【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓

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第1章 風の悪戯、運命の始まり

第5話 蜜の尋問、嫉妬と口づけ

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豪華絢爛な東宮御所の威容は、大納言家の邸に慣れ親しんでいた香子の目には、まるで異世界の宮殿のように映った。

白砂が敷き詰められた庭は、陽光を跳ね返して眩いほどに輝き、丹塗りの柱の鮮やかさは、これから始まる「儀式」の非日常性をこれでもかと突きつけてくる。父・大納言は、その豪華さに圧倒されるどころか、これこそが自分が手にするはずの栄華の象徴であると言わんばかりの足取りで、東宮や帝への謁見へと向かっていった。

「こちらへ、姫様」

案内されたのは、宣耀殿の奥まった一室だった。 四方を美しい障壁画に囲まれ、床には厚みのある畳が敷き詰められている。香子はそこに静かに膝をついたが、体中の震えが止まらない。

(あの方が……ここにいらっしゃる。昨日、あの庭先で私を射抜いた、あの方が……)

目を閉じれば、今も顎を掬い上げられたあの指先の熱が蘇る。強引に奪われた扇。逃げ場を塞ぐような、あの鋭い眼差し。 あの時の若者が、この広大な御所の主であり、この国の未来そのものであるという事実に、香子は改めて眩暈を覚えた。

ふと、胸の奥を刺すような痛みが走る。

(中将様……頼嗣様……。今頃、どこで何を……)

宮中での噂は、風よりも早く広がる。東宮が儀式の相手に大納言家の姫を指名し、
勅命を下したという事実は、もはや公然の秘密となっているはずだ。 頼嗣は、どのような顔でその報を聞いただろう。 温和で、誰よりも香子を大切に想ってくれたあの人。争いを好まず、常に香子の歩幅に合わせて歩んでくれた彼が、東宮という絶対的な力に対し、どれほど無力感に打ちひしがれているかと思うと、胸が張り裂けそうだった。

(中将様と交わしたあの歌も、あの約束も……すべては幻だったのでしょうか)

ぽつりと、膝の上に置かれた白い手に涙が落ちた。 昨晩、月を見上げながら夢見ていた「夫婦」としての穏やかな暮らし。それが、今の自分には、あまりにも遠く、手の届かないお伽話のように感じられる。

その時、廊下の奥から、静かだが凛とした足音が近づいてきた。 侍女たちが一斉に平伏し、部屋の空気が一瞬にして凍りついたように張り詰める。

「――まだ泣いているのか。あやつを想って」

冷ややかで、しかしどこか弾んだ響きを孕んだ声。 香子が顔を上げるより早く、重厚な御簾がゆっくりと、その主の手によって撥ね上げられた。御簾が完全に上げられ、そこに現れた東宮の姿に、香子は喉の奥が引き攣れるような感覚を覚えた。



昨日の狩衣姿とは打って変わり、今の彼は気高くも重厚な装束に身を包んでいる。しかし、その端正な容貌から放たれる、狂おしいほどの熱量と支配的な空気は、昨日よりも一層色濃くなっていた。

「ひっ……」

香子は反射的に懐から扇を取り出し、顔を覆おうとした。だが、それよりも早く、東宮の長い指が彼女の手首を制した。

「隠す必要はない。……昨日も言ったはずだ。よく顔を見せろ」

抗いようのない威厳に満ちた声。香子は指先まで凍りついたように動けなくなり、ただ震えながら、伏せた睫毛を激しく揺らすことしかできない。至近距離から注がれる彼の視線は、香子の肌をじりじりと焼くような錯覚を覚えさせた。

沈黙が支配する室内で、東宮は香子の輪郭をなぞるようにじっと見つめていたが、やがてその薄い唇が、残酷な問いを紡ぎ出した。

「……中将と、契(ちぎ)っていないな?」

「――っ!?」

香子の思考が、真っ白に弾けた。 深窓の姫として、蝶よ花よと慈しまれて育った彼女にとって、それはあまりに剥き出しで、耳にするのも憚られるほどに生々しい問いだった。

「……そ、そのような、こと……」

答えようにも、言葉にならない。 顔面が、沸騰したかのようにカァッと熱くなる。白い肌はみるみるうちに朱を差し、耳朶まで真っ赤に染まった。あまりの羞恥と混乱に、香子の瞳には見る間に涙が溜まっていく。

だが、その過剰な反応が、東宮の冷徹な知性に別の意味を抱かせた。

(……この動揺は、何を意味する)

東宮の瞳の奥に、暗い嫉妬の火が灯る。 彼からすれば、この激しい赤面は「身に覚えがあるゆえの狼狽」に見えたのだ。昨日まで他の男の婚約者であった女。自分という存在がありながら、今もなお別の男の面影を追っている女。

掴まれた手首に、ぎり、と力がこもる。

「……そうか。あやつに、そこまで許していたのか」

低く、地這うような声。東宮の端正な顔が、怒りと独占欲によって一瞬、歪んだ。 しかし、彼はすぐに小さく鼻で笑うと、突き放すように香子の手を離した。

「……まあよい。今更どうでもよいことだ。あやつとの過去がどうあろうと、これからは私の影すら踏ませぬ」

その言葉は、まるで頼嗣という存在を香子の人生から完全に抹消すると宣言したかのように、冷たく響いた。

「お前は、この私に添うのだ。心も、身体も……すべて、な」
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