『10年隠した執着愛。元婚約者に捨てられた私は、ハイスペ同級生の甘い檻で二度と逃げられないほど塗り潰される』

小木楓

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第12話(最終話)-2 【夜の序章】10年分の「したかったこと」

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「……ねえ、蒼」

膝の上に乗せられた、少し不格好な手編みのマフラー。 

その温もりを指先で確かめながら、私は目の前の彼に問いかけた。

「10年……どう思ってたの? ずっと、私を待ってる間」

蒼はシャンパングラスを揺らし、少しだけ遠い目をした。

「……そりゃ、辛い時もあったよ。お前には彼氏がいたし、俺の入る隙間なんてねぇし。報われないなって、心が折れかけた夜も何度もある」

彼は苦笑いをして、でもすぐに愛おしそうに私を見つめた。

「でも……今、こうして目の前に萌がいる」 

「蒼……」 

「結果オーライだろ。……もう離さねぇから。あと60年くらいは、覚悟しとけよ」

照れくさそうに笑う彼を見て、胸がいっぱいになる。

 60年。

その言葉の重みが、今はただ嬉しい。

彼が一人で抱えてきた10年間の寂しさを、私が埋めてあげたい。 

何か、私にできる精一杯のお返しがしたい。

私は意を決して顔を上げ、少し上目遣いで彼を見つめた。

「ねぇ……」

アルコールのせいか、それとも室内の暖かさのせいか。

 身体が少し火照っているのを感じながら、私は艶っぽい声を作って囁いた。

「10年間待たせたお詫び、したいな……」

 「……え?」 

「10年間、私に……その、したかったこと。今日、全部教えて?」

私の頭の中にあったのは、失われた青春の埋め合わせだった。

 例えば、制服デートとか、映画館で手を繋ぐとか、ベタな遊園地デートとか。

 そういう「恋人らしいこと」を、これから全部叶えてあげたい。

 そんな純粋で、ロマンチックな提案のつもりだった。

――けれど。 私のその言葉は、目の前の「飢えた狼」には、全く別の意味で変換されて届いてしまった。

ガシャンッ!!

乾いた音が響き、蒼の手からフォークが滑り落ちて皿を叩いた。

「……あ、蒼?」 

「おい……萌」

蒼の動きが完全に止まっている。

 彼はゆっくりと顔を上げ、信じられないものを見るような、それでいて獲物を前にした獣のような、ギラついた瞳で私を凝視した。

「今……なんて言った?」

「え? だから、10年間したかったこと……」 

「全部、か?」

 「う、うん。全部……」

私がコクンと頷いた瞬間、蒼の瞳の奥で、カチリと何かのスイッチが入る音が聞こえた気がした。

(……あれ?)

蒼がゆらりと立ち上がる。 

さっきまでの穏やかな「恋人」のような空気は消え失せ、そこにあるのは圧倒的な「オス」の気配。

「……言ったな?」 

「えっ?」 

「撤回すんなよ。……10年分だぞ?」

蒼がテーブルを回り込み、私に近づいてくる

。 その足取りは捕食者のそれだ。

「え、ちょっ……蒼? なんか顔、怖い……」 

「怖くねぇよ。嬉しいんだよ」

グイッ! 

私の身体は軽々と持ち上げられ、そのままソファへと押し倒された。

「きゃっ!?」

 「10年間、俺が毎晩お前のこと考えて……どんなことしたかったか。どんな目で見てたか」

蒼の手が、私の太ももを這い上がり、スカートの中に侵入してくる。

 その手つきは、遊園地デートを語るような爽やかなものじゃなく、もっとドロドロとした、粘着質な欲望に満ちていて。

(えっ、ちょっと待って!? 違う! 私が言いたかったのはデートの話で……っ!)

「あ、あのね蒼くん!? 誤解が……っ!」 

「誤解じゃねぇだろ。お前から誘ったんだ」

蒼は私の耳元に顔を埋め、ゾクリとするような低い声で囁いた。

「10年分の妄想、全部現実(リアル)にしてやる。……朝まで保てよ?」

「――ッ!!?」

私の悲鳴にも似た喘ぎ声は、すぐに彼の唇によって塞がれた。 

10年分の「したかったこと」。

 それは私の想像を遥かに超える、濃厚で、激しく、そしてとろけるほど淫らな夜の幕開けだった――。




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