「君は悪女だ!」と婚約破棄され、隣国の魔王王子に拾われましたが彼の溺愛が止まりません!

なすび

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第15話

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「それを『無能』と捨てるとは……。貴国が近年、魔力不足と凶作に喘いでいる理由がわかった気がするな。見る目がない指導者を持つと、国民が不幸になるという見本だ」

ざまぁーーーッ!!  心の中でファンファーレが鳴り響く。そう、カイルの国は今、私が抜けたことで環境維持システムが崩壊しつつあるのだ。ざまぁみろ!

カイルは顔面蒼白になり口をパクパクさせている。しかし、ここで引き下がれないのが彼の愚かさだ。

「そ、そんなはずはない! これはきっと、レティアが色仕掛けで殿下をたぶらかしたんだ! この悪女め、何を吹き込んだ!」

カイルが逆上し私に掴みかかろうと手を伸ばした。その瞬間。

パキパキパキッ!

カイルの足元の床が一瞬にして凍りついた。氷の棘が喉元寸前まで迫り彼の動きを封じる。

「――その薄汚い手を、俺の宝に伸ばすな」

ジルベルト殿下の魔力が物理的な圧力となってカイルを押し潰す。会場中の気温が一気に五度は下がった。怖いけどカッコいい!

「ひっ、あ、あわわ……」 

カイルは腰を抜かし無様に床にへたり込んだ。セラフィは悲鳴を上げて隠れている。

これ以上やると、外交問題(というか一方的な虐殺)になってしまう。ここからは私の出番だ。私はジルベルト殿下の腕をそっと撫でて彼を制した。

「殿下、落ち着いてくださいませ……虫を追い払うのに、国宝の剣を使う必要はありませんわ」

私の言葉にジルベルト殿下はスッと魔力を引いた。されたカイルが屈辱に顔を歪める。

私は一歩前に進み出た。かつて私を見下していた元婚約者を今度は私が上から見下ろす形になる。

「カイル様……いえ、カイル殿下」

私は極上の営業スマイルを浮かべた。

「『なぜここにいるのか』と仰いましたね? お答えしましょう……私が、選ばれたからです」 
「選ばれただと?」 
「ええ。貴方には理解できなかった私の価値を、ジルベルト殿下は見出し、正当に評価してくださいました……貴方のおかげですわ」

私は扇子を閉じて皮肉たっぷりに感謝を述べた。

「貴方が私を捨ててくださらなければ、私はこんなにも素晴らしい方と巡り会うことはできませんでした。そして、自分の能力を活かせる『ホワイトな職場』を知ることもなかったでしょう……本当に、婚約破棄してくださって、ありがとうございます」

とどめの一撃。お前なんか未練はない! むしろ捨ててくれてラッキーだった! という宣言。

カイルのプライドは粉々に砕け散った。周囲の貴族たちからもクスクスという失笑が漏れ始める。

「おい、聞いたか?」  
「カイル王子、逃した魚が大きすぎるぞ……」 
「女神を捨てて、あんなキャンキャンうるさい小娘を選んだのか」 
「ヴェルグラス国に喧嘩を売って、自国の経済終わったな……」

四面楚歌。公開処刑の完了である。

私はジルベルト殿下の方へ向き直った。

「参りましょう殿下……虫の羽音を聞くよりも、貴方と踊りたい気分です」 
「ああ……望むところだ」

ジルベルト殿下は、カイルがへたり込んでいるのを無視して私をダンスフロアへと誘った。

音楽が始まると私たちは滑り出すように踊り始めた。猛特訓の成果が出た。私のミッドナイトブルーのドレスが旋回し星屑のような光を撒き散らす。ジルベルト殿下のリードは完璧で、私はただ身を任せているだけで宙を舞っているような感覚に陥る。

「……見事だ、レティア」

踊りながら彼が微笑む。

「あんな男、最初から相手ではなかったな」 
「ええ。でも、少しスッキリしました」 
「そうか……だが、俺はまだ足りない」 
「え?」

ターンをして彼と密着する。彼の瞳が熱っぽく私を見つめていた。

「言葉での勝利だけでは不十分だ……行動で、誰のものか知らしめる必要がある」 
「こ、行動?」

嫌な予感(期待?)がした瞬間。曲の終わり最後のポーズ(キメ)で、ジルベルト殿下は私の腰を抱き寄せ衆人環視の中で――。

私の手の甲に長く熱烈な口づけを落としたのだ。それは忠誠のキスではなく、明らかに所有と愛執を示すねっとりとしたキスだった。

「――ッ!?」

キャーーーッ!! 会場の令嬢たちが黄色い悲鳴を上げて倒れていく。カイル王子は白目を剥いて気絶した(ように見えた)。

私は顔から火が出るどころか全身発火しそうだった。

「で、殿下! やりすぎです! オプション料金が発生しますよ!?」 
「構わん。全財産払おう」

魔王様は悪戯っぽく笑った。その笑顔が、あまりにも魅力的すぎて……。   

(もう、どうにでもなれ)

私のざまぁ計画は、予想以上の大勝利(と大恥)で幕を閉じたのだった。

しかし、私たちはまだ知らなかった。この騒動の裏でセラフィは悔しそうに顔を歪めながら、ポケットから黒い魔石を取り出し何かをしようとしていた。

「……許さない。私が主役よ……魔王ごと、消えちゃえ」

国の存亡をかけた事件へと発展していく――。
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