26 / 26
第12話(最終話)-2 【夜の序章】10年分の「したかったこと」
しおりを挟む
「……ねえ、蒼」
膝の上に乗せられた、少し不格好な手編みのマフラー。
その温もりを指先で確かめながら、私は目の前の彼に問いかけた。
「10年……どう思ってたの? ずっと、私を待ってる間」
蒼はシャンパングラスを揺らし、少しだけ遠い目をした。
「……そりゃ、辛い時もあったよ。お前には彼氏がいたし、俺の入る隙間なんてねぇし。報われないなって、心が折れかけた夜も何度もある」
彼は苦笑いをして、でもすぐに愛おしそうに私を見つめた。
「でも……今、こうして目の前に萌がいる」
「蒼……」
「結果オーライだろ。……もう離さねぇから。あと60年くらいは、覚悟しとけよ」
照れくさそうに笑う彼を見て、胸がいっぱいになる。
60年。
その言葉の重みが、今はただ嬉しい。
彼が一人で抱えてきた10年間の寂しさを、私が埋めてあげたい。
何か、私にできる精一杯のお返しがしたい。
私は意を決して顔を上げ、少し上目遣いで彼を見つめた。
「ねぇ……」
アルコールのせいか、それとも室内の暖かさのせいか。
身体が少し火照っているのを感じながら、私は艶っぽい声を作って囁いた。
「10年間待たせたお詫び、したいな……」
「……え?」
「10年間、私に……その、したかったこと。今日、全部教えて?」
私の頭の中にあったのは、失われた青春の埋め合わせだった。
例えば、制服デートとか、映画館で手を繋ぐとか、ベタな遊園地デートとか。
そういう「恋人らしいこと」を、これから全部叶えてあげたい。
そんな純粋で、ロマンチックな提案のつもりだった。
――けれど。 私のその言葉は、目の前の「飢えた狼」には、全く別の意味で変換されて届いてしまった。
ガシャンッ!!
乾いた音が響き、蒼の手からフォークが滑り落ちて皿を叩いた。
「……あ、蒼?」
「おい……萌」
蒼の動きが完全に止まっている。
彼はゆっくりと顔を上げ、信じられないものを見るような、それでいて獲物を前にした獣のような、ギラついた瞳で私を凝視した。
「今……なんて言った?」
「え? だから、10年間したかったこと……」
「全部、か?」
「う、うん。全部……」
私がコクンと頷いた瞬間、蒼の瞳の奥で、カチリと何かのスイッチが入る音が聞こえた気がした。
(……あれ?)
蒼がゆらりと立ち上がる。
さっきまでの穏やかな「恋人」のような空気は消え失せ、そこにあるのは圧倒的な「オス」の気配。
「……言ったな?」
「えっ?」
「撤回すんなよ。……10年分だぞ?」
蒼がテーブルを回り込み、私に近づいてくる
。 その足取りは捕食者のそれだ。
「え、ちょっ……蒼? なんか顔、怖い……」
「怖くねぇよ。嬉しいんだよ」
グイッ!
私の身体は軽々と持ち上げられ、そのままソファへと押し倒された。
「きゃっ!?」
「10年間、俺が毎晩お前のこと考えて……どんなことしたかったか。どんな目で見てたか」
蒼の手が、私の太ももを這い上がり、スカートの中に侵入してくる。
その手つきは、遊園地デートを語るような爽やかなものじゃなく、もっとドロドロとした、粘着質な欲望に満ちていて。
(えっ、ちょっと待って!? 違う! 私が言いたかったのはデートの話で……っ!)
「あ、あのね蒼くん!? 誤解が……っ!」
「誤解じゃねぇだろ。お前から誘ったんだ」
蒼は私の耳元に顔を埋め、ゾクリとするような低い声で囁いた。
「10年分の妄想、全部現実(リアル)にしてやる。……朝まで保てよ?」
「――ッ!!?」
私の悲鳴にも似た喘ぎ声は、すぐに彼の唇によって塞がれた。
10年分の「したかったこと」。
それは私の想像を遥かに超える、濃厚で、激しく、そしてとろけるほど淫らな夜の幕開けだった――。
---------------------------------------------------------------
短編を深く考えず読んでほしいというテーマの本作、いかがだったでしょうか?
