『10年隠した執着愛。元婚約者に捨てられた私は、ハイスペ同級生の甘い檻で二度と逃げられないほど塗り潰される』

小木楓

文字の大きさ
3 / 26

第2話-1【密着】「これからは俺の専属な」

しおりを挟む
ふかふかの高級ベッドの上で、私は目を覚ました。

 天井が高い。シーツが滑らかすぎる。そして、窓から差し込む朝日が眩しすぎる。

「……夢、じゃない……」

寝ぼけた頭が覚醒すると同時に、昨夜の記憶が奔流のように押し寄せてきた。

『俺が止めてやる』 『んっ……、んんっ……!』

耳に残る低い声。

強引に塞がれた唇の感触。

舌が絡みつく濡れた音。 

カァァァッ! と一瞬で顔が沸騰する。

「な、何あのキス……っ!?」

私はクッションに顔をうずめ、バタバタと足を動かして悶絶した。

 あんなの、私の知ってる蒼じゃない。 まるでドラマのラブシーンみたいに濃厚で、慣れていて……。

(もしかして、蒼にとっては挨拶代わりなの!?)

ぐるぐると悩んでいても仕方がない。 

私は意を決してベッドから這い出し、恐る恐るリビングへのドアを開けた。

「お、おはよ……」

声をかけようとして、言葉が喉で詰まった。

「――ん? 起きたか」

そこには、上半身裸の蒼がいた。

 広いリビングの中央、クローゼットの前で、彼はまさに着替えの最中だったのだ。 

引き締まった背筋、逆三角形のシルエット、腹筋の適度な陰影。

 高校時代はヒョロヒョロだったのに、今は無駄な肉が一切ない、完璧な「男の身体」がそこにあった。

「っ!! ご、ごめんっ!」 「何逃げてんだよ。別に減るもんじゃねぇだろ」

慌てて目を覆う私を見て、彼は鼻で笑いながらワイシャツに袖を通す。

 ボタンを下から順に留めていく指先すら、妙に色っぽい。

「おはよ、萌。よく眠れたか?」 「う、うん……おかげさまで……」

直視できずにモジモジしていると、彼は鏡の前に立ち、手際よくネクタイを結び始めた。

 その表情は、あまりにも爽やかで、平然としている。

 昨夜あんなに激しくキスをしてきたのに、まるで「何事もなかった」かのような笑顔だ。

(……え。嘘でしょ?)

 (あんなことしといて、ノーリアクション? もしかして、こういうの慣れてるの……?)

エリートで、イケメンで、タワマン住み。

 女の人なんて選び放題だろうし、一夜の過ちなんて日常茶飯事なのかもしれない。 

急に胸がズキリと痛む。 私だけが意識して、バカみたいだ。

「……萌」

不意に名前を呼ばれ、ハッと顔を上げる。 

いつの間にか着替えを終えた蒼が、目の前に立っていた。

 完璧に着こなしたダークネイビーのスーツ姿。その威圧感とカッコよさに、思わず息を呑む。

「今日、シフト減らされて休みだろ?」 「え、あ、うん。そうだけど……」 「じゃあ、これ」

私の手のひらに、チャリッ冷たい金属が乗せられた。この部屋の合鍵だ。

「夕飯、何か作って待ってて。お前の飯、久しぶりに食いたい」

 「……え?」 「冷蔵庫の中身、好きに使っていいから。じゃ、行ってくる」

ポン、と大きな手が私の頭に乗せられる。 

子供扱いするような、でもどこか愛おしむような優しい手つき。 

その体温に、悔しいけれどまた心臓がトクンと跳ねてしまった。

「い、行ってらっしゃい……」

パタン、と重厚なドアが閉まる音が響く。 広いリビングに、私一人だけが取り残された。

手のひらに残る鍵を握りしめ、私は呆然と立ち尽くす。

「……商社の営業マン、だっけ」

同窓会で聞いた噂が頭をよぎる。 

海外を飛び回るエリート。推定年収1000万超えのトッププレイヤー。

昔は隣の席で教科書を忘れて慌てていた彼が、今は私が一生かかっても届かないような世界にいる。

(なんか、遠いなぁ……)

昨日のキスも、今朝の優しさも、きっと彼の気まぐれだ。 

そう自分に言い聞かせないと、期待してしまいそうな自分が怖かった。

でも、この時の私はまだ気づいていなかった。

彼が「夕飯を作って待ってて」と言った本当の意味。 

そして、今夜から始まる「家賃代わり」の条件が、私の理性を揺さぶり続けることになるなんて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。 いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。 ただし、後のことはどうなっても知りませんよ? * 他サイトでも投稿 * ショートショートです。あっさり終わります

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

その令嬢は祈りを捧げる

ユウキ
恋愛
エイディアーナは生まれてすぐに決められた婚約者がいる。婚約者である第一王子とは、激しい情熱こそないが、穏やかな関係を築いていた。このまま何事もなければ卒業後に結婚となる筈だったのだが、学園入学して2年目に事態は急変する。 エイディアーナは、その心中を神への祈りと共に吐露するのだった。

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。 学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。 しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。 挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。 パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。 そうしてついに恐れていた事態が起きた。 レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです

有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。 けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。 助けた騎士は、王の右腕。 見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。 王城で評価され、居場所を得ていく私。 その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。 「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。 選ばれるのを待つ時代は、終わった。

僕の我儘で傲慢な婚約者

雨野千潤
恋愛
僕の婚約者は我儘で傲慢だ。 一日に一度は「わたくしに五分…いいえ三分でいいから時間を頂戴」と僕の執務室に乗り込んでくる。 大事な話かと思えばどうでも良さそうなくだらない話。 ※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。

危ない愛人を持つあなたが王太子でいられるのは、私のおかげです。裏切るのなら容赦しません。

Hibah
恋愛
エリザベスは王妃教育を経て、正式に王太子妃となった。夫である第一王子クリフォードと初めて対面したとき「僕には好きな人がいる。君を王太子妃として迎えるが、僕の生活には極力関わらないでくれ」と告げられる。しかしクリフォードが好きな人というのは、平民だった。もしこの事実が公になれば、クリフォードは廃太子となり、エリザベスは王太子妃でいられなくなってしまう。エリザベスは自分の立場を守るため、平民の愛人を持つ夫の密会を見守るようになる……。

(完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?

青空一夏
恋愛
 私はラバジェ伯爵家のソフィ。婚約者はクランシー・ブリス侯爵子息だ。彼はとても優しい、優しすぎるかもしれないほどに。けれど、その優しさが向けられているのは私ではない。  私には従姉妹のココ・バークレー男爵令嬢がいるのだけれど、病弱な彼女を必ずクランシー様は夜会でエスコートする。それを私の家族も当然のように考えていた。私はパーティ会場で心ない噂話の餌食になる。それは愛し合う二人を私が邪魔しているというような話だったり、私に落ち度があってクランシー様から大事にされていないのではないか、という憶測だったり。だから私は・・・・・・  これは家族にも婚約者にも愛されなかった私が、自らの意思で成功を勝ち取る物語。  ※貴族のいる異世界。歴史的配慮はないですし、いろいろご都合主義です。  ※途中タグの追加や削除もありえます。  ※表紙は青空作成AIイラストです。

処理中です...