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9.再会①
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私はあの後、結局一番人手が足りないということで『受付嬢』としての職に就いた。
そしてそのままギルドの宿舎にレオンと一緒に住んでいる。朝から夕方まで、受付での受注処理やらギルドに持ってこられた依頼の整理などなど、新人ではあるが、目が回るほどにやることは多かった。レオンはレオンで、ギルドに備え付けられている食堂で日中はずっと調理の手伝いをしているらしい。人数が多い故にそこも人手が足りないらしい。
私もレオンも厳しい教育に耐えられてきただけあって、能力は高かったようで、周囲からも教えてすぐに即戦力になると評判になっていた。少しだけ鼻が高い。
そうして私がギルドに加入して一週間が経ち、与えられた仕事である受付嬢にも慣れてきた頃のことだった。
その日は昼間の団員達によるクエストの達成数が多かったために処理系の書類仕事もかなり山積みになっていた。
夕方を過ぎても結局それは処理し終わらず、私は初めての残業をすることになる。そうして先輩の受付嬢と共にギルドの奥――普段は団員達の寛ぐための場所となっている1階の談話室で書類を片付けていたのだが、急に何の前触れもなく突き破るような音が耳を劈いた。
「っ――!!?」
全く何の音か分からずに、素で疑問符が口から出る。しかし他の受付嬢達は一言も声を上げることすらなく、何事もなかったかのように黙々と書類仕事を続けていた。
この時間は団員達も殆どが家に帰っているのもあり、残っていた団員たちが起こした騒ぎならば放っておけない筈だ。それに今まで聞いたことも見たこともないが、もしかしたら魔物や敵対するような人間からの襲撃なのではないか。恐ろしい考えは私だけの頭の中で広がり続けていく。
しかし私以外は何の反応も示さないのだ。妙だった。
「あの……今物凄い騒音が聞こえなかった?」
「ん~。そっかアリアは初めてだったかしら~。こんなのいつもの事よ~」
そんな彼女らを見た私は自分の耳がおかしくなったのかと不安になり、疑問をぶつける。
それに間延びした声で答える女性はエルカ。もう5年以上このギルドで受付嬢を務めているベテランだ。それ以外のメンバーも『確かに最初は驚くかもね』や『まあ、あの人にコレを直すなんて無理だから慣れるしかないしね』などと特に気にしている様子もなく普通に会話している。
「なんなら見に行ってみる~?」
「えっと……はい。気になるので見に行きたいです」
「じゃあ、行きましょうか~。少しだけ抜けるわね~」
エルカと共に談話室の扉を開け、長く広い廊下に出る。相変わらず終わりが見えない程に長い廊下。
このギルドは敵襲に備えてという理由で、迷路のように入り組んだ構造をしている。来た当初は迷いもしたが、私も今は完全に慣れた。そうして幾つかの廊下を経由して、受付カウンターのあるギルドの入り口へとたどり着く。
入り口の近くに目を向けてみると、見慣れない姿があった。薄汚れたマントのフードを深々と被った長身の人間。遠目に見ても、背はかなり高い事が伺える。
「あの人があの音の原因です~……お~~い、ロイさ~ん」
エルカがそう呼ぶと同時にロイと呼ばれた人間が此方を振り向く。こちらを見たと認識した瞬間、私はその黄金の瞳に貫かれたような感覚に囚われた。囚われたと言っても嫌な感覚ではない。むしろどこか安心するような、懐かしいような気分になってしまった自分に対して動揺する。
しかしそれ以上に動揺する事態がこの直後に起こった。
ロイと呼ばれた男は大股で私の方に歩いて来ると、その勢いのまま何故か私に抱き付いて来たのだ――。
「アリア、お嬢様っ!?本物……なんですか?」
「へ?え、何……??」
「この匂い、皮膚、髪の色、瞳の色…………!お嬢様っ!お嬢様ああぁ!!」
