に着替えた後、早速街に向かった。
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街に降りると、すぐにたくさんの人に囲まれる。一応は王子であり、勇者でもあるという立場から衛兵3人ほどを伴ってはいるがそれでも抑えきれないくらいの人数だ。
少し前に凱旋パレードとやらをやらされてから、街に降りる度にこれは日常の光景と化していた。慕われているというのは確かに嬉しいが、これは勇者として無事に魔王を倒したからだ。
同じ様に討伐に出たのに、失敗した第一陣の勇者パーティについて考えると、あまり喜べなかった。第一陣の彼は――――そこまで考えて、ハッと我に返る。今日は暗い気分になっている場合ではないのだ。なにせ今日はずっと完成を待っていたモノを取りに行くのだ。
フェリシアに渡すための指輪。
旅から帰ってきた直後に思い立ったソレは完成までにそれなりの時間を要した。なにせ世界に二つとない特別仕様なのだ。
護り石……そう呼ばれるらしい。その指輪に使用した石には強力な守護の魔術と俺の魔力を組み込み、色も魔力で彼女の色に染め上げたのだ。元々、魔法が苦手な俺はソレを造るまでにかなりの時間と労力を要したが、フェリシアのことを思うと、それすらも楽しい時間に変わった。そうしてできた護り石……それは彼女の瞳の色を模した深い青に光り輝く。それに加えてとある仕掛けを施した俺の最高傑作だ。
護り石というのは基本的に加工が必須な装飾品には使用されない。何故なら、加工時の魔力に影響されてしまうからだ。だからイースディール国内で加工時に魔力を使わないという職人の中でも熟練の者を探し出し、やっと見つけ出した一軒。街の中でも少し奥まった場所にあるその店は、ひっそりとそこに佇んでいた。
衛兵の内二人は外に待機、一人だけを連れて店内に足を踏み入れる。扉を開けた瞬間、店独特の油と金属の匂いが鼻を突く。嗅ぎなれない臭いに少し顔をゆがめながらも眉間の皺が深い老年の店主に話しかけた。
「注文していた指輪を取りに来たのですが……」
今は普段着とは言っても俺の顔は知れ渡っている。老人は何故俺の様なものがここにと思ったのだろう。最初は訝し気にこちらを見ていたが、”指輪”と口にしたところで得心がいったようで、すぐに店の奥に消えた。
指輪の注文をした時に受けてくれたのは若い青年だったので、きっとあの青年は店番で、先程までここにいた老人が加工職人なのだろう。
ガラスケースを眺めらがら老人の帰りを待っていると、一緒に入ってきた衛兵がソワソワしていることに気づく。
「どうした?体調でも悪いのか?」
「い、いえ……そうではなく。その一つ伺ってもいいですか?」
「構わないが」
「その……指輪ってまさか女性への贈り物だったり――」
そこまで聞いて、彼がソワソワしていた理由を察する。勇者である俺の恋愛系の話題を期待しているのだろう。それは期待ではなく、事実だから否定する理由もない。
「そうだよ。俺の大切な女性に贈る指輪だ」
あくまで贈る予定だが。
「彼女の色に染め上げた特別な石を使っているんだ」
ここまで言ってしまうと、ついでのように自慢してしまう。本当は彼女がどれだけ素晴らしい女性なのかについても語りたかったが、そこまで惚気る前に老人が帰ってきた。
「受け取れ」
不愛想にそう言われ、箱を手渡される。中を見てみると俺が創った護り石に注文通りの装飾が施された指輪が入っていた。
百合の花とその葉をモチーフに、フェリシアに似合いそうな上品な仕上がりになっていた。
「良い品だ……感謝する」
予想以上の仕上がりに職人に軽く感謝の気持ちを伝えながらも、心の中は既にフェリシアがこの指輪をつけた時の姿の妄想が頭を占めていた。そのまま衛兵を連れて店から出る。
「いやー、彼女んさんの色をあしらった指輪でプロポーズだなんて、勇者様……いや殿下もロマンチストですね~」
店から出た瞬間、一緒に中に入っていた衛兵が話しかけてきた。店から出て緊張の糸が切れたからなのか、妙に声が大きく、”プロポーズ”という言葉につられてかまた人が集まってきたが、今回は特には気にならなかった。
そんなことよりも、早くフェリシアに会いたい。その気持ちだけで城への帰路を急いだ。
******
補足説明と設定:
・ユリウスはフェリシアの事が好きすぎて、まだ恋人でもないのに惚気る感じのやつです。基本的に暇があれば惚気ます。その主な被害者はイリス……。
・この後出てくると思いますが、フェリシアが翠色に見間違えた原因はユリウスが施したとある仕掛けが原因ではありますね。(ギリギリネタバレではない)
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