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第4話
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ジルベルト視点。
(……やばい。可愛すぎる)
ジルベルトの内心は心臓が早鐘を打って破裂寸前だった。クッキーをリスのように小刻みに食べる姿。大きすぎる毛皮に埋もれて、ちょこんと顔だけ出している姿。全てが破壊的なまでに愛らしい。
彼は長年、レティアに片思いをしていた。だが、隣国の王子という立場と、自身の強面・口下手のせいで遠くから見守ることしかできなかったのだ。今日の夜会への参加も実は「レティアを一目見るため」だけに無理やりねじ込んだ予定だった。そこでまさかの婚約破棄。彼にとっては千載一遇のチャンス! いや、奇跡だった。
(クッキー、気に入ってくれただろうか。王都中の菓子屋を回って一番評判の良い店をリサーチさせた甲斐があった。それより寒くないか? もっと魔法で温めるべきか? いや、やりすぎると怖がられるか? 会話……何か会話をしなければ。でも何を話せばいい? 天気の話? いや、魔王が天気の話とか変だろ。趣味の話? 彼女の趣味は……書類整理だっけ? 渋いな……)
ぐるぐると考えすぎて結果として彼は『無言で睨みつける(見つめる)』という最悪のアウトプットを選択していた。
再び、レティア視点。
沈黙に耐えきれず私は恐る恐る口を開いた。このまま命を奪う場(魔王城)へドナドナされる前に、せめて自分の雇用条件(処遇)だけは確認しておきたい。
「あの……ジルベルト殿下」
「なんだ」
即答で声が低い。ビクッとする。
「その……私を、どうされるおつもりでしょうか?」
「どう、とは?」
「私の国では、私はもう悪女として居場所がありません。そんな私を拾って……一体、何にお使いになるおつもりですか?」
核心を突く質問。ジルベルト殿下は、ゆっくりと私の方を向き真紅の瞳を細めた。その瞳に怪しい光が宿る。
「……決まっているだろう」
彼は身を乗り出して距離が近い。整った顔が目の前に迫る。長いまつげまで数えられる距離で彼は低く囁いた。
「お前は、俺の城に必要な人間だ……ずっと、前から目をつけていた」
ヒィッ!! 『ずっと前から目をつけていた』=『以前から捕食対象としてマークしていた』!? ストーカー的な意味でのロックオンではなく、ハンター的な意味でのロックオン!
「お前のその能力(ちから)。俺のそばで、存分に発揮してもらうつもりだ」
「は、はい……! (魔力を搾り取られるんですね!)」
「逃がすつもりはない……覚悟しておけ」
「つ、つつしんで……(終身刑ですね!)」
会話が成立しているようで致命的にすれ違っている。彼は「一生愛して、王妃としての才覚を発揮してほしい」と言い、私は「死ぬまで労働力として搾取する」と受け取った。
だが、不思議と絶望感はなかった。カイル王子のように私の努力を「可愛げがない」と否定するのではなく、この魔王様は「能力」を必要としてくれている。社畜にとって「君の代わりはいない」と言われることこそが最高の麻薬なのだ。
(いいわ。どうせ捨てられた身。魔王様の贄として、骨の髄まで働いてやろうじゃないの)
私は腹を括った。恐怖で震える膝を彼のくれた毛皮が優しく温めている。なぜだろう? 彼の瞳は怖いはずなのに、どこか……雨の日に捨てられた子犬を見るような切実な色をしているように見えた。
「……到着したぞ」
ジルベルト殿下の声と共に窓の外に巨大な影が現れた。夜空にそびえ立つ尖塔の数々。青白い魔法灯に照らされたその城は、威圧的でありながら息を呑むほど幻想的で美しかった。
隣国ヴェルグラス。通称、魔導国家。そして目の前にあるのが私の新しい職場兼監獄『魔王城』である。
馬車が止まる。扉が開かれると、そこにはずらりと並んだ使用人たちの姿があった。彼らは一斉に頭を下げ声を揃えて叫んだ。
「「「ジルベルト様、おかえりなさいませ!! そして――!!」」」
そして? 生贄へようこそ、とか?
「「「未来の奥様、ようこそおいでくださいましたーーッ!!!」」」
「…………はい?」
私は固まってジルベルト殿下も固まった。彼はバッと顔を真っ赤にして使用人たちに向かって怒鳴った。
「ば、馬鹿者ッ! まだ気が早い!! いや、間違ってはいないが、その……順序というものがだな!」
慌てふためく魔王様とキョトンとする私。
(未来の……奥様? 隠語? 『奥様』って書いて『生贄』って読む地域のスラング?)
私の勘違いは国境を越えてさらに加速していくのだった。
(……やばい。可愛すぎる)
ジルベルトの内心は心臓が早鐘を打って破裂寸前だった。クッキーをリスのように小刻みに食べる姿。大きすぎる毛皮に埋もれて、ちょこんと顔だけ出している姿。全てが破壊的なまでに愛らしい。
彼は長年、レティアに片思いをしていた。だが、隣国の王子という立場と、自身の強面・口下手のせいで遠くから見守ることしかできなかったのだ。今日の夜会への参加も実は「レティアを一目見るため」だけに無理やりねじ込んだ予定だった。そこでまさかの婚約破棄。彼にとっては千載一遇のチャンス! いや、奇跡だった。
(クッキー、気に入ってくれただろうか。王都中の菓子屋を回って一番評判の良い店をリサーチさせた甲斐があった。それより寒くないか? もっと魔法で温めるべきか? いや、やりすぎると怖がられるか? 会話……何か会話をしなければ。でも何を話せばいい? 天気の話? いや、魔王が天気の話とか変だろ。趣味の話? 彼女の趣味は……書類整理だっけ? 渋いな……)
ぐるぐると考えすぎて結果として彼は『無言で睨みつける(見つめる)』という最悪のアウトプットを選択していた。
再び、レティア視点。
沈黙に耐えきれず私は恐る恐る口を開いた。このまま命を奪う場(魔王城)へドナドナされる前に、せめて自分の雇用条件(処遇)だけは確認しておきたい。
「あの……ジルベルト殿下」
「なんだ」
即答で声が低い。ビクッとする。
「その……私を、どうされるおつもりでしょうか?」
「どう、とは?」
「私の国では、私はもう悪女として居場所がありません。そんな私を拾って……一体、何にお使いになるおつもりですか?」
核心を突く質問。ジルベルト殿下は、ゆっくりと私の方を向き真紅の瞳を細めた。その瞳に怪しい光が宿る。
「……決まっているだろう」
彼は身を乗り出して距離が近い。整った顔が目の前に迫る。長いまつげまで数えられる距離で彼は低く囁いた。
「お前は、俺の城に必要な人間だ……ずっと、前から目をつけていた」
ヒィッ!! 『ずっと前から目をつけていた』=『以前から捕食対象としてマークしていた』!? ストーカー的な意味でのロックオンではなく、ハンター的な意味でのロックオン!
「お前のその能力(ちから)。俺のそばで、存分に発揮してもらうつもりだ」
「は、はい……! (魔力を搾り取られるんですね!)」
「逃がすつもりはない……覚悟しておけ」
「つ、つつしんで……(終身刑ですね!)」
会話が成立しているようで致命的にすれ違っている。彼は「一生愛して、王妃としての才覚を発揮してほしい」と言い、私は「死ぬまで労働力として搾取する」と受け取った。
だが、不思議と絶望感はなかった。カイル王子のように私の努力を「可愛げがない」と否定するのではなく、この魔王様は「能力」を必要としてくれている。社畜にとって「君の代わりはいない」と言われることこそが最高の麻薬なのだ。
(いいわ。どうせ捨てられた身。魔王様の贄として、骨の髄まで働いてやろうじゃないの)
私は腹を括った。恐怖で震える膝を彼のくれた毛皮が優しく温めている。なぜだろう? 彼の瞳は怖いはずなのに、どこか……雨の日に捨てられた子犬を見るような切実な色をしているように見えた。
「……到着したぞ」
ジルベルト殿下の声と共に窓の外に巨大な影が現れた。夜空にそびえ立つ尖塔の数々。青白い魔法灯に照らされたその城は、威圧的でありながら息を呑むほど幻想的で美しかった。
隣国ヴェルグラス。通称、魔導国家。そして目の前にあるのが私の新しい職場兼監獄『魔王城』である。
馬車が止まる。扉が開かれると、そこにはずらりと並んだ使用人たちの姿があった。彼らは一斉に頭を下げ声を揃えて叫んだ。
「「「ジルベルト様、おかえりなさいませ!! そして――!!」」」
そして? 生贄へようこそ、とか?
「「「未来の奥様、ようこそおいでくださいましたーーッ!!!」」」
「…………はい?」
私は固まってジルベルト殿下も固まった。彼はバッと顔を真っ赤にして使用人たちに向かって怒鳴った。
「ば、馬鹿者ッ! まだ気が早い!! いや、間違ってはいないが、その……順序というものがだな!」
慌てふためく魔王様とキョトンとする私。
(未来の……奥様? 隠語? 『奥様』って書いて『生贄』って読む地域のスラング?)
私の勘違いは国境を越えてさらに加速していくのだった。
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