「君は悪女だ!」と婚約破棄され、隣国の魔王王子に拾われましたが彼の溺愛が止まりません!

なすび

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第5話

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魔王城に到着してから数十分。私は、人生最大の混乱に直面していた。

案内されたのは地下牢でも実験室でもなかった。通されたのは、王城の最上階にある東向きの角部屋。床には足首まで埋まるような深紅の絨毯。天井には、魔石をふんだんに使ったシャンデリアが星空のように煌めいている。窓の外には隣国の美しい夜景が一望できた。

「……ここが、私の牢獄ですか?」

私が恐る恐る尋ねると、案内してくれた年配のメイド長サーニャがきょとんとした顔をした。

「牢獄? 滅相もございません! ここは『翡翠の間』。国賓級のお客様、あるいは……その、将来の王族の方にお使いいただく特別室でございます」 
「特別室ですか……?」

なるほど。私の脳内コンピュータが高速でログを解析する。『特別室』=『厳重監視房』。『国賓級』=『重要参考人』。逃亡を防ぐために、あえて快適な環境を与えて油断させる心理的拘束テクニックだ。前世で読んだスパイ小説にも書いてあった。

「さあさあ、レティア様。長旅でお疲れでしょう? まずはお召し替えを……その後、殿下が執務室でお待ちです」

サーニャが手を叩くと若いメイドたちが雪崩れ込んできた。彼女たちの手には、見たこともないような上質なシルクのドレスや宝石箱が抱えられている。

「殿下からの贈り物でございます。『彼女には青が似合うはずだ』と、以前からご用意されていたのですよ」 「い、以前から……?」

再び背筋が凍る。『以前から用意』=『捕獲計画は綿密に練られていた』。 やはり、私は狙われていたのだ。希少な魔力を持つ素材として!

なすがままに着せ替え人形にされ、磨き上げられ私は鏡の前に立たされた。そこには、故国では見たこともないほど美しく着飾った自分の姿があった。カイル王子の横にいた時は、「地味だ」「可愛げがない」と言われないよう必死に化粧で作り笑いを貼り付けていた。だが今の私は化粧など薄いのに肌が艶めき、瞳に力が宿っているように見える。

(……まるで、出荷前の高級フルーツね。包装紙だけは立派にして、高値で取引するつもりかしら)

覚悟を決めろレティア。次はついに、魔王ジルベルトとのだ。

 ******

重厚なオーク材の扉が開かれる。ジルベルト殿下の執務室は、壁一面が本棚で埋め尽くされていた。魔道書、歴史書、経済学書……その蔵書量は、故国の王立図書館の一角を凌ぐほどだ。

彼は巨大な執務机の向こうで書類にサインをしていた。私が部屋に入るとペンを置き立ち上がる。その威圧感たるや部屋の空気が一瞬で重くなるほどだ。

「……来たか」 
「はい。お呼びにより参上いたしました、ジルベルト殿下」

私は挨拶で膝を折るようにカーテシーを披露した。角度、速度、視線の落とし方。全てにおいて王妃教育の賜物だ。ジルベルト殿下は、眉間にシワを寄せて私を凝視している。

(うっ……減点? どこか作法が違った? 隣国流のマナー違反?)

心臓がバクバクする中、彼は一枚の羊皮紙を机の上に滑らせた。

「これに目を通せ……今後の、お前の処遇についての契約書だ」

来た! 奴隷契約書!  私は震える手で羊皮紙を手に取り文面に目を通した。

【雇用及び滞在に関する契約書】 

甲:ジルベルト・ヴェルグラス 
乙:レティア・アルドリッヒ

第一条:甲は乙に対し、城内での自由な行動権を保証する。第二条:乙は、自身の持つ知識、魔力、技術を、乙が望む範囲で自由に行使・研究することができる。第三条:甲は乙に対し、研究・生活に必要な予算を無制限に提供する。第四条:乙に課せられる義務は、心身の健康を維持することのみとする。

ん? ……は?

私は何度もまばたきをして文字を読み返した。第三条、予算無制限? 第二条、望む範囲で自由に?

「あの、殿下。これは……?」 
「不服か?」

ジルベルト殿下が不機嫌そうに(私にはそう見えた)問いかける。

「い、いえ! 不服どころか……その、罠、でしょうか?」 
「罠?」 
「『タダより高いものはない』と申します。予算無制限、義務なし……このような好条件、裏で何か法外な対価が……例えば、私の魂とか、寿命とか、初子を差し出せとか? 要求されるのでは?」

私が真剣に尋ねると、ジルベルト殿下は大きく目を見開き片手で顔を覆った。肩が震えている! 怒らせた!?
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