いきなりお嬢様と呼ばれて戸惑ってしまった私にも、お構いなしにロイは叫ぶように『お嬢様』と呼びながら、抱き着く力を強くする。まるで私が今ここにいることを確かめるようにーー。
そしてそのままギルドの宿舎にレオンと一緒に住んでいる。朝から夕方まで、受付での受注処理やらギルドに持ってこられた依頼の整理などなど、新人ではあるが、目が回るほどにやることは多かった。レオンはレオンで、ギルドに備え付けられている食堂で日中はずっと調理の手伝いをしているらしい。人数が多い故にそこも人手が足りないらしい。
私もレオンも厳しい教育に耐えられてきただけあって、能力は高かったようで、周囲からも教えてすぐに即戦力になると評判になっていた。少しだけ鼻が高い。
そうして私がギルドに加入して一週間が経ち、与えられた仕事である受付嬢にも慣れてきた頃のことだった。
その日は昼間の団員達によるクエストの達成数が多かったために処理系の書類仕事もかなり山積みになっていた。
夕方を過ぎても結局それは処理し終わらず、私は初めての残業をすることになる。そうして先輩の受付嬢と共にギルドの奥――普段は団員達の寛ぐための場所となっている1階の談話室で書類を片付けていたのだが、急に何の前触れもなく突き破るような音が耳を劈いた。
「っ――!!?」
全く何の音か分からずに、素で疑問符が口から出る。しかし他の受付嬢達は一言も声を上げることすらなく、何事もなかったかのように黙々と書類仕事を続けていた。
この時間は団員達も殆どが家に帰っているのもあり、残っていた団員たちが起こした騒ぎならば放っておけない筈だ。それに今まで聞いたことも見たこともないが、もしかしたら魔物や敵対するような人間からの襲撃なのではないか。恐ろしい考えは私だけの頭の中で広がり続けていく。
しかし私以外は何の反応も示さないのだ。妙だった。
「あの……今物凄い騒音が聞こえなかった?」
「ん~。そっかアリアは初めてだったかしら~。こんなのいつもの事よ~」
そんな彼女らを見た私は自分の耳がおかしくなったのかと不安になり、疑問をぶつける。
それに間延びした声で答える女性はエルカ。もう5年以上このギルドで受付嬢を務めているベテランだ。それ以外のメンバーも『確かに最初は驚くかもね』や『まあ、あの人にコレを直すなんて無理だから慣れるしかないしね』などと特に気にしている様子もなく普通に会話している。
「なんなら見に行ってみる~?」
「えっと……はい。気になるので見に行きたいです」
「じゃあ、行きましょうか~。少しだけ抜けるわね~」
エルカと共に談話室の扉を開け、長く広い廊下に出る。相変わらず終わりが見えない程に長い廊下。
このギルドは敵襲に備えてという理由で、迷路のように入り組んだ構造をしている。来た当初は迷いもしたが、私も今は完全に慣れた。そうして幾つかの廊下を経由して、受付カウンターのあるギルドの入り口へとたどり着く。
入り口の近くに目を向けてみると、見慣れない姿があった。薄汚れたマントのフードを深々と被った長身の人間。遠目に見ても、背はかなり高い事が伺える。
「あの人があの音の原因です~……お~~い、ロイさ~ん」
エルカがそう呼ぶと同時にロイと呼ばれた人間が此方を振り向く。こちらを見たと認識した瞬間、私はその黄金の瞳に貫かれたような感覚に囚われた。囚われたと言っても嫌な感覚ではない。むしろどこか安心するような、懐かしいような気分になってしまった自分に対して動揺する。
しかしそれ以上に動揺する事態がこの直後に起こった。
ロイと呼ばれた男は大股で私の方に歩いて来ると、その勢いのまま何故か私に抱き付いて来たのだ――。
「アリア、お嬢様っ!?本物……なんですか?」
「へ?え、何……??」
「この匂い、皮膚、髪の色、瞳の色…………!お嬢様っ!お嬢様ああぁ!!」
いきなりお嬢様と呼ばれて戸惑ってしまった私にも、お構いなしにロイは叫ぶように『お嬢様』と呼びながら、抱き着く力を強くする。まるで私が今ここにいることを確かめるようにーー。
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