描き足りなかった。。というところで
本作後日談を収録した【R18版】をKindle(unlimited対象です)にて配信中です。
気になる方は、プロフィールのリンク(lit.link)**から詳細をチェックしてみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
膝の上に乗せられた、少し不格好な手編みのマフラー。
その温もりを指先で確かめながら、私は目の前の彼に問いかけた。
「10年……どう思ってたの? ずっと、私を待ってる間」
蒼はシャンパングラスを揺らし、少しだけ遠い目をした。
「……そりゃ、辛い時もあったよ。お前には彼氏がいたし、俺の入る隙間なんてねぇし。報われないなって、心が折れかけた夜も何度もある」
彼は苦笑いをして、でもすぐに愛おしそうに私を見つめた。
「でも……今、こうして目の前に萌がいる」
「蒼……」
「結果オーライだろ。……もう離さねぇから。あと60年くらいは、覚悟しとけよ」
照れくさそうに笑う彼を見て、胸がいっぱいになる。
60年。
その言葉の重みが、今はただ嬉しい。
彼が一人で抱えてきた10年間の寂しさを、私が埋めてあげたい。
何か、私にできる精一杯のお返しがしたい。
私は意を決して顔を上げ、少し上目遣いで彼を見つめた。
「ねぇ……」
アルコールのせいか、それとも室内の暖かさのせいか。
身体が少し火照っているのを感じながら、私は艶っぽい声を作って囁いた。
「10年間待たせたお詫び、したいな……」
「……え?」
「10年間、私に……その、したかったこと。今日、全部教えて?」
私の頭の中にあったのは、失われた青春の埋め合わせだった。
例えば、制服デートとか、映画館で手を繋ぐとか、ベタな遊園地デートとか。
そういう「恋人らしいこと」を、これから全部叶えてあげたい。
そんな純粋で、ロマンチックな提案のつもりだった。
――けれど。 私のその言葉は、目の前の「飢えた狼」には、全く別の意味で変換されて届いてしまった。
ガシャンッ!!
乾いた音が響き、蒼の手からフォークが滑り落ちて皿を叩いた。
「……あ、蒼?」
「おい……萌」
蒼の動きが完全に止まっている。
彼はゆっくりと顔を上げ、信じられないものを見るような、それでいて獲物を前にした獣のような、ギラついた瞳で私を凝視した。
「今……なんて言った?」
「え? だから、10年間したかったこと……」
「全部、か?」
「う、うん。全部……」
私がコクンと頷いた瞬間、蒼の瞳の奥で、カチリと何かのスイッチが入る音が聞こえた気がした。
(……あれ?)
蒼がゆらりと立ち上がる。
さっきまでの穏やかな「恋人」のような空気は消え失せ、そこにあるのは圧倒的な「オス」の気配。
「……言ったな?」
「えっ?」
「撤回すんなよ。……10年分だぞ?」
蒼がテーブルを回り込み、私に近づいてくる
。 その足取りは捕食者のそれだ。
「え、ちょっ……蒼? なんか顔、怖い……」
「怖くねぇよ。嬉しいんだよ」
グイッ!
私の身体は軽々と持ち上げられ、そのままソファへと押し倒された。
「きゃっ!?」
「10年間、俺が毎晩お前のこと考えて……どんなことしたかったか。どんな目で見てたか」
蒼の手が、私の太ももを這い上がり、スカートの中に侵入してくる。
その手つきは、遊園地デートを語るような爽やかなものじゃなく、もっとドロドロとした、粘着質な欲望に満ちていて。
(えっ、ちょっと待って!? 違う! 私が言いたかったのはデートの話で……っ!)
「あ、あのね蒼くん!? 誤解が……っ!」
「誤解じゃねぇだろ。お前から誘ったんだ」
蒼は私の耳元に顔を埋め、ゾクリとするような低い声で囁いた。
「10年分の妄想、全部現実(リアル)にしてやる。……朝まで保てよ?」
「――ッ!!?」
私の悲鳴にも似た喘ぎ声は、すぐに彼の唇によって塞がれた。
10年分の「したかったこと」。
それは私の想像を遥かに超える、濃厚で、激しく、そしてとろけるほど淫らな夜の幕開けだった――。
---------------------------------------------------------------
短編を深く考えず読んでほしいというテーマの本作、いかがだったでしょうか?
描き足りなかった。。というところで
本作後日談を収録した【R18版】をKindle(unlimited対象です)にて配信中です。
気になる方は、プロフィールのリンク(lit.link)**から詳細をチェックしてみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
勝手にしろと言われたので、勝手にさせていただきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
子爵家の私は自分よりも身分の高い婚約者に、いつもいいように顎でこき使われていた。ある日、突然婚約者に呼び出されて一方的に婚約破棄を告げられてしまう。二人の婚約は家同士が決めたこと。当然受け入れられるはずもないので拒絶すると「婚約破棄は絶対する。後のことなどしるものか。お前の方で勝手にしろ」と言い切られてしまう。
いいでしょう……そこまで言うのなら、勝手にさせていただきます。
ただし、後のことはどうなっても知りませんよ?
* 他サイトでも投稿
* ショートショートです。あっさり終わります
(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。
なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと?
婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。
※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。
※ゆるふわ設定のご都合主義です。
※元サヤはありません。
その令嬢は祈りを捧げる
ユウキ
恋愛
エイディアーナは生まれてすぐに決められた婚約者がいる。婚約者である第一王子とは、激しい情熱こそないが、穏やかな関係を築いていた。このまま何事もなければ卒業後に結婚となる筈だったのだが、学園入学して2年目に事態は急変する。
エイディアーナは、その心中を神への祈りと共に吐露するのだった。
幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。
喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。
学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。
しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。
挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。
パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。
そうしてついに恐れていた事態が起きた。
レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。
今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです
有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。
けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。
助けた騎士は、王の右腕。
見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。
王城で評価され、居場所を得ていく私。
その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。
「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。
選ばれるのを待つ時代は、終わった。
僕の我儘で傲慢な婚約者
雨野千潤
恋愛
僕の婚約者は我儘で傲慢だ。
一日に一度は「わたくしに五分…いいえ三分でいいから時間を頂戴」と僕の執務室に乗り込んでくる。
大事な話かと思えばどうでも良さそうなくだらない話。
※設定はゆるめです。細かいことは気にしないでください。
危ない愛人を持つあなたが王太子でいられるのは、私のおかげです。裏切るのなら容赦しません。
Hibah
恋愛
エリザベスは王妃教育を経て、正式に王太子妃となった。夫である第一王子クリフォードと初めて対面したとき「僕には好きな人がいる。君を王太子妃として迎えるが、僕の生活には極力関わらないでくれ」と告げられる。しかしクリフォードが好きな人というのは、平民だった。もしこの事実が公になれば、クリフォードは廃太子となり、エリザベスは王太子妃でいられなくなってしまう。エリザベスは自分の立場を守るため、平民の愛人を持つ夫の密会を見守るようになる……。
(完結)家族にも婚約者にも愛されなかった私は・・・・・・従姉妹がそんなに大事ですか?
青空一夏
恋愛
私はラバジェ伯爵家のソフィ。婚約者はクランシー・ブリス侯爵子息だ。彼はとても優しい、優しすぎるかもしれないほどに。けれど、その優しさが向けられているのは私ではない。
私には従姉妹のココ・バークレー男爵令嬢がいるのだけれど、病弱な彼女を必ずクランシー様は夜会でエスコートする。それを私の家族も当然のように考えていた。私はパーティ会場で心ない噂話の餌食になる。それは愛し合う二人を私が邪魔しているというような話だったり、私に落ち度があってクランシー様から大事にされていないのではないか、という憶測だったり。だから私は・・・・・・
これは家族にも婚約者にも愛されなかった私が、自らの意思で成功を勝ち取る物語。
※貴族のいる異世界。歴史的配慮はないですし、いろいろご都合主義です。
※途中タグの追加や削除もありえます。
※表紙は青空作成AIイラストです